第一章
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空が暮れるのが早くなり、涼しく過ごしやすい気候になってきた秋の頃。
今日は土曜日だが名無の高校では毎年恒例の文化祭が開催されていた。
キーン... コーン... カーン... コーン...
『有難う御座いましたーっ!また来年もお越しくださいませー!』
「ッッん~~~・・・!!終わった終わったァ~~ッッ!!文化祭楽しかった~・・・。
名無ちゃんお疲れ様!!」
「お疲れ様でした友さん。接客で疲れたでしょうし、少し休んでて下さい。後片付けしますから。」
「いいよいいよ~、機嫌良いからテーブルくらいは拭かせて~♪どうせ重いのは男子がやるしさ~。」
名無のクラスはチャイムとともに最後の客を送り出して片付けを始める。
思い返せば友と演劇を見たり、時には占いをしたり。クラスに戻れば喫茶店の店員でドタバタ大忙し。
名無にとっても他の生徒にとっても新鮮な経験が出来た日だったように思う。
「んふふ~♪最後のさ、窓際に座ってた先輩に接客出来て私は幸せなのだよ~♪」
「・・・・・あの背の高かった人ですか?厨房からちらっと見えましたが・・・。」
「そうそうッ!!あの御方は我が高校のイケメンカルテットの中の一人だからねッッ!!
近くで見れてちょっと喋っちゃったし・・・・んははぁ~!!たまんなぁーい!!」
「イケメン・・・カルテット・・・・?」
この手の話にはとことん疎い名無。
前から話には聞いていたがこの高校には1~3年まで特に人気の高い男子四人がいるらしい。
1年と3年に一人ずつ。2年に二人いるとかで、喫茶に来ていたのは3年の先輩なんだとか。
一言二言しか会話はしてないが近くで顔を拝めただけでどうのこうの、と友のテンションは高かった。
「・・・・・はあ・・・。これで途中余計なのが来なければ完璧だったんだけどなー・・・・。」
「えっとー・・・お兄さん・・・・・ですね・・・?」
「こんなメイドの格好してんの見られたとかやーだー!!絶対家でいじられるー!!」
それは昼の繁盛時。
厨房にいた名無まで接客に借り出されて喫茶全体が良い意味で賑わっていた時だった。
『じゃあ、ケーキセット1つね。』
『はい、かしこまりました!』
名無は慌ててテーブル番号と注文だけをメモする。お客さんの顔も見るのが接客なのだが忙しくてあまり見ていられない。
だが向こうにはバッチリこちらの名札が目に入ったらしい。
『____________その苗字・・・・君が名無ちゃんかぁ。友がいつもお世話になってます。』
『・・・・へ・・・・?』
『______・・・あァァ~~~~ッッッ!!?お兄ちゃんッッ!!??』
『よっ、友!来ちゃった!』
呆然としていると直後。後ろから聞き慣れた大声が響く。
どうやらたまたま話したのが友がよく話題にする噂の兄のようで。
友は料理を運ぶ途中だったのに兄に反応してジュースがグラスの中でぐらんぐらんと揺れている。
『来ちゃった!じゃないよ!?
