第一章
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それから数週間後。体育の時間に、教師が意気揚々と話を切り出した。
『よっし!皆文化祭が終わったところだがうちの高校ではこれから体育祭よォーッ!!
文化の次は体育ッ!!皆元気出してーッ!?』
『えぇー・・・・・・。』
『えぇーじゃないッ!!ほら、お楽しみのあれもあるから練習しとくのよッ!!』
この高校では文化祭のあとは体育祭を続けて行う。
どちらも涼しい時期だが文化祭の盛り上がりに比べると体育祭のモチベーションは気持ち低い。
早速練習の演目プリントが配られる。そこには♪やら☆やら書いてあって一応楽しんでもらいたいと教師なりの配慮だ。
「き、来たっ・・・!これは来たかも名無ちゃん!?」
「何がですか・・・?」
「これだよ、これっ!!」
隣の友が指差したのはフォークダンスの文字。
これには嫌悪感を示す生徒と、友のように浮かれる生徒で温度差がある。それも伝統といえば伝統だろうか。
「1年のイケメン君と踊れるチャンスじゃんッ!?あたしカルテットの中だと一番タイプなんだよねぇっ・・・・爽やか系男子っ!!」
「は、はあ・・・・・。良かったですね・・・。」
「という訳で、緊張するからさ・・・・。名無ちゃんちょっと練習付き合ってくんない!?手汗とかかいたらやだし!!」
「いいですよ、私で良ければ・・・・。」
教師の言うお楽しみとは十中八九これの事。親睦を深めるなんて名目だが親睦どころではない生徒の為のイベントだろうか。
勿論名無にはほぼ関係ない。正直関心は持てないが友人がやる気なら付き合うしかないが。
~♪
「ステップがあって・・・・。ここで、こうして・・・くるっと!」
「く、くるっと!」
「あっ、ごめん!?今どっか当たった!?」
「大丈夫です、痛くはなかったです・・・。」
フォークダンスといっても初めてなので友も名無も動きがぎこちない。
指示通りにしたいのは山々だが相手とのステップの兼ね合いもある。
『本番では色んな男女と踊るのよーッ!このままじゃ好きな子の前で恥かくわよーッ!?』
「そんな事言ったって・・・。それなら同性じゃなくて異性と踊らせてほしいかも・・・。まあ~場合に寄るかも知んないけど・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・。動きに慣れなくて・・・。」
「あ。いやいや、そういう意味じゃないんだ!
だって相手女子だと身長とかやっぱ足りないじゃん?感覚も違うだろうしさー・・・そゆこと。」
好みでない男子と踊るのは癪だが、本命の為なら踏み台にするだのと悪そうな顔でにやついていた。
そもそも適した男友達がいないとかで文句を言っても仕方がないらしいが。
「うーん・・・いっそ身内と練習もアリ、か・・・?お父さん・・・いやいや論外・・・・。
お兄ちゃん?いやいやいやッッ、もっと論外ッ!!うぅ~~、やっぱり合同練習に賭けるしかないなー。うんッ!」
「・・・・・・・。」
名無がアドバイスをする前に友の方で勝手に結論が出たようだ。
先生と踊ってみては?と言いたかったがなんとなく言ってもあまり変わりない気がした。
それよりも友の独り言で気にかかったのは身内との練習。そういう発想がなかったのでなるほど、と関心していた。
(_____________そういえばお兄様って、体育得意じゃなかったっけ・・・?
・・・・!もしかしたら、練習したいって誘えば付き合ってくれるんじゃ・・・
っ・・・・何考えてるの・・・・・。そうやってまた、薫お兄様に甘えるの・・・・?そんな事したって、何も変わらないのに・・・・。)
ただ私欲を満たしたいから兄を利用しようとしているのではないか?
手を握りたいから誘いたいだけではないだろうか?
本当の気持ちを隠して卑怯な真似をしているように感じた。
『・・・・今まで通りでいいの・・・?周りから見て変でも、薫お兄様は私と会ってくれる・・・?』
『当たり前だ・・・・。俺と名無は何も変わらねえ。』
『ほぼほぼ恋愛対象と同等に血縁者を見れるってどうかしてると思わない?嫌じゃない!?』
(・・・・・。私・・・・いつまでこんな気持ちでいるのかな・・・・。いつまで苦しめばいいの・・・?
