第一章
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父が亡くなって以降、花山組は二代目・花山薫を中心として本格的に動き出した。
二代目を常に事務所に置く事で安定を図った。
安全の為病弱の母や人慣れしていない名無は何人か組の者に警護させ、母屋に住まわせる事が決定した。
「嘘・・・・お兄様と離れ離れになるの・・・!?」
「名無お嬢様・・・・お辛いでしょうがご了承下さい。
これも貴方の身を思えばこそですから・・・。」
「そ、んな・・・・。」
この事を名無が受け入れるのにはわりと時間がかかった。
いつも兄の側から離れようとしない名無。
いっそ事務所に連れていった方が良いという意見もあったが常に危険が伴う為やむを得ず。
兄の説得と数日間の慰めなくしては成立しない話となった。
「薫お兄様ぁ、行かないで!!必ずお役に立ちますから、だから・・・!!」
「名無・・・・・・ずっといなくなる訳じゃねえ。たまには帰ってくる。」
「けれどっ・・・・・お兄様っ・・・・・!!」
「名無・・・・・・・・・すまねえ・・・・・・・・・・・。」
いつものように泣いてる名無を抱きしめる。
太い指で涙を拭い、大きな手で背中を撫でた。
謝る言葉に、辛いのは兄も一緒なのだと思う他なかった。
そんな折。
名無を中学校から通わせるという案が浮上し始める。
小学校の勉学は家でも問題ないしずっと温室育ちでは流石に問題がある。
花山組の将来を思うと尚の事だ。
人慣れしていない名無は外に出るのを躊躇ったが、送り迎えもついているし万が一何かあっても心配いらない程度の護身術なら教えこんだ。
組としても心配なのは同じ。
名無は仕方がないのだ、と自分に言い聞かせ。学校へ通う事になった。
「___・・・・はっ、花山名無です・・・・よろしくお願いします・・・・。」
名無の中学校生活が始まった。
学校だと名無は人に迷惑をかける事もなければ、授業態度も真剣そのもの。
成績も優秀で学年トップを争う事も何度かあった。
____ただ気がかりなのは性格面。
大人からすれば賢く偉い子なのだが、非常に大人しい名無はあまり友達も出来ず彼女の楽しみは勉強くらいしかなかった。
「薫お兄様・・・・・今頃どうしてるのかしら・・・・。」
それか家に帰って口を開けば兄の事を心配するばかり。
コミュニケーションの為に通わせたはずなのだが少し楽しみが出来た程度。
名無の本質である兄は永遠不変だった。
「・・・・名無お嬢様。
もう少し、お友達と遊びに行ったりして羽根を伸ばしても良いのですよ?」
「羽根を伸ばすって言われても・・・・皆私と遊びたがらないし・・・。」
「名無お嬢様・・・たまにはお勉強だけでなく遊んだっていいのですよ。
遊びの勉強の内です。」
「・・・・・・・・遊びも、かあ・・・・。」
世話係の言葉を聞き、学校で話題になってるゲームの一つや二つを知る気になった。
あまり気は進まなかったが雑誌も少し読み、ゲームも進めてなんとかクラスの話題についていける程度までになった。
そんなある日の事。
「_____えっと、はっ、花山さんもゲーム持ってるんだよね・・・?」
「・・・・・?貴方は・・・・・。」
一人の男子が名無に話しかけてきた。
その男子はどうにか名無と共通の話題を見つけて話したいと思っていた。
実は名無は学校内でも密かに人気がある方で、どこか気品漂う姿『高嶺の花』だった。
「それで、どこまで進んだの?」
「えっと・・・・今は本編が終わってミニゲームをやってて、一応アルティメットクリアした所かしら・・・。」
『アルティメットォ!?あれめっちゃ難しいのにどうやったの!?』
「ええっ・・・えっと、なんていうのかしら・・・。キーをガチャガチャって・・・・。」
その男子や周りの人間との会話はその時ぐらいから増えていった。
傍から見るとゲームの話題が中心ではあるが、前より少しは楽しげに見える。
少しだが名無にも笑顔が見え始めた。
そんな中、女子の間でこんな話題も飛び出した。
「___で、花山さんって好きな人とかいるの?」
「・・・・・好きな、人・・・・?」
「うんっ!もしかしてクラスのあいつ?よく話してるし!」
「あの人は・・・・ゲームの事ぐらいしか話さないです・・・・・。」
「う~ん・・・・じゃあ誰だろ?好きな人誰かってのは言わなくていいから、いるかどうかだけ教えてよ!」
話題といっても中学生は多感な時期。
相手の事情に首を突っ込みたくなるのは仕方がない。
そんな状況に名無が巻き込まれない訳がなかった。
「______私の好きな人・・・・・・。」
名無が頭によぎった好きな相手。それは____
「___花山さーん!これ、あいつが渡してくれってさ!!」
「・・・・?」
「えっ、何それ!?ラブレター!?」
「あっお前ら!!俺は花山さんに渡してんだぞー!!」
考え途中の名無に舞い込んできたのは一通の手紙。中身は男子からのラブレター。
放課後指定の場所来てくれという申し出だった。
放課後校舎裏に呼び出された名無はラブレターをくれた男子と二人っきり。
「あの・・・・話ってなんでしょう・・・・?」
「・・・・えっ・・・・えっと・・・・実は、その・・・・・。
・・・・・・俺・・・・俺っ!!
