第1章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ここで普段なら加藤とのデートになるはずなのだが。
今回ばかりは勝手が違っていた_____
「押っ忍~。用ってなんスか克巳さん?」
静まり返った神心会道場。外は暗く、唯一明かりの付いた場所に漢が二人。
「よ~お加藤君♪ちょっと聞きてえ事があってなァ♪」
呼び出したのは克巳の方。ご機嫌そうに見えるが目が笑っていないし空気は冷たい。
加藤は野暮用があると聞かされて来た為私服。対して克巳は道義姿だった。
「・・・・お前さ。名無とデートしたんだろ?カラオケと映画。」
「____!?
・・・・そうッスけど、ななしから聞いたんスか?」
「まあそんな所だが・・・・。
実は、そのデートするよう差し向けたのは俺だ。」
「ッッ・・・・・!?」
分かりやすく加藤の表情が険しくなる。
その反応に手応えを感じて相手のペースで勝手に話が進む。
「名無からお前に告られた~って相談されてな。
それで恋愛の仕方が分かんねえらしいから俺が先にデートして今教えてやってんの♪」
「・・・・先にデート・・・・・。俺より前にななしと・・・・・?」
「ああ、そーいうこと。カラオケも映画もお前より先に行った。
んで・・・・・この前は手も握ったしな・・・・?」
互いの睨み合いで既に火花が散っている。
ピリピリとした空気の中で加藤が一言切り出す。
「・・・・・んで克巳さん。
んな自慢話して、一体何が言いてぇと?」
「______名無は俺がもらう。お前には渡さねえ。」
「・・・・・。俺とななしが仲良すぎて嫉妬してるんで?」
イタズラっぽく加藤が笑うと克巳は真剣なトーンで呟いた。
「・・・・名無と手握って。あいつの気持ちを知って。俺はずっと名無の傍にいてえと思ったッ。
・・・・・傍で支えてやりてえと・・・・・。あの温もりを・・・お前にはやりたくねえッッ!!」
「・・・・・・・・。悪ぃがんな事俺に伝えたところで俺はなーんも変わりゃしねえ。
____克巳さんがこんな場所に呼び出したって時点で、やる事はおおよそ理解した・・・・ッ」
「そうだッ。俺達武道派集団のやり方は一つッ!!」
『戦いで正々堂々奪いとれェッ!!』
加藤が上着を脱いでから礼も言わずに飛びかかる。
ここに来た時からやる気満々だった両者は話よりも先に体が動いた。
話し合いで解決しようなどとはなから考えていない。
名無を好きな気持ちはどちらも変わりないのだから______
「ッ・・・・!畜生・・・・・ッ!!」
「はぁ・・・・・ったく・・・無駄に手こずらせやがって・・・。」
結果は克巳の勝利だった。現在上半身と腕を体重で抑えこまれ身動きがとれないでいる。
空手以外の技も使い抵抗した加藤だが、次期神心会館長ともいわれる克巳が相手では敵わなかった。
「降参しろ。このままだと骨がいかれるぜ?」
「___克巳さんッ・・・・何、ほざいてんスか・・・・・?」
「名無とのデートは誘われても断るんだな。内緒で行っても、どうせ名無なら俺に話して筒抜けだ。」
「まだ勝負はついてねェ・・・・!」
「もう動けねえはずだ。諦めて勝ちを譲れッ!」
『そういう事言ってんじゃねえッ!!真剣勝負なら、腕の一つぐらい折れッッ!!』
「____!?」
突然思わぬ言葉に目を見開く克巳。
このまま克巳の体重を乗せれば確実に加藤の腕は砕けるだろう。
だがいくら真剣勝負とはいえ片腕一つ犠牲にするまでの戦いなのだろうか。
「・・・・もう終わっただろ。身体的・心情的に考えてもお前の負けだッ。降参しろッ!!」
「ビビってんスか・・・?