・・・・名無ちゃん、こいつはあたしに任せて。今のうち3番テーブルにオレンジジュースを2つ!!』
『わ、分かりました・・・・!』
揺られたオレンジジュースを名無に半ば投げやりに押し付けて友はその後兄とわーわーと話しているようだった。
「あの時私に接客を任せれば良かったのでは・・・・?」
「いや。うちのシスコン兄貴、名無ちゃんに何聞くか分かったもんじゃない。あれはそういう目だったッ・・・!!」
「そ、そうですか・・・・。」
一見悪い人でもなさそうだし、どことなく友と明るい雰囲気が似ている男性だった。
友にとっては一大事だが名無にすれば噂の兄を見れただけ少しラッキーなイベントな気がするが。
「そういえば名無ちゃん誰か知ってる人来てた?親とか兄弟とか?」
「え・・・・。いえ、特には・・・・。」
「そりゃあ社会人は土曜日も忙しいもんねー。そうそう来ないよね、うちのお兄ちゃんじゃあるまいし。・・・はあ・・・。」
「_____・・・・・・。」
学校外の一般人も気軽に来れるのが文化祭。それも一つの醍醐味だと言うが名無には逆効果。
世話係が来られても心配をかけるだけだし、万が一花山組の一員などとバレた日にはこの学校にすら居られなくなる。
それに名無にはまだ話していないが両親はとっくに空の向こう。兄も来られるなんて夢のまた夢。
そこだけは毎年辛い思いをするのだろうか。なんて不安の種を蒔くだけだ。
「おお、そこの仲良し二人組ー!喫茶お疲れさんー!」
「・・・あ、センセーだ!」
掃除をしていると窓からひょっこり担任の教師が顔を出す。文化祭が成功したからか機嫌が良いと見た。
教師は名無と友を手招きして呼んだ。そうすると手を出して、と言ってくる。
「先生からのプレゼントだ~、ほれ!」
「うわあ・・・何これクッキー!?超美味しそう!有難うございます!」
「有難うございます!手作りですか、これ?」
「お菓子研究会の子達と先生の合作といったところかな?んはっは~!全員に配ってるんだ~!大事に食べろよ~!」
「わーい!先生やっさしぃ~☆得しちゃったねぇ~!」
(・・・これチョコチップのクッキーもある。美味しそう・・・・。
本当は・・・・お兄様にあげたいけど、今日中に食べた方がいいよね・・・。しょうがないか・・・・。)
貰ったのは色んな種類のクッキーの詰め合わせ。一口サイズだしどれもカラフルで食欲をそそる。
クッキーで真っ先に浮かんだのは兄の顔。自分で食べるより兄の方が好きなのだから、正直そっちにあげたいと内心思ったりして。
一瞬よぎってしまったが叶わぬ願い。なのでその場で友と一緒に頂くことにした。
『じゃーねー!ばいばーい!』
『また来週ねー!』
片付けも終わり、ぱらぱらと生徒が下校していく。名無達のクラスも片付けや反省会も終わり帰ろうとする。
いつも通り迎えの電話もしたし、門の前で静かに待つはずだった。
「____・・・・名無ちゃんっ、名無ちゃんっ!」
「・・・・・?どうしました?」
「ちょっ・・・こっち来て!」
だが門に向かう途中。友の様子がおかしかった。
何か慌てた様子で名無を無理やり引っ張って、校舎の影に身を潜める。
「____やっぱりそうだ・・・!告白だよ、告白っ!相手は・・・・
ああぁっ・・・!!きょ、今日来てたイケメンカルテットの先輩じゃあございませんかぁっ・・・!?」
なんと友は、小奇麗に包装された物を後ろ手に隠す女子生徒を発見。
もしや、と思い後をつけてみればビンゴ。文化祭後の告白現場というビッグニュースに辿り着いてしまったようだ。
名無もさりげなく巻き添えでなんとなく様子を観察することになってしまう。
『あ、あのっ・・・先輩・・・。これ・・・!私のお菓子研究会で作ったものなんです・・・。
先輩に食べてもらいたくって一生懸命作りましたっ!!受け取って下さいっ!!』
『・・・あぁー、くれるってんならもらっちゃうけど・・・。』
『・・・・・せ、先輩っ・・・その・・・・お返事待ってますっ!!』
『あ。ちょ・・・・。・・・・いっちまった・・・・。』
女子生徒の溜めが長かったが、会話自体はシンプルなもので終わった。
素直に「好きです」とか「付き合って下さい」がなかったものの、最後の言葉からあのプレゼントに何か告白めいたものを入れてるのは容易に想像出来た。
それはこういう物事に鈍い名無でも流石に分かる。
「・・・・す、すごい現場を見てしまったぁ・・・!名無ちゃん、これは人に言っちゃあダメだぞ?二人だけの秘密ね・・・!」
「え、ええ・・・・そうですね・・・。」
「他のあたしらにはクッキーで本命にはチョコって・・・文化祭をバレンタインと勘違いしてないかあの子・・・?
これであの先輩と付き合う事になったらやばいな・・・イケメンカルテットがイケメントリオになってしまうかも・・・。」
「・・・・友さんは、あの先輩の事を好きなのではないんですか・・・?」
それを言うとピタッと友の動きが止まる。
下を向いて表情が見えない。なんだか考え込んでるようにも見えた。
・・・聞いてはいけない事だったか?何か傷つけてしまったか?と考えを巡らせてしまう。
「______いや?イケメンはイケメンだし、あたし好きな人いないよ?付き合えたらやったー!くらいには思うけど。」
だが顔を上げた友は真顔。挙句首を傾げてあっけらかんとしていた。
名無にはこの反応がいまいち理解出来ない。
「・・・・・えっ・・・。そう、なんですかっ・・・・?だって、会話出来て嬉しいとさっき・・・・。」
「う~ん、付き合うなら顔だけじゃなく性格とか知りたいしねぇ。面食いなのは認めるけど実際付き合うとなったら別よ、別!