前から、てか、一目見た時から・・・・花山さんの事好きでしたぁっ!!」
「____っ・・・・!私を、好き・・・・・?」
告白した男子の顔はりんごのように真っ赤。
告白と同時に下げた頭をどこで上げたら良いかさえ分からなかった。
そんな状況を前に名無はただただ驚くばかりで。
顔は紅潮したりもせず、呆然とその場に立ち尽くした。
「・・・・・私を好きって・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・え・・・・・・えっと、花山さんっ・・・・・べ、別に今返事くれなくてもいいから!!ま、また今度聞かせて下さい!!」
「あっ、ちょ・・・・・・。」
告白して力を使い果たしてしまった男子は沈黙に耐え切れず逃げるようにその場から立ち去った。
残された名無は暫く呆然として。
我に返った後何事もなかったかのように家路についた。
「・・・・・・・恋・・・・。好きって、なんだろう・・・・・・・。」
その夜。
自室で国語辞典をパラパラとめくり、文章を声に出して読む。
「①特定の異性に強く惹かれ、会いたい、ひとりじめにしたい、一緒になりたいと思う気持ち・・・・・。
②古くは,異性に限らず,植物・土地・古都・季節・過去の時など・・・目の前にない対象を慕う心にいう・・・・。
独り占め・・・・・・。一緒になりたい・・・・・・。会いたい・・・・・・・・。慕う・・・・・・・・。」
意味を一つ一つ指でなぞり読み進めて、辿り着いた答え。
その答えで当てはまる気持ちがあの男子にはあったという事になる。
「・・・・・・・でも、これって・・・・・・・・・・。」
その文章が導き出した答えは名無自身にも当てはまる感情があった。
言葉の意味が正しければ、自分にもその相手はいると。
「・・・・・・でもっ・・・・・・・_____」
数日後。
仲の良い女子と気楽に世間話をしていた時の事。
女子のいう世間はだいたい恋の話で。
最終的には他人の恋愛事情などが結果面白いのでその話中心になる。
なので話題は名無の方へと向いた。
「___んでさぁ、結局この前の花山さんのあれ。どうなったの!?」
「えっ・・・・。この前って・・・。・・・・・告白された時の・・・・?」
「そうよそれそれ!!」
「どうなったの!?振った!?それともOKしたの!?」
「・・・・・・・・・・・。」
そこで名無が深刻な顔で切り出した話はこうだ。
「・・・・・・・・あの、私そもそも・・・・・好きってのがなんなのかいまいち分からなくて・・・・・。
告白されたんですけど・・・・・よく分からないままなんです・・・・・。」
『・・・・・・・へ?』
「・・・・・・だから、皆さん宜しければ、それがなんなのか・・・・教えてほしいんですが・・・・。」
「・・・・・・は、花山さんらしい~っ。」
「本っ当花山さんってお嬢様だよねぇ。」
「いやぁー!!なんか素敵ー!!」
口々に騒ぐ女子達の反応が名無にはよく分からない。
それだけ名無が箱入り娘のお嬢様という事もあるが、そんな事を素直に聞こうだなんて思う発想は女子達にとって想定外だ。
「んーっとねぇ・・・好きか・・・・確かに言われてみると難しいかもね・・・・。」
「そんなの簡単じゃん!相手と一緒にいて楽しいかどうかだよ!」
「えー、でもあんたアイツの事嫌いな癖にアイツの事好きじゃん!」
「しーっ!それは黙ってて!今関係ないじゃん!」
「花山さん。好きってのは難しいけど、そんなに深く考える事でもないと思うよ?」
「・・・・そうですか・・・?」
「うんっ!特定の男の子といて、ドキドキするかとか、もっと一緒にいたいとか
気になるとかそういう単純な事でいいんだよ!」
「単純・・・・・。」
色々な答えが返ってくる中、様々な事を聞いて余計に悩んだ。
実際の"好き"とは辞書に載ってる通りではないのかも知れない。
そう思い始めた時、一人の女子が切り出した。
「アタシは好きの課程って割と人それぞれだと思うなぁ。十人十色とか言うじゃん?
色んな恋の形があると思うし、一概に『これが恋。これが好き。』なんて言えないと思うよ。」
「・・・・・・好きって・・・・・そういうものですか?」
「そうだなぁ・・・。
花山さんが、告白された男子になんの感情もないならそれは多分"恋じゃない"んじゃないかな?