_____そういえば・・・・私と薫お兄様は・・・・元々赤の他人同士・・・。本当の血縁者じゃない・・・・。
どうして、あの人は私の義兄なの・・・?あの人は命の恩人だけれど、どうしてもっと・・・違う形で逢えなかったの・・・・・?)
兄に拾われなかったら今がないと分かっている。でももしそうでなかったら。赤の他人だったら、などと考えてしまう。
そもそも義兄に恋い焦がれる理由は"元々赤の他人だから"でもなんら不思議はないはずだ。
けれど名無には花山組の義妹でしか知り得ないような事を知り過ぎた。極道の在り方。人の道。世間とは相容れない常識。
だからこそ義兄が好きな訳で、他人だからなんて簡単な理由では収まりきらなくなっていた。
____兄が。花山薫であり、そして自分が花山名無だからこそ。他人以上に愛おしく思える事が多すぎたから。
(・・・・・薫お兄様・・・。・・・私、やっぱりまた・・・・・。)
数日後。夜風が心地良い廊下を歩いている。
名無は考え事をしながらゆっくりと自室に向かっていた。
(・・・・あれから悩んだけど・・・・・結局どうすればいいか分からなかった・・・・。)
文化祭のことを兄に話すまでは想定内だが、フォークダンスの練習はまだ迷っていた。
その時の自分の気持ち次第。隠しても兄ならこちらの様子に勘付くだろうし、なるようになると祈るしかなかった。
「_____________・・・・・・・。
最近昼も夜も気持ちいいね。団扇も扇風機ももういらないかな?」
「・・・そうだな。」
今月も変わらず縁側に座る兄。話しかけるとやはり穏やかに笑う。その笑みが愛おしくてたまらない。
いつものように隣りに腰掛けて、いつも通りに話をする。
「この前ね、文化祭があったの。私のクラスはメイド喫茶をやったんだー。
お兄様のところは文化祭何やった?」
「・・・・・。喫茶店もやったが・・・お化け屋敷もやったな・・・・。」
「お化け屋敷かぁ。面白そう!」
「ほとんど突っ立ってるだけだったが・・・。」
「・・・・てことは、お化け役?」
無言でコクリと頷いた。大柄な身体とオーラが云々とかで満場一致で選ばれたらしい。
仮装して立ってるだけで大抵逃げていった為なかなか成功したとか。
「ちょっと見たかったかも・・・薫お兄様のお化け・・・。私だったら逃げないのになぁ。」
「それじゃあお化け屋敷にならねェ。」
「・・・ふふっ、確かに・・・・。」
逃げないどころかむしろ見惚れてしまう、と言いたかったがそれを言える勇気はなかった。
真面目に答える姿に笑いがこみ上げる。それから文化祭の話で暫く語り明かした。
「_______________それでね、最後に先生からクッキー貰ったの。
チョコチップとか色んなのがあったから、本当はお兄様にもあげたかったな・・・。」
「・・・それは俺より名無が食うもんだ。頑張ったお前にやったもんだ。」
「うん・・・・だからその場で食べたんだ。美味しかったよ。楽しい文化祭だった・・・・。」
文化祭の思い出は良いものばかり。少しだけよぎったのがその後の告白の件だったが、あまり人に喋る話ではない気がした。
それにあれは名無にとって全く面白い話ではない。悲しい話にしてしまいそうだしそっと胸にしまっておいた。
「・・・・でね、今度はすぐ体育祭があるの。騎馬戦とか徒競走とかあんまり女子の皆はやりたがらないんだけど・・・。
ところで薫お兄様は体育の成績5って聞いたんだけど、本当?」
「・・・・ああ・・・。」
「凄いなあ、流石薫お兄様。私は体育苦手だから尊敬しちゃう・・・。」
それとなく話を変えて体育祭の話へ。やはり兄を前にすると甘えたい気持ちが全面に出るとよく分かった。
文化祭の話だけで終わらすことも出来たはずなのに、結局今の話をしてしまった。