それにああいう場面見ちゃうと、真剣に好きな子と交際してほしい気もするしさ~。」
「・・・・・・・・。」
この質問は良かったのか悪かったのか。友はたまに名無の予想を越えた反応をしてくる時がある。
てっきり落ち込んでいるのかと思ったがそうではない。恋愛とは別の話らしい。
それなのに先程まであんなにはしゃいでいたのは何だったのか?尊敬の対象?憧れの対象?
友のイケメンというのはどのような世界に見えているのか想像できないでいた。
文化祭の日から、早いもので数週間経ったあと。
学校とは恐ろしい組織で、二人だけの秘密していたあの告白はたった2・3日で学校中に知れ渡った。
友や名無は誰にもばらしていないがどうやら告白された先輩側から情報が漏れたんだとか。
どうなってしまうのか。と名無でも少し心配してしまう。
そんな折友がビッグニュースだと言ってその件の最新情報を入手してきた。
「やっっっばいぞ名無ちゃんっ・・・イケメンカルテットは顔だけカルテットの可能性が出てきたかもっ・・・!?」
「は、はあ・・・?」
昼休憩の時間。友はお弁当の箱も開かず開口一番に旬の話題を切り出す。
友はこの手の話にノリノリだが、名無はいつも冷ややかというか少し物怖じしてしまう。
「____暫くして先輩があの告白した女子呼び出して返事したんだって。そしたらさ・・・とんでもない事が分かったんだ・・・・。」
「とんでもないって・・・。嫌な予感がしますね・・・・。」
『・・・・・なんとっ!!あの先輩マザコン野郎だったんだッッ!!』
「マザ・・・コン・・・・・。マザーコンプレックスの・・・?」
ハイテンションで話す友の概要はこうだ。
同じ校舎裏に先輩が呼び出したら先輩はとても笑顔だったらしい。
女子は期待して返事を待つ。そうしたらこう返ってきた。
『あのチョコすんげえ旨かったっ!!母ちゃんと食ったんだけど、母ちゃんもうめぇって言ってたぜ!!』
『・・・・へ・・・っ・・・?かあ・・・・ちゃん・・・?』
『だから手紙に書いてあったアレいいぜー。付き合っても!料理上手な彼女とかいーじゃん!』
『_____あのチョコ・・・・先輩にって、渡したのに・・・・・』
『え?何?』
『先輩だけに・・・・食べてほしかったのに・・・・。マザコンだったなんてっ・・・・
最っっっ低です!!!もう知りません!!この話はなかった事にしましょっ!!』
『あ、ちょ、待って!?え、えぇえー!!?』
という感じで呆れられてしまい、マザコン先輩のあだ名が今3年の一部で流行しているんだとか。
友の言う顔だけじゃなく性格も大事というのは要するにこういう事。
話してみなければどんな相手か分からないし、下手をするとマザコン男で自分が不利になるから。と名無に話した。
「・・・・・・でも・・・・。」
「んん?」
「でも何で、あの女子生徒は振ってしまったんですか・・・・?先輩も、一応チョコは食べてるし。返事もしてるのに・・・。」
だが名無の考えと友の考えではだいぶ落差があった。
マザコンという理由だけで振ってしまうのに思考が追いつかなかった。
マザコンが悪いという一般人の考えが理解出来ないのもあるが、それ以前に名無の見解はこうだ。
「・・・・その人は本当にお母さんが好きで。マザコンなのももしかしたら母子家庭だから?かも知れないじゃないですか・・・・。
それに、お母さんにも食べてもらうってことは・・・その先輩なりに考えあっての事だったのかも知れません・・・。
それこそもっと。一方的に振るのではなく、話し合って考えるべきだったのではないですか・・・・?」
「名無ちゃん・・・・。」
「_____・・・・部外者の私達が言ってももう仕方のない事ですね。こればかりは当人の問題ですから・・・。
でも私には、そういう見方があっても良かったんじゃないかって・・・・。もしもの話です・・・・。」
しょんぼりとして、食べ終わったお弁当に手を合わせる。
マザコンというのに先入観やその後の状況を決め付けできない名無らしい回答だった。
名無は人に気を使いすぎる為、人の行動や言葉をよく見てから動くのが常。
それはきっと幼い頃より植え付けられた躾や環境がそうさせたもの。一般人との感覚がずれるのはこういう些細な事からだろう。
「名無ちゃんって・・・時々凄い視点から物事見るよね・・・。あたしには出来ないや・・・・だってマザコンやだし・・・。」
「マザコンが、どうして駄目なんでしょうか・・・。私には分からないんです・・・・。」
「だって母親大好き男だよ?自分の彼女より、自分の母親基準に考えちゃってさ?
