第一章
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全ては花山薫の幼い頃より始まった。
「____木崎、あれ・・・・。」
「・・・ん?ありゃあ・・・・・人・・・?」
夜の車道。雨が降って視界も悪い中、僅かな車のライトにちらりと何かが映った。
歩道もない道端に、ボロボロの服を着た小さい影が見えた。
「大将、こりゃあ女の子ですぜ・・・・。」
「女の子・・・・・?」
小さな人影はまだ幼い少女で。しかも花山薫と大差ない年だと思われる。
「・・・・・ほう。こんな夜道に置き去りたあ、よっぽどの厄介もんだ。面倒だ、捨て置け。」
「___かしこまりました。」
助手席から出てきたのは花山組の現・組長だった。
くわえた煙草を吐き捨てると、少女を残しそのまま立ち去ろうとした。
「ま、待って!」
「?」
「二代目・・・・?」
「・・・・・ほんとうに、置いていくの?」
心配そうな目で顔を出す幼い二代目。
こんなに心配そうな顔をするのはあまりない事だった。
残酷だろうと見えたのか、こんな激しい雨の中この辺を通る車などほとんどありはしない。
ここで見捨てれば十中八九。確実に死ぬと思った。
「ああ、そうだ。可哀想かも知れねえが、これが現実だ。薫。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・二代目。気を悪くしねえで下さい。大将がそう仰ったんですから。」
「_____!」
チラリと端に目をやった瞬間。
その少女が僅かながらに動いたのが見えた。
それに気付いたのは二代目ただ一人だった。
「行くぞ。」
「はい、出しましょう。」
「___ッ!!」
ハンドルを握った木崎の片腕を二代目の小さな両手が掴む。それに驚いて車は発進しなかった。
「・・・・おい、薫!止めねえか!!」
「二代目危ないです!お下がりください!」
「_____・・・・・・・・!!」
「っ痛ぇ!!!」
まだこの時の二代目は10歳にも満たない年であった。
だが幼い頃よりは既に"握撃"の片鱗が見えており、これもその一部だった。
年端もいかぬ子供にしてはあまりに力が強すぎる。
握られた木崎の腕は一瞬折れたように見える程だったという。
「____!
・・・・・そんなにあのガキが気になるのか?」
「・・・・・・・・・。」
普通なら大人も震えあがる組長の睨みつけに、一切物怖じせず逆に負けじと睨み返した。
「_____・・・・・・・・。そこまで睨まれちゃ、俺もいつか殺されかねねえな。」
「ッ、大将!?」
「木崎!今すぐあのガキ連れてこい!・・・・
「・・・・へい!分かりやした!」
二代目の気持ちはどうにか伝わったようで少女は無事花山組に保護される事となった。
少女は衰弱してはいたもののなんとか一命を取りとめた。
それから暫くして。少女は意識を回復させた。
自分で動けるようになった頃、周りを見渡し、怯えながらも大人達の質問に懸命に答えた。
「・・・嬢ちゃん、名前は?」
「・・・・・おじさんたちは・・・・だれ・・・?」
「俺は木崎。んでもって後ろにおられる御方が花山組の大将『花山景三』。
そして何より、こちらにおられるのが嬢ちゃんを助けだした張本人である、花山組の二代目『花山薫』だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・って、嬢ちゃんにはまだ早いか。」
長々と説明されるも難しい事ばかりで少女は俯いてしまう。
そして改めて名を聞かれると震えながら一言呟いた。
「名無・・・・・・。」
「名無・・・それが嬢ちゃんの名前か。上の名前は分かるかい?」
「・・・・・・・。」
「・・・・・こりゃあ駄目そうだな。なんであんな場所にいたんだ?」
「・・・・・わかんない・・・。」
「分かんないって・・・。何が知ってるこたあねえのか?」
