第1章
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少しだけの稽古の合間。名無は少し前に行った加藤とのデート報告を克巳に堂々と話していた。
「_____という訳なんですよ克巳さんッ。デートって奥深いですね・・・。」
「ほお・・・名無は楽しかったか?加藤とカラオケ?」
デート指南の本番報告なんて、克巳の思いを知らないからこそ出来る訳であって。
本当は知ってたらこんな事になってないんだろうな、なんて内心思う克巳であった。
「んー・・・・・。確かに相手の好みはよく分かりましたが楽しいというか・・・悔しい・・・・?」
(・・・・よしっ、微妙ではあるが初戦は俺の勝ちだな!?)
克巳の判定基準はおおよそ名無が楽しいと思うかどうか。
本人に聞いてないのに勝手に心の中で勝敗を決めていた。
「もしかして、俺との方が楽しかったか?」
「_____・・・ああ、確かに克巳さんとの方が楽しかったかも?」
「意外と加藤より俺との相性が良いのかも知れねえな~ッ!」
「あ、でも採点バトルもあれはあれで盛り上がりましたし~・・・
・・・どっちかと言われるとう~ん・・・・・?」
「・・・・・・・・。」
単刀直入に聞くも悩み続ける姿に言葉が出ない。
まだまだ恋愛というには程遠いようだ。
「___んまあ、それはさておきとしてだッ。
次のデートはどうする?」
「そうですねー、次の指南は今週中でいいですかねー。」
「・・・・じゃあまた土曜だな、デート。」
「土曜ですねッ、楽しみだなぁデート指南!」
「・・・・・デート゛指南゛な・・・・。」
克巳からすればデート大作戦。
名無からすればデート指南。
お互いそんな気持ちで楽しみに土曜日を待った。
「___・・・・ん?克巳さん今回早いなぁ・・・・・。」
「____おっす♪」
「早いですねー!待ちましたか?」
「いーや。さっき来たばっかだ。ちょうど良かったぜッ!」
そう言ってさりげなくウインクしてみる。だが当然の如く名無にはさほど効果がない。
僅かにアピールしても意味がないのは克巳自身も薄々分かってるはずなのだが。
少しでも前進しておきたいささやかな抵抗というべきだろうか。
「・・・・・んじゃあ、時間にはちと早いが行くか。」
「そうですね。今日はどこ行くんですか?」
「んー・・・・今回は指南を俺じゃないやつに頼もうと思ってな。」
「・・・・・?誰か来るんですか?」
「いや。着いてからのお楽しみだ☆」
意味深な言葉を呟いてニヤリと笑う克巳。
訳が分からないまま名無は克巳の後を追って歩いた。
「ここだ!」
「_____ああ、なるほど!映画ですね!」
辿り着いたのは少し歩いた所の大きな映画館。
老若男女問わず賑わう場所であり、映画のラインナップも多種多様だ。
「人の恋愛を見て学ぶのも十分アリなやり方だ。
つー事であれを観ようと思うッ!!」
「『先輩と私の恋愛事情』・・・。ああ、確かテレビで宣伝してましたね。」
「話題性もあるし語り合うにはもってこいだな。」
タイトルからして分かりそうなもんだが、明らかに自分と名無の状況に似た映画をチョイスした。
鈍い名無にそれが通じるかどうかはとても疑わしいがやってみない手はない。
券を入手した後の待ち時間。だだっ広い売店の前で二人してメニューを眺める。
「ポップコーン何食う?俺が出すよ。」
「・・・・へっ?い、いや悪いですよ!自分のくらい払います!」
「いいっていいって!女の子に金出させるなんて俺の性に合わねーのッ!
それに俺も同じの食うんだしー。」
完全にデート気分な克巳にとってはここで自分が払うのは当然の義務。
普段から後輩にも奢ったりしているのだからここで名無に払わないなんて漢じゃないッ!と内心意気込んでいた。
「・・・・。じゃ、じゃあ塩で・・・・。」
「決まりだなっ♪」
(克巳さん、やっぱデート指南だから女の子扱いしてくれてんのかな・・・・。)
(ッッしゃあ決まったあ!!名無の好感度急上昇だぜェッッ!!)