まさか戦い挑んだ張本人が"次期神心会館長"の肩書きで綺麗事抜かすんじゃねえよなァ?」
「そうじゃねえ・・・・・・これはお前を少し懲らしめる為でそこまでする戦いじゃ____」
「・・・・・ここで折らねえと、ななしとこの手でデートしますよ俺は?」
「・・・・・~~~ッッテメェ・・・・・・・・
そこまでボロボロになりてえんなら、させてやらあッッ!!」
それから数日後。
「・・・・・は・・・?清澄が入院した・・・・?」
「そうですよ。先輩知らないんですか?」
名無の耳に入院の話が届いたのは暫く後になってから。
後輩の噂話からようやく知った事実だった。
「嘘・・・・・。あいつが?一体誰に・・・・・?」
「さあー・・・。詳しくは知らないですが男共が話してるの聞きましたよー。」
「・・・・・そう・・・・・・・・有難う。
・・・・ちょうど今空いてるし、ちょっと聞きに行ってくる。」
たまたま休憩時だったので、急いで真相を確かめるべく男子部へ足を運んだ。
『おーいー!あーつーしーくーん!』
「ゲッ、ななし!?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど____」
「大声出すなよ聞こえてっからッ!!」
男子部へ覗きこんで末堂を呼ぶと早々に外へ出された。
同期の末堂は下の名前で呼ばれるのに慣れてないらしく、そこそこ焦ってるようだ。
「なんッだよいきなりよォー・・・。」
「ふふ・・・やっぱアンタの反応面白いわー・・・。ねえ、清澄は?」
「あ?加藤目当てかよ・・・・・あいつなら入院してっぞ。」
「やっぱりそうなんだ・・・。どこに入院してんの?てか原因は何?」
名無が珍しく他人を心配している。そんな姿を見て末堂は少し驚く。
こんな名無の表情はなかなか新鮮で困ってしまった。
「あ、あー・・・・確かこっから2駅先に△病院ってあんだろ?そこの3階。」
「へえ・・・あそこ広くないから探せば分かるか・・・。んで原因は?」
「知らねえよォ。本人に聞きゃあいーだろッんなもん。お前今にも向かいそうな勢いだしよ。」
その言葉に少し考え込んだかと思うと壁の時計を見上げる。
時刻は昼過ぎで、病院の面会時間が名無の頭をよぎる。
そして末堂にニコリと微笑んで一言。
「・・・よく分かったね。じゃあ行ってくるわ、あんがと!」
「____って本当に行くのかよッ!?おいななしッ!?」
足早に手を振ってその場を立ち去る。風のような動きは公私ともに変わらずだ。
女子部に戻り急いで着替えを済ませると、加藤のいる病院まで直行した。
「・・・・・・・。・・・・・あいつ本当に入院してんじゃん・・・・・。」
病棟3階の表札に名前があるのを見ると改めて入院したのだと確信。
正直この目で見ないと信じられなかったので余計にショックというかなんというか。
複雑な心境の中、一呼吸置いてドアノブに手をかける。
(・・・えっと・・・・こういうのってノックとかいらないんだっけ・・・・?)
「_____・・・・・清澄ー・・・・?」
「・・・・・・・お。名無じゃねえか。・・・ってか今稽古の時間じゃねェのか?」
「いや、そんな事より何よ骨折って?誰にやられたの?」
「あーあ、うるせえのが来ちまったなァ・・・。」
ベッドに寄りかかり退屈そうに外を眺める加藤。利き腕には分厚いギブスが巻かれていた。
名無が来るなりニヤリといつもの笑顔に戻りはしたが、名無からすればどうにも心配で未だ表情は冴えない。
「誰と喧嘩したのよ・・・。いつもの外の人?」
「その俺がいつも外で喧嘩してるみてーな言い方止めろよ・・・。」
「だってこんなになるって喧嘩以外ないしッ。集団でやられたとか?」
「違ェよ」
「じゃあ誰?」
「ったく、見舞いに来たと思ったら細けー奴だな。それよりリンゴ剥いてくんね?」
目線を簡易テーブルの上にやるとフルーツの盛り合わせが。
『後輩一同』と書いてあるのでなんとなく察しはつく。
「リンゴって・・・・・。そのまま齧れば?」
「手見てみろよ齧れねえよアホ。」
「むっ・・・・。じゃあリンゴ剥いたら教えてくれんの~?」
「んー・・・・考えとく・・・。」
「・・・・・・・・・。嫌な奴・・・・ちゃんと言いなさいよ・・・・。」
文句を言いつつも渋々リンゴを剥き始める。
それをちらりと見た後、どこか遠くを見る加藤の頭には今何がよぎるのだろうか。
その目線に名無も気付いて浮かない顔をしたのだった。
「・・・清澄さ。連絡しても反応ないからビックリした・・・・。ようやく今日知ったんだもん、入院したの。」
「・・・・・・・。」
「次のデート・・・・いや、デートっていうか遊び行くやつ?