「・・・・えっと・・・・。
・・・・・わたし・・・・・・ママに手振られて・・・『じゃあね』って・・・・・。」
名無の話によると母親に日頃から冷たくされ、父親からもろくな扱いを受けておらず飽きて捨てられたのだという。
食事も満足に与えてもらえず今日までよく生きてきたと周りは関心していた。
聞くところによるとママと呼ぶ人物が定まっておらず"売られた子供"の可能性まで浮上し始めた。
「・・・・つー訳で帰る家もこりゃあなさそうだ・・・。どうします、大将?」
「・・・・・・・お前はどうしてえんだ?」
チラリと下を向く我が子を組長は見下ろした。
そうすると何か決心したような強い瞳で見上げてきたのでニヤリと笑って名無を見た。
「どうやらうちに来るしか道はねえみてェだぞ・・・名無とやら。」
「・・・・・・・!」
伝えると余計に震え上がってしまい、怯えるようにしくしくと泣き始めた。
「___だいじょうぶ。」
「・・・ふえ・・・・?」
「おれが、絶対名無を傷つけさせないから!」
今まで大人しくしていた二代目はそっと名無に近寄り手を差し伸べた。
父親の前であまり笑顔を見せないとされていた二代目の優しい微笑みだった。
「ほお・・・・。」
「・・・・・二代目・・・・・・・。」
名無は恐る恐る手を取ろうとした。
____ように見えたのだが
「っ!!」
かわいた音が周りに響いた。
二代目の手をはたいて泣きながら廊下へ走り去ってしまった。
その場にいる皆が唖然としてため息をついた。
「・・・・・やっぱ、厄介もんかも知れねえな。」
「・・・・・・・・・。」
「二代目・・・・・・。」
そこからの名無と組の関係はあいかわらずギクシャクしていた。
名無は誰にも心を開こうとせず、大人を見ると泣くか逃げるかなので余程恐ろしい目にあったと考えるしかなかった。
同じ年頃の二代目相手にも打ち解ける様子は見えず。
正直二代目でさえ諦めようとかと思う日は何度もあった。
それでも、どこか嫌いだという要素しかないのに彼女が気にかかるのはどういう訳なのか。
自分自身で分からなくなりつつあった。
そんなある時だった。
「____名無・・・これ・・・・・。」
「・・・・・・?」
いつも通り縁側で泣きじゃくる名無に怯えないようゆっくりと近付いていく。
あいかわらず睨みつけてくる視線が痛いのは二代目を始め、組の皆同じだろう。
取り出したのは学校の工作で出た宿題。
図工の授業でオリジナルの作品を提出するものだった。
「・・・・なにこれっ・・・・?」
「・・・・・・・それが、花なんだけど・・・・見えるかな?」
ぎこちない笑顔で出された作品は廃棄されるはずの鉄の部品で作られた花だった。
どうにか花の形をしてはいるものの、色は鉄色のままで味気ない。
「・・・・・・・お花に見える・・・・。」
「名無に一緒に色塗ってもらおうかなと思って・・・・。」
「色・・・?」
「絵の具があるからそれで好きなように塗っていいよ。新聞紙持ってくる。」
「・・・・・・・お花・・・・。」
「____よし、これでいいかな?」
「・・・・・・うん・・・・・できた・・・・・。」
名無はどうにか興味を持ってくれたようで、絵の具で彩られたカラフルな花が出来た。
いかにも子供の工作と言った感じだがそれなりに綺麗に仕上がっている。
「これのタイトルはね『名無』にしようと思うんだ。」
「・・・・・・・わたし・・・・?」
「うん。なんでかっていうと、花山組の『花』って名無だと思うから・・・・。」
「・・・・・・・花・・・・。私、このお花なの・・・?」
「名無はここに来て泣いてばっかだけど・・・おれ、名無が笑ったらきっと・・・その・・・・きれいだと思うから・・・。
花山組は皆怖い人に見えるかも知れないけど、皆名無の事を思って笑顔になってもらいたいんだ・・・。
だって名無は俺達にとって、この組の花だから!!」