何をするにもお母さんの味~とか。お母さんがしろって言った~とかさ。絶対嫌じゃん!!そんなの!!」
「そう・・・・ですけど・・・・。けれど産みの親です・・・・。大切にしない訳がないっていうか・・・。
それはこちらも嫉妬してしまうでしょうけど、赤の他人と血縁者ですよ・・・。隙間が埋まらないのはある意味当然なのでは・・・・。」
真剣に語り合う名無と友。真っ向から対立する意見を聞いている者は誰もいない。
友は元々名無の事を変わった子だと思っていはいたが、この食い違い方には何か決定的なものがあるのでは?と勘付いていた。
「・・・・・・ねえ名無ちゃん。聞きたいんだけど、マザコンってのは母親の事を好きすぎる奴の事だよ。
それはさ、お母さんと手繋いでどっか行ったり。お母さんとずっと一緒にいたいって抜かす奴だよ。
・・・それっておかしいでしょ?普通母親と手繋ぎたいとか、一緒にいたいなんて鬱陶しい事思わないじゃん?」
「・・・・・・・。」
「ファザコンとかシスコンもそうッ。実の父親や妹とさ・・・。それこそ血縁者なのにだよ?赤の他人じゃないんだよ?
ほぼほぼ恋愛対象と同等に血縁者を見れるってどうかしてると思わない?嫌じゃない!?」
「_____・・・・そう・・・・・でしょう・・・けどっ・・・・・。」
名無の煮え切らない返事に友は珍しく深い溜め息をつく。
話が通じないというか、自らの理屈がこの子には通らないと。
そうして導き出した答えを。聞いてはいけない問いを名無に投げかけてしまった。
「_____・・・・・名無ちゃんさ。ぶっちゃけ今、好きな人いるでしょ?」
「・・・・・っ!!?」
「なんかね、誰かってのはわっかんないけど・・・・恐らくマザコン男かシスコン男辺りかな?
恋してる時ってさー。けっこう正常な判断出来なくなってる状態だから物事を真っ直ぐ見れないのよねー。
だからあたしの言う事も今は理解出来ない、したくないって感じかもだけど・・・いずれ分かるよ~?それ?」
「な・・・・・んで、そんな事言うんですか・・・・?」
「名無ちゃんの為だから・・・。シスコンのお兄ちゃん持ってるあたしが言うんだもの。女の勘だよ、勘!
あたしだって恋してる時人の意見全く聞かずに痛い目あったからさ・・・・名無ちゃんにそういう思いしてほしくないの。」
______違う。
友の言う事は正解な部分もあるが、微妙にずれている。
恋をしている相手ではなく、恋をした名無自身がそうなのだ。
有り得ない家族への恋愛感情。鬱陶しいだなんて思ったことはない。むしろ傍にいたい、もっと話したい、会いたい、触れていたい。
一般的な感情論をよりによってシスコンの兄を嫌う友に気付かれ、おまけに忠告までされてしまった。
「やめて・・・・ください・・・・・。」
「結局辛いのは自分だよ・・・?どんな相手か知らないけど、そういう事ってけっこうあるからさ。
悪い事言わないから止めときなって!名無ちゃん良い子だから探せば星の数ほど良い男いるってー!」
「友さんっ・・・・。」
「どうしても諦めきれないってんなら相談乗ってあげるからさ。
・・・・まあ、そんな悪い男に引っかかったのがそもそも何か深い理由があるのかも知れないけど・・・。」
ガタンッ!!