ここまで来たらやる事は一つ。
「____________・・・・ねえ、薫お兄様・・・・・。実はちょっとお願いがあるんだけど・・・・。」
「・・・・?」
「・・・・・・た、体育祭でフォークダンスを踊るんだけどね・・・・。ステップとか上手く出来なくて・・・・。
薫お兄様が時間あるならっ、その・・・・。練習に付き合ってほしいの!!」
言ってしまった。もうこれで後戻りは出来ない。
こちらを見つめる兄に途中で気恥ずかしくなって俯いてしまう。
トクリ、と鳴る心臓が身体中に響くよう。早く返事が欲しいと待ちきれない。
「・・・・・いいぜ。」
「____っ!・・・本当・・・!?」
「俺で良けりゃあ、相手になる。」
「・・・有難うっ!!じゃあプリント持ってくるね!!」
一気に身体が熱くなった。高揚感から来るものだとは思うが、普通に話しててこんなになるのも兄だからだろう。
急いで準備してたフォークダンスのプリントを持ってきて庭先へ出る。
プリントは別に見なくても頭に入ってるが一応確認の為。兄に教える為でもあり、自分もどこか間違えてたら恥ずかしいから。
「____薫お兄様はやった事ある?フォークダンス?」
「・・・いや、ねえな・・・・。俺の所ではやらなかった・・・。」
「そっか・・・。じゃあ、まず後ろに立って。・・・・で、手を添えて・・・・。」
内心兄がフォークダンスを踊ってなくてよかった。
他の女子とこういう事をしていなくて良かったなんて嫉妬めいた事を思った。
(・・・っ・・・・手、やっぱり傷だらけなんだ・・・。感触でも分かる・・・・それにやっぱり大きい・・・。)
添えられただけでも分かる手の感覚。他の手とはやはり違う。皮膚が大小の傷のせいで細かな凹凸が出来ている。
「・・・・まず最初にね、ステップがあって・・・。ゆっくりでいいから一緒に・・・こっちに1・2・・・・。」
「・・・・こうか?」
「そう。んで次は反対で・・・・。」
名無は友曰く教え上手な面がある。元はプリントに書いてある通りだが見てするより分かりやすい。
砂利を踏む音と名無の声だけが響く。
誰か来て庭先を見られたら、と一瞬思ったが夜も遅いしまず誰も来ないと言い切れる。
「ここで私がくるっと回って。・・・互いに軽く一礼するの。」
「・・・・ん。」
「______・・・・。」
礼をして、顔を上げた時。瞳に入る笑顔で優しく微笑む姿。その後ろにはちょうど綺麗な月が見えていた。
この微笑みを一人占めしている。それはとても嬉しくて、たまらなくて。
けれど兄はこんな優しい顔を誰かに見せているのだろうか?この月の光のように、他の誰かに向ける事があるのだろうか?
そんな事を思ったせいか、暫く見惚れてしまう。
「・・・・そ、それでね。手を離して、次のペアのところに行くの。この同じ事を繰り返すんだ。」
「・・・・・・。」
「・・・ペアの時間は短いけれど、音楽自体がちょっと早くて・・・・。
・・・・・だから今のを繰り返していい?まだ・・・練習したいから・・・。」
「・・・・・ああ。」
いつもと違う、兄と過ごす時間。話をして抱きしめてもらうだけでも救われていたけれど。
こうして一緒に手を握って踊れるのが他愛ない幸せだと分かる。
思いきって言って良かった。短いダンスをずっと二人だけで踊っていられるなんて、こんなに楽しい事があるだろうか。
「____・・・名無・・・。」
「・・・・何?お兄様?」
「・・・いや・・・何でもねェ・・・・。」
「・・・・?」
途中一時だけ。兄が何かを話そうとした。けれどその真意は分からなかった。
その時縁側に置いた時計が目に入って、もう少しで時間だと言いたいんじゃないか。そう思うと急に切なくなった。
(そういえば、今日の月はやたらと眩しい・・・。・・・・・何故・・・?
