第一章
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それはまだ二人が幼い頃。
名無が組にもすっかり馴染んだ矢先の事だった。
他の組との抗争に父が巻き込まれ、数年後父・花山景三が討ち取られる。
母と娘・名無の静止を振り切り、息子の握撃を受け、父として、そして二代目を任せられると確信して父は死んでいった。
それから間もなく、二人の最愛だった母が病に倒れる。
まだ若いというのに髪はみるみるうちに白くなり、次第に体力も衰え美しかった姿はもうそこにはなかった。
それを兄妹ともにも悲しんだのだが、特に名無にとってはそうだった。
「お母様・・・・どうしてっ・・・・どうしてこんな事にっ・・・!!」
「・・・ごめんね名無・・・・・お母さん・・・・こんなに弱くなって・・・・・・本当にごめんね・・・・・・・。」
「お母様のせいじゃないっ・・・・病気が、病気が一番悪いの!!
お母様っ・・・私・・・お母様がいなくなったら・・・・・どうすればいいのっ・・・?私を置いていっちゃうの・・・・!?
お父様もいなくなってしまって・・・・・お母様まで・・・・嫌ッ!!そんなの嫌ぁっ!!!」
「名無・・・・・一人じゃない・・・・・貴方には、薫がついているから・・・・。」
「___お兄様がっ・・・・・。」
「・・・・・おふくろ・・・・。」
隣を見つめると辛そうな表情を浮かべる兄がいた。
「嗚呼・・・私は、幸せだった・・・・・。
出来れば名無のお嫁さん姿を見たかったわ・・・・。」
「・・・・見せれます・・・きっと、見せれますから!!だからお母様、それまでっ・・・・!!」
「・・・・そうね・・・・それまで、頑張らなきゃね・・・・・。
薫。名無の涙を受け止めてあげて・・・・そして、名無の幸せを、願ってあげて・・・・・・。」
「・・・・・・・・ああ。
・・・・・・・・絶対に護る。」
「・・・・・・・二人共。花山組を・・・・・・頼んだわよ・・・・・・・・。」
実質これが母の遺言のようなものだった。
そこからまともに喋れた期間はあまりに短く、病は早過ぎる程体を蝕んだ。
_____それから2年の時が過ぎた。
母がまだ生きていた頃、花山家では伝統の『侠客立ち』の儀式が行われていた。
背中の巨大な彫り物、侠客立ち。
花山家の象徴とも言えるもので、先代の父も、先々代からも受け継がれた彫り物だ。
二代目の背にも侠客立ちは彫られ、更に自ら望んで父の仇である組に押し入り背中を斬られる。
そうする事で侠客立ちは歪み、より完全な彫り物と化した。
花山としては二代目としての覚悟を固める誇らしい出来事だった。
だが名無にとってのそれは随分と違っていた。
名無はいつものように指定席ともいえる自室前の縁側に座り込んで遠くの空を眺めていた。
そして組に殴り込みに行った兄を心配して遠くを見たまま動こうとはしなかった。
「____名無。」
「・・・・薫お兄様っ・・・!!お帰りっ・・・体は・・・怪我は・・・!?」
「心配ねえ。」
「・・・・・良かった・・・・・お父様の仇を討ちに行ったって聞いてたから・・・・とても心配で・・・・・!!」
兄の顔を見るなり即座に立ち上がりその胸へ飛び込んだ。
名無にとって兄の胸は一番心が落ち着く場所で、いつもこうして飛び込むのが日課になっている。
その姿を見て軽く抱き締めてやる。
兄妹にしては少しやり過ぎなスキンシップかも知れないが、こうしないと名無の気が済まないので仕方ない。
「・・・・そういえば儀式は・・・・?」
「さっき終わった。・・・・・今、見せてやる。」
上着を脱ぎ捨て、下のズボンも脱ぎ捨てる。褌だけ締めたその姿に少しうっとりした名無だったが。
その背中には恐ろしい侠客立ちの姿。父ので見慣れているとはいえ、兄の背に浮かんだものとはまたひと味違った。
「___・・・・っ・・・・・・・。」
「・・・・・・・・怖ぇか。」
「・・・・・いいえ。それはないけれど・・・・・・っ・・・その傷・・・・・・・。」
「こうしねえと侠客立ちじゃねえ。」
「・・・・・・・・お兄様・・・・・・・痛くないの・・・・・・?
彫り物を背中にして、その上から更に・・・・こんな刀傷までっ・・・・・。」
「平気だ。」
「嘘っ・・・・!!」
「嘘じゃねえ・・・。」
一気に名無の顔が曇る。
元々泣きやすい性格だが、兄の事や家族の事だと一際泣きやすくなってしまう。
全ては花山組が。そして兄が何より好きだからという純な想いからだ。
「・・・・・薫お兄様・・・・・・触っていい・・・・・・?」
「ああ。」
「・・・・・・・本当に背中に彫られてる・・・・・。本当に・・・・・痛みはないのっ・・・?」
「・・・・・ねえ。」
「・・・・お父様と同じ・・・・・・・・。傷だらけになって・・・・・・それでも戦って・・・・・・また傷ついて・・・・・。
・・・・・・どう見ても痛いっ・・・・!!そうだと言ってよっ・・・・・・お兄様・・・・・・?」
「痛くねえ。・・・・・・名無が泣く必要はねえ・・・・・。」
「・・・・・・・お兄様がっ・・・・痛くても泣けないなら、私が何度だって泣くよっ・・・・!!
お兄様の痛みは私の痛みだから・・・・・!!お兄様ぁっ・・・・!!」
背中から包み込むように兄を抱き締める。そのたくましい首筋に細すぎる腕を絡めて泣いた。
その涙が背中を伝い侠客立ちを濡らす。まるで侠客が泣いているように見えた。
「名無・・・・。俺は・・・・・・お前が泣いてる事の方が何倍も辛ぇ・・・・・。
だから、泣くな・・・・・・・。」
「お兄様っ・・・・・・・薫お兄様っ・・・・・!!私が・・・・お兄様の代わりにさえなるから・・・・・・!!」
「名無っ・・・・・・・・・。」
絡められた細い腕を握り返す。
その時花山の顔は、戦いの時よりも何よりも辛い表情をしていた。
その事を当の名無は知る由もなく。
互いの想いはすれ違っていた_____
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