少し頬が紅く染まりつつ二代目はそのままの想いを伝えた。
おそるおそる近寄るより、ストレートに伝えないと分からない。きっと振り向いてはくれないと思ったからだ。
年齢は若干二代目より下だが、難しくない言葉で伝えれば大丈夫だと思った。
「・・・・・・名無・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「____あら、綺麗なお花ね。」
「お母さん!」
「!」
名無の返答を聞く前に後ろから花山家の女将がやってきた。
普段なら逃げるであろう名無は呆気にとられてしまい逃げなかった。
「とても可愛いじゃない。本当に名無ちゃんみたいだわ。」
「名無が色塗ったんだよ!」
「そう・・・素敵よ、名無ちゃん。」
その優しい笑みに名無も少し気を許したのか頬が紅くなる。
「わたし・・・・このお花みたい・・・・?わたし・・・・・このおうちのお花なの・・・?」
「うんっ。名無が笑ったら、うちにお花が咲いたみたいで皆嬉しいと思うんだ!」
ニコリと温かく笑う二代目の笑顔に名無の心がどこか解けていくような感じがした。
そして次の瞬間。
「___っ!」
「・・・・わ、名無っ・・・!?」
バタリと音がしたと思ったら思いっきり二代目に抱きついた名無。
瞬時に受け止めた二代目も突然のことに驚いて顔が紅くなる。
「あら・・・。ふふっ、なんだか妹が出来たみたいね?」
「妹・・・・。」
「いもうと・・・?わたしが、妹・・・?」
「そうね・・・うちにも女の子が出来たみたいだわ。薫がお兄ちゃんで、名無ちゃんが妹よ。」
一瞬明るい表情を浮かべた名無。
だがすぐ俯いて暗い表情で呟く。
「・・・でも・・・・・おばさんは・・・名無のママじゃない・・・・。」
「____・・・・・・そうね・・・確かに血は繋がってない・・・本当のママはなれないかも知れない・・・・。
・・・・・それでも、私は名無ちゃんを本当の娘のように思うわ。とても可愛い私の娘よ。」
ハッとした顔で二代目から離れて女将を見上げる。
その瞳にはもう疑いの眼差しはなかった。
「・・・・・今からでも・・・・・・私の娘になってくれないかしら?名無ちゃん・・・・?」
名無の視界はあっという間に歪んでいった。
いつもの泣きじゃくるような顔であったが、決定的に違ったのはその理由だった。
「・・・・おかあ・・・・・さん・・・・・・・?」
「・・・・・なあに?名無?」
「お母さん・・・・・お母さあああん・・・・っっ!!!」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら女将の胸へ飛び込んでいった。
頭を優しく撫でて、本当の親子のような関係がここで初めて出来上がった。
女将は何も変わらない優しい顔で二代目に告げた。
「薫・・・・・。名無の事、よろしくね。お兄ちゃんとして、大切にしてあげてね。」
「・・・・・・・うん。俺、大切にする。
絶対名無を悲しませたり、名無を傷つけさせない!!俺が守るよ!!」
「・・・・・ふふっ、頑張ってね、薫お兄ちゃん。」
「うんっ!」
これから花山組の家族となった名無は、徐々に心を開いていく。
人全てが怖い対象に見えた時は終わった。これからは"花山組の妹"として花を咲かせるつもりだった。
_____そのつもりだったのだ。名無も、二代目も、皆。
「____行ってらっしゃい。薫お兄様。」
「___・・・・・ああ。行ってくる、名無。」
「・・・・・・・・また、私の元に帰ってきてね。お兄様・・・・・・。」
名無は美しい花となった。それこそ花山組の一輪の花のように。
だがその一輪の花は、咲かせていけない花だった。
「_____・・・・・・・名無。」
それは美しく、あまりにも綺麗な恋の花だった______
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