いつもは眩しくないのに・・・・意識すればする程、光が強い気がするっ・・・。)
この季節に浮かぶ中秋の名月は有名だ。その為か今宵はほぼ満月に近い夜だった。
名無は昔から月が好きで、ずっと見ていられる程好きだ。
太陽は直接見ると失明しかねないが、月は影響がないから。
_____だが今日の月だけは。どういう訳か抗うように、瞳を遮るように、眩しすぎた。
「・・・・・・。」
(もう・・・・・時間になっちゃった・・・・。)
ちょうどダンスも向かい合っている時。奥に見える時計の針が二人を引き離そうとする。
だから手を離して次のペアに行かなければいけない、と分かっていても手放せなかった。
「・・・・・・お兄様・・・・。私・・・・・・。」
このまま離れたくない。行かないでほしい。ずっと、ずっと手を握っていて。
言ってしまえば楽になれるだろうか。それともこの関係が壊れてしまうのだろうか。
そんな時だった。
「・・・ぁっ・・・・!」
そのまま手を引かれてすっぽりと腕の中へ。優しく頭を撫でられ、抱きしめられていた。
いつもの事なのに不意にされると心臓が高鳴って仕方がない。いや、不意でなくてもいつも高鳴ってはいる気はするが。
「名無。」
「・・・・・?」
ふと上から声がした。何かと思い、見上げてみると。やはり笑った兄の顔。
「_______体育祭、楽しんでこい。」
「______・・・・っっ!!」
この言葉に深い意味はないはず。・・・・いや、ないと信じたかったのだけれど。
もしかしたら?この『楽しんでこい』には、今までのは他の誰かと踊る為の練習と思われてしまったのでは?
自分が他と踊るのを楽しみにしているように、まさかそう見えてしまったのでは?
・・・・そうじゃない。そんな訳がない。
違うと言いたい。兄と踊りたいが為、誘い出したと言いたかった。全部自分がしたかっただけ。他なんて有り得ないのに・・・。
「・・・・うんっ・・・。」
苦く笑った。笑うしかなかった。
兄だからこそ、何もかも言えない事だったから。表面上だけでも笑うしか選択肢はなかった。
取り繕った笑顔だと見破られたくなくて、すぐ顔を伏せて兄の胸に抱きついた。
(ごめんなさい・・・・っ・・・・。お兄様を利用した、悪い子で・・・・ごめんなさいっ・・・・。)
夜が明けて、月は沈み朝が来る。日が昇り、また沈んでは夜が来る。
過ぎ行く日々の中で、手に残った温もりと言葉はいつまでも名無の中にあった。
ただ楽しめと言われただけ。そうだと思いたい。けれど勘違いされた可能性が拭えないのなら否定したかった。
あの場で否定出来たとしても、そのあとが想像出来ない。こんなにも兄に嫌われるのが怖いだなんて。こんなに辛いだなんて。
ならあそこで笑っておいて正解だった気がする。作り笑いでも、それで兄と今の距離が保てるのなら。
_____今は他に何も要らないと思えたから。
『続いては、全員参加による。フォークダンスです。生徒の皆さんは準備をお願いします。』
「本番キターッ!!!ふふふ・・・緊張はしてる・・・・してはいるけどやる気はあるッ!!よし、いけるッ!!」
「な、なんだか分かりませんが頑張って下さいね・・・友さん・・・・。」
「応よッ!!爽やかイケメンを間近で拝むのだーッ!!」
体育祭当日。演目がひとしきり終わった後の、午後の部からフォークダンスが始まる。
なんだかここだけテンションの高いように見える友。腕をぶんぶん振り回して気合い十分だ。
「____ところで友さん・・・その拝むというのはどういう感情になるんでしょうか・・・?」
「へ?どういうって・・・そのまんまだけど?」
「いえ、なんというか・・・。それって尊敬ですか?それとも愛情の類?・・・かと思いまして・・・。」
あまりにも友がこの日の為に頑張っているのを見て、何か言い知れない気持ちになっていた。
付き合う対象でもない男子と手を繋ぐ。それだけの為に心血注いでいられるのがいまいち分からないままだったから。
「・・・えっとね。いざと言われるとこれまた分かり辛いんだけど・・・・。
・・・・簡潔に言うと好きな芸能人を間近で見れて嬉しいって感覚!目の保養かな!」