カラオケの時はつい名無が楽しくなってノリノリで割り勘にしてしまったがその反省点を活かして今回はポップコーンで勝負をかける。
克巳が思っている程急上昇してはいないのだが、この作戦はわりと成功したようだ。
「克巳さんも塩で良かったんですか?」
「ああ。つーか何でも良かった。」
(名無と食えるなら。・・・・って流石にそれはまだ早ぇか・・・・・。)
甘い台詞を言ってはみたいがそれは何か違う気がしてまた今度の機会にして。
この際塩だろうがなんだろうが構わないのもまた事実。
もう克巳からすれば次の作戦実行の事で頭がいっぱい。今の内に妄想を膨らませる。
(・・・・なんか克巳さんニヤけてる・・・?そんなに映画見たかったんだ・・・・さっきから喋らないし・・・・。)
ポップコーンを買ってから克巳が妄想にふけっているので映画が始まる前にちょっとだけ先につまみ食い。
名無の行動に気付かぬまま待ち時間を潰して館内へと入った。
『待ったァーッ!!俺の幼馴染に手ェ出すんじゃねーッ!!』
『なんだとッ?先輩に向かってその態度は何だァッ!!』
『二人共やめてってばーっ!!』
映画の内容は部活の先輩→新入りの女子←幼馴染といった三角関係。ベタな恋愛ものだ。
当然今の名無をめぐる状況とピッタリで、尚且つ絶対先輩側におちると確信していたのでこの映画をチョイスした。
『俺・・・・お前の事ずっと好きだったんだ・・・・・。』
『先輩・・・・。』
『愛してる。』
そうして映画の終盤。スクリーンの物語に涙する者もいればうっとりする者もいた。
そんな中、二人はというと____
(・・・・・今だっ!!今ポップコーン食おうとして手が触れればときめくに違いねえっ!!)
克巳の作戦とはこの事。一番ドキッとするシーンに合わせて手が触れれば鈍い名無もときめくだろう。
『・・・・嬉しい・・・・・先輩、わたしも好きですっ・・・・!』
(なんだ、相手の女の子も好きだったんだ・・・。幼なじみ可哀想・・・・・。)
(・・・・・・・待てよ。よく見たらもうポップコーンなくね!?
早ッッ!!でかいサイズ頼んだはずなのに盛り上がるシーンでもうねえとか予想外だろォ!?)
だが計画は見事に砕け散った。
映画終盤でも残ると予想して買ったLサイズだがドキッとするシーンの前にとっくになくなっていた。
序盤でつまみ食いしたのに気付かなかったせいか、それとも名無の食欲まで把握していなかったせいか。
おそらくはその両方が原因なのだがポップコーンのサイズがL止まりなのを密かに恨むのであった。
「____どうだ名無?少しは恋の駆け引き勉強になったか?」
「んー、なんとなくですかね・・・。切ないなーとは思いましたよ。」
「だな・・・・でもあの二人が結ばれて良かったな。」
「一応そうですねぇ。」
恋愛映画ではあったが少しは名無にも理解出来る点はあったらしい。
その様子にうんうん、と一人頷いてから克巳が一言切り出す。
「なんだか・・・俺達を見てるみたいだったな・・・・。そう思わねえ?」
「あれ、克巳さんもですか・・・?あたしもそう思ってました!」
(ん!?来たッッ!!名無もヒロインに感情移入してたんなら来たぞこれッッ!?)
「あの幼なじみと喧嘩する所!!克巳さんの型にちょっと似てましたよね!?」
「・・・・・ん・・・?・・・型・・・・・?」
何かおかしい。というか明らかにおかしい。
名無の目は恋愛の話云々より、なにかこちらの話の方が元気なような気がした。
「主人公の型って克巳さんの基礎に似てたような気がしたんです!幼なじみの方も誰かに似てる気がしたんですが・・・?」
「ちょ、ちょい待ち名無。あの一回目の告白終わった後の喧嘩だよな?それ?」
「・・・・そうですよ?」
「・・・・・その・・・・俺が言ってんのは、主人公とヒロインが俺達みたいだってことなんだが・・・・?」
そこで自信ありげに名無が返答する。
「分かりますよッ。部活は空手で、恋の駆け引きは力比べって感じですよね?」
「・・・・・・・・・。」
呆れて頭を抱えた。自分の身の回りで共感は出来たものの、肝心な所はさっぱり伝わっていなかった。
(何でだ・・・・俺映画のチョイス間違えたァッ!?)
「違うっつーの!!そうじゃなく、相手の肌が綺麗だとか可愛い仕草がどうだとか言ってたろ?
あれが恋愛の第一歩ってもんだぜッ!?」
「うーん・・・?確かそんな事も言ってたような・・・?」
「先輩と後輩っつー関係が俺達と似たまでは良いんだ。
だが空手とかじゃなく好きだとか惚れたとかそういう感情を理解してほしい訳だッ!!」
「・・・・そうか・・・。そういう視点だったんですね、あの映画・・・・・。」
(いや・・・・何であの映画を恋愛として見れねえのか、それが不思議でしゃーねーわ・・・。)
恋を知らない名無の頭で恋愛映画を学ばせるのはけっこう大変。
どうにも女らしくないというか、鈍感すぎるものだから克巳の気持ちは今日もいまいち伝わらず。
これ以上の問答は無駄な気がしたので今日のところはこの辺で折れる事にした。
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