とにかくそれしようと思ったのに、肝心な時にこれだもん。本当バカ清澄ッ!」
「・・・・・・・・・・・。」
「リンゴ剥けたけどー、これうさぎにでもした方がいい?
・・・・・・・ってあれ、清澄聞いてる?」
先程からいつもならべらべら喋る奴が黙ると少し不気味だ。
目線すら合わせてくれないので首を傾げて問いかける。
すると不意に加藤から質問が飛び出した。
「______ななし、お前さ。・・・・・・・・この間のカラオケと映画。
先に克巳さんと行ってたんだってな?」
「・・・・・・・・・・え・・・・・・?
・・・・なんで、清澄がっ_______」
(____し、しまった・・・・!!あたし、今なに口走って・・・・!?)
まさかの質問につい本音が漏れてしまう。加藤が何故知っているのか驚いた動揺からだった。
咄嗟に言葉を詰まらせるも口から出た言葉は取り消せない。加藤の鋭い目線が突き刺さる。
「・・・・・マジで克巳さんとデートしてたんだな・・・・・。」
「えっと・・・ごめん・・・・。隠すつもりはなかったの・・・・・。
てかデート指南を頼んだのは、元々あたしからで_____」
「指南っつってもデートだろ!?他の漢と、俺より先にッ・・・・。」
名無を見る目は睨み付けるというよりどこか残念だと言いたげな瞳だ。
「克巳さんはあたしに親切にしてくれてるだけでそんな気持ちじゃないよ?」
「ななし・・・・いつまでも漢を見くびるなよ。
ただの親切で女とデート出来る奴なんざいねーんだよ!!」
「・・・・!でも・・・他の奴等ならいざ知らず・・・・・。
克巳さんは、そんな人じゃないッ・・・!」
「「・・・・・・・・・・・。」」
あくまでも克巳を信頼する姿に呆れて、暫く沈黙が続いた。
純粋というよりこれは鈍感だ。
あれだけのアピールがあり、ポッキーゲームのくだりがあっても気付いていないくらいなのだから。
「・・・・・・そ、それより・・・そっちがなんも言わないから勝手にうさぎにしたよ・・・。」
「・・・・・じゃあ食わせてくれよ?」
「じぶ____・・・・・まあいいや・・・・。」
先に話を振ったのは名無。リンゴを可愛いうさぎ型にして爪楊枝を刺す。
自分で食べれば?と言いたかったが一応病人なのであーんしてやる。
「・・・・・話変わるけど、結局それ誰にやられたの?」
「・・・・・・・話変わってねえし。」
「へ?」
「これやったの・・・・・克巳さんだぜ。」
「____・・・・・・・・・・。
・・・・・は・・・・・・はあッ!?嘘でしょォッ!?」
反射的に大きな声を出して立ち上がる。
加藤も驚いて危うくうさぎのリンゴを落としそうになるがその前に口でキャッチ出来た。
「・・・・・どうも、自分が指南っつー名目でデートするのが上手くいかずに、俺とななしが仲良いのに嫉妬したみてえだ。」
「上手くって何・・・・それどういう事・・・?さっぱり分かんないんだけど・・・?」
「・・・・・お前本ッッ当鈍いな。俺が言うのもアレだが・・・・
あの人ずっと前からななしに惚れてたらしいぞ?」
「・・・・・。・・・・・克巳さんが・・・・・?