『_________っ!!』
大きめの音を立てて机が揺れた。顔を伏せたまま、気が付くと名無は椅子から立ち上がっていた。
クラスの喧騒の中でも、近くに座っていた生徒が何人か視線を向けている。
「名無、ちゃん・・・っ・・・・?」
「友・・・・さん・・・・・・。
このお話っ・・・・やめましょう・・・・・?」
顔を上げた名無は、怒っている訳ではなかった。
ただ今にも泣き出しそうで。けれど無理やり作った笑顔を名無に向けていた。
「・・・ごめんなさい・・・・っ!」
「あっ、ちょっ・・・!?」
感情が抑えきれなくなりその場から急いで逃げ出した。後ろから友の声が聞こえたが何を言ったかは頭に入らない。
逃げた先は女子トイレ。手っ取り早く一人になれそうな場所といったらここしか思いつかなかったから。
「_______っ・・・・うぅっ・・・!!ひっく・・・っ・・・・!!!」
扉を閉めた直後から、涙が溢れて止まらない。けれど誰か来たら泣いているのがバレる為ハンカチで必死に口元を押さえる。
あまりにも辛かった。友に言われずとも、自らがどれ程異常かなんて分かっていた。
けれど相手の言う正論を否定出来ずに、悪いのは相手ではなく自分だというのも言い出せはしない。
____________兄は何も悪くない。悪いのは自分。
頼りきって、甘えて、いつも一緒にいたいと駄々をこねたのは何時だって名無の方だから。
「・・・・・たし・・・は・・・・私、はっ・・・・・!!」
友の名無を思う気持ちも分かっている。友達思いで、自分を心配してくれているから出た言葉だと。
ただそれが全くの逆の意味だとは、きっと分かってはもらえないだろう。
(私はやっぱり悪い子なんだっ・・・・!!こんな想い、お兄様は嫌に決まってる!!薫お兄様が優しいから甘えさせてくれてるだけ!!
・・・・・あの人は優しくて、ただ義妹想いなだけっ・・・・。兄としての責務を果たしているだけだから・・・!!)
「・・・・ぅ・・・・・・!」
声を殺して涙が頬を伝っては落ち。伝っては落ち。
もうすぐ休憩終わりのチャイムが鳴ってしまうのに全く涙が止まる気配はない。
むしろ嗚咽が漏れる程泣いてしまい、扉に寄りかかり立っているのもままならなかった。
キーン・・・ コーン・・・ カーン・・・ コーン・・・
(もうチャイムがっ・・・!戻らないと・・・・!)
「・・・ひっく・・・・・うぅっ・・・・・!だめぇ・・・・もどら、なきゃ・・・!
どうしてっ・・・・・どうして止まらないのお…!?」
扉の鍵に手をかけるも力が入らない上、その手のひらにも涙がこぼれ落ちるばかりで。
結局暫くしないと涙は収まらず。泣き腫れた瞳とこんな精神で授業することも出来ないと判断してこの日は早退するしかなかった。
(薫お兄様ぁっ・・・・!迷惑ばかりかける義妹で、ごめんなさい・・・・・・!!)
家に戻っても世話係に休ませて、とだけ言い残し一日中部屋にこもった。
ここでも声は殺して泣くことしか出来ないがせめて学校よりは気持ち楽だった。
______________その翌日。
「おはよう、ございます・・・・・。」
「・・・・!」
明らかに元気はなかったが学校には来れた。
あのあと、疲れ果てる程泣けただけで気持ちは晴れたから。
「名無ちゃん・・・ごめんっ!あたし、あの場のノリで余計な事ばっか言ってっ・・・・!
無神経な事言って傷つけちゃったと思う・・・・本当ごめんっ!!」
「________大丈夫です・・・。友さんは何も悪くありません。私を思っての事だと分かってましたから・・・・。
・・・・それより、今日はテストの日ですよ?一緒に復習しましょう?」
「・・・でも・・・・・。・・・・そう、だねっ・・・・・・。
あたし小テストだからって、全然勉強してないや・・・。はは・・・あとで範囲だけでも教えてくれないかな・・・?」
「・・・・ええ。いいですよ。」
他愛の話からいつものように穏やかな笑みに戻っていた。
けれどそれが取り繕った表情だというのには友には微妙に分からなかった。
Next...