「・・・・芸能人っ・・・!?・・・友さんの好きなカルテットは、そういう感覚だったんですか・・・!?」
「うんっ!人気があって、注目浴びてて。自分には手が届かないんだろうけど、近くで見れるだけ嬉しいってことよ!」
「・・・・・・・・。」
また、違う世界を友に教えられた。目の保養の意味は知っていた為新鮮な気持ちだった。
所謂憧れに近いようで似て非なる感情。芸能人の例えが凄く的を射ている。
だから遠目で見れて嬉しいとか、手を握るのに気合いを入れられる。いわばファンのような感覚だ。
『____では、ミュージック、スタート!』
~♪
全員配置に着いたところで、軽快な音楽がかかりダンスが始まった。
練習したステップを忘れてはいない。むしろあれだけ練習したのだから、忘れるはずもない。
だからか名無の頭の中はダンスに集中出来なかった。
(_____・・・・私は・・・・薫お兄様以外の男性を格好良いと思った事がない・・・。
テレビに出る芸能人でさえ、別に興味はなかった・・・。
それだから・・・?昔からお兄様しか見えていないから・・・・とても友さんの気持ちが分からない・・・。
私は薫お兄様の、ファンでいたくない。・・・・もっと特別な、あの人に寄り添えるような、強い者になりたいと願っている・・・・。
あんなに練習したのに、楽しくないよっ・・・楽しめないよ・・・。薫お兄様じゃなきゃ、本当の笑顔でいられない・・・っ!!)
幾人の男子とすれ違い、少し踊ってはまた離れ。興味や関心を持てないから、どれも皆同じに見える。
仕方がないから笑う。教師に笑顔で踊れと言われたから作った笑顔でいる。ただそれだけだ。
(・・・・どうしてこんなに強く手を握ってくる人がいるのっ・・・?
こんな事なら・・・・あの時、お兄様にももっと強く握ってと言うべきだった・・・!
・・・いけないと分かっているのに、薫お兄様っ・・・。貴方の顔が・・・・焼き付いて離れないのっ・・・・・。)
今でも思い出せるあの日の月。あの日の笑顔。そしてあの日の言葉。
思い返す度切なさで胸が苦しくなるのを感じていた。こんな事をあと何度繰り返せば、この胸の痛みは収まるのだろうか。
兄が恋しい。踊るどの手も兄の手には程遠い。
仮に大きさだけ同じでも、あんなに傷だらけで優しく握る手なんて兄しか知らないから。
~♪ ...
「_____有難うございました。」
「あ・・・・いえ、こちらこそ。有難う御座いました・・・。」
気が付くとフォークダンスが終わっていて、向かい合っていた男子が最後に一礼してきた。
急な事で驚いたので、こちらも条件反射で礼をする。他の男子はしていないところを見て、礼儀正しい人だと思った。
『ねえ、◯◯君の手どうだった?』
『てかアイツ超握ってきたし!マジ有り得なーい!』
テントに戻る途中。女子が口々に感想を言うのが聞こえた。
ふと友を探そうとキョロキョロすると、後ろからこちらに走ってくるのが見えた。
「あ、友さん。ダンスどうでした____」
「うぅう羨ましいなぁ~名無ちゃんっ!!最後踊ってた男子、あれイケメンカルテットの1年君なんだけどッ!?
ちょ、何か話してなかった!?何話したの!?」
「へっ・・・?」
夢にも思わなかったが最後の話しかけてきた男子は友の言う爽やかイケメン男子だったらしい。
羨ましいと言いながら興味津々で肩を掴まれた。
「さ、最後に『有難うございました』と向こうが・・・。
それだけで、こちらも『有難う御座いました』と言っただけです・・・。」
「くぅう~!!流石育ちの良いイケメンッ!!やはりあたしのNo.1タイプだわッ!!
・・・・あ。あたしも手は握ったけどね・・・へへ・・・・つるつるしてたぁ・・・良かったぁ・・・。」
デレデレな顔でくねくねする友。確かに芸能人ともし出会って、手を握られたらこういう反応をするのかも知れない。
けれど付き合うとなったら別。不思議な感覚だが、いずれ兄以外の好みの男性が現れたら。こうなるのも悪くないかも、なんて。
「_____・・・・良かったですね、友さん。」
「うんっ!!」
まだ考えられない、有り得ない事だと分かった上で。また不器用に笑うのだった。
Next...