なんで・・・・なんで、あたしなんかを・・・・・?嘘・・・・?」
あまりにビックリしたものでその場でうずくまる。色んな想いが駆け巡って一気に混乱した。
言った加藤は意気消沈した名無にため息一つ。
伝えようが伝えまいがいずれ分かった事だ。この反応は仕方がない。
「・・・・・・・ななし。リンゴくれよ。」
「・・・ん・・・・。・・・・・・克巳さんとやって、こんな怪我したの・・・・?」
「まあな・・・・。軽くとはいえ折られた。向こうも加減してるし、俺は治り早ェから関係ねーけどッ。」
「・・・・・ごめん・・・・。あたしのせいかな・・・・・。」
ボソリと弱気になった名無が呟いた。
「・・・・・何でななしのせいになんだよ。」
「・・・・・・・あたしが克巳さんに相談せず、清澄と正面から向き合ってれば良かったのかな・・・・。」
「・・・・・・。そうかも知れねえが、仕掛けてきたのはあっちだろ?
克巳さんが悪ィだろどう考えても。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・はあ・・・・・・。お前・・・ホンット真面目だな・・・・。
なあ、気晴らしに屋上行きてえ!連れてってくんね!?」
「・・・屋上・・・・?」
ここに来てから浮かない顔ばかりな名無を少し心配して、屋上へ行きたいと嘘をついた。
「ほらよ、連れてってくれッ。」
「・・・・・。」
加藤の利き腕でない方にも軽く手首に包帯が巻いてある。
少しは自由に動かせるらしいその手を繋いで屋上へ向かった。
「・・・・けっこう屋上広いんだね。」
「あんま来ねえけど暇潰しにはなるだろ。」
「・・・・・そうだね。」
「・・・・・。」
屋上に来たはいいのだが、どうも無理やりコメントを並べているようにしか聞こえなかった。
やはり上の空で克巳の事でも考えているのだろうか。
(せっかくななしと手繋いでるっつーのに・・・。)
「おいななし。そこ段差あっから気をつけろよ。」
「え?うん分かっ_____わっ!?」
「・・・・・っ・・・・・・・!」
「あ・・・・・。」
ほとんど話を聞いていなかったせいで気がついたら段差で転んでいた。
・・・はずだったが隣を見れば加藤が体全体で受け止めてくれている。
そして少し顔の距離が近い二人の目が合った。
「ご・・・・ごめん清澄ッ!?大丈夫ッ!?」
「大したことねー・・・・・それよりぼさっとしてんなよななし?」
「清澄、腕ホントに大丈夫・・・・?」
「心配すんなっての・・・・・。」
(ななしにさすってもらうだけで・・・怪我治るかもな・・・・・。
___って、俺なに恥ずい事考えてんだッ!!)
加藤だけちょっとしたイベント(?)発生を嬉しく思っていた。
なんとなく名無には悟られたくないので内緒にしておく。
「やっぱ・・・・・いつまでも考え事引っ張るなんてあたしらしくないよね。
さっさと切り替えていかないと・・・・。」
「そーだなッ。早くお前とデート行きてえし。」
「デート・・・・・うーん・・・。もどきだけどデートだよね・・・・・?」
「・・・・・・ここでの手握るのはリハビリだかんな。ノーカンだからなッ・・・・・。」
加藤らしくもない小さい声で何か聞こえた。それを聞いて今手を握っているのを再認識する。
薄い包帯の上からでも分かる温かさに名無の胸が少し高なった気がした。
「・・・・・そ、そっか・・・・・。・・・・リハビリ終わったら、ちゃんと手握りたい・・・・・。
その・・・・・一緒に街・・・・歩きたいな・・・・・。」
「・・・・・ななしの為にも早く治さねえとなッ!」
「うんッ!」
そう言って握られた手と手はとても優しかったのだった。
_____それから数週間経った日。神心会ビルの応接間にて。
克巳は一人、己の拳を見つめながら思いを巡らせていた。
「・・・・・肉を切らせて骨を断つ。
じゃなく・・・骨を折らせて肉を掴みやがった・・・・。・・・・・加藤の野郎ッ、その為にわざと・・・・・?」
名無は早退した日以降、頻繁に加藤の所へ通っていた。そういう情報は必然的に克巳の所へ入る。
こんな事克巳としては当然面白くない訳で。
逆効果になってしまった自分の行動を心から反省した。
(・・・・・本気で、勝負を決めるしかねえッ・・・・・。)
「待ってろ名無・・・・。俺が、お前を_____」
その瞳には煌々と燃え盛る炎のような熱情が宿っていた。
Next...