恋ってのは少なくとも『嫌い』とか『気になる』とか『振り向いてほしい』とか些細な事からだっていうし。」
「____・・・・・難しいんですね・・・・。」
「いやぁん、リーダー素敵ぃ!!」
「さっすが言う事が違うねぇ~!!」
「か、からかわないでよ・・・照れるじゃん・・・」
「あっ・・・昼休憩終わりそうなんでまたね!花山さん!」
「そだね、また聞かせてねー!!」
「・・・・・・・・・。」
ドタバタと駆けて行く女子達を眺めながら一人取り残された名無。
____名無の脳裏をよぎったのは紛れもない只一人の人物。
聞いて良かったと思えるようになったのは、この話を聞いてから数日経って落ち着いた頃だった。
「____ごめんなさい。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・悪いのですが、私・・・・好きな人がいるんです・・・・。
お気持ちは嬉しかったです、有難う御座いました。」
「_____い、良いです!そんなかしこまらなくって!
・・・・・・俺も、一から出直します・・・。」
告白から一週間後。
名無は男子に呼び出され、また放課後同じ場所へと来ていた。
この時既に名無の気持ちは固まっており、来て長引かせる事もなくすぐ幕を引いた。
男子は今にも泣きそうな笑いを浮かべるしかなく、影から見ていた女子達も釣られて泣きそうになっていた。
「・・・・・・あの・・・・もし良かったら、花山さんの好きな人って誰ですか・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「べ、べべっ、別に答えたくなかったらいいんです!!
ただ・・・この学校にいる誰かなのかなーって・・・。」
「・・・・・・・・・いえ・・・・この学校にはいません・・・・。詳しい事情はお話出来ませんが、他校の人です・・・・。
・・・・・・多分、私がずっと前から慕ってる人です・・・・・。・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・。」
「そう、なんですか・・・・分かりました・・・・。」
「____では、失礼します・・・。」
静かに礼をして、目線を伏せたままその場を後にした。
去っていく途中後ろから何か女子達の声が聞こえた気もしたが今の名無にはあまり関係のない事だった。
そうしていつも通り車に乗せられ家路へ着いた。
「______・・・・・え・・・・・・?」
だが家に帰った途端、思わぬ衝撃を受けた。
「___んで、二代目は?」
「ええ、ですから先程帰って行かれまして・・・・。」
「ちょっと待って・・・・。お兄様・・・・薫お兄様が来ていたの・・・・!?」
組の何人かが玄関の端でこそこそと喋る声が聞こえた。
玄関を素通りしようとした矢先、後ろで何か聞き逃してはいけない言葉を聞いた気がして。
世話係はしまった、という顔をしたがやはり名無は気付いてしまった。
「・・・・名無お嬢様。・・・・・申し上げにくいのですが、少し前に薫坊ちゃまが来られてまして・・・。」
「そんなっ!!どうして連絡して下さらなかったの!?」
「連絡と申しましても・・・それ程長居は出来ませんでしたし、用事が終わったらすぐに帰って行かれました。」
自然と目の前が霞んでいく。俯いて自分への後悔が頭を駆け巡った。
「・・・・っ、私が・・・・・私が呼び出しを無視してまっすぐ帰っていれば・・・・!!
薫お兄様に会えたのに・・・!!」
「ですがお嬢様。お友達の呼び出しだったのでしょう?
それを無視してまで会うなどと____」
「貴方達には分からないわ!!!
もうお兄様と離れてからどれくらいになるの、暫く顔すら見ていないのよ!?
学校なんてものに通いだしてからっ・・・・ろくな事がない・・・・。知らなくて良い事まで知ってしまうし
挙句薫お兄様にお話したい事さえ言い出せないままっ・・・・もう、どれだけ経つのっ・・・・!!」
この頃他所の組同士の争いが頻繁に起こっており、花山組が新しく二代目襲名とあって喧嘩をする輩も絶えなかった。
当の兄も母屋に帰れる日は稀で、喧嘩などに明け暮れていた為なかなか名無とは会えない日々が続いた。
その事情を名無も知っている。
だからこそ余計に、会いたくてもどうにもならない状況だった。
「・・・・・・・もう知りませんっ・・・・。」
「あ、名無お嬢様!!」
「待って下さい、お嬢様!!」
「来ないで!!誰も私の部屋に入らないで!!」
それから名無は自室で暫く泣き続けた。制服から着替えぬまま、ずっと部屋で泣き通した。
学校に行って知る事もかなり多かったが、自分の身を焦がすような刺激にはとても出会えぬまま。
楽しい事だって一応はあったはずなのに。喜怒哀楽色々あったのだが全てはモノクロ。
______甦るのは兄ばかり。
『おれが、絶対名無を傷つけさせないから!』
記憶をたどり、幼い頃より一緒だった兄の優しい笑顔が頭から離れなかった。
そしてその度、自分の胸を焦がし、この心に火を付けた張本人も兄なのだと言う事実が突き刺さる。
「・・・・・・・私っ・・・・・・・どうすればいいの・・・・・・・?この行き場のない気持ちをどうすればいい・・・・・?
ねえ・・・・・・・・・・・・好きです・・・・・・愛してますっ・・・・・大好きだよっ、薫お兄様ぁっ・・・・・!!!」
義理とはいえ、自分が妹であるという真実。
永遠不変の兄に心酔する理由は恋。
学校に通って気付かされたのは、そんな揺るぎない、どうしようもない真実ばかりで。
名無の兄に会いたいという願いは叶わぬまま。中学校生活を送る事となった_____
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