第2章
夢小説設定
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ピコン
『良いか名無?もし加藤にデートに誘われる事があったら俺に言えよ?』
ピコン
『ななし。今後克巳さんがデートに誘ってきたら俺に話せ。』
『どうして・・・?』
ピコン ピコン
『俺が懇切丁寧に"相談"に乗ってやるから…。な?』
『次はどんな手を使ってななしを物にしてくるか
お前の身の安全の為にも、俺とだけデートしてりゃ良いんだよッ!!』
(これって、どっちの誘いも乗っちゃダメってことかな・・・?
う~ん、困ったなァ・・・。清澄も克巳さんもあたしの事好きなのが理解っちゃったからどうしたもんかなァ・・・。)
二人からの連絡にスマホを置いて部屋の天井を見上げた。
リアルタイムで表示される履歴には克巳と加藤がここでも競うように名前が並んでいる。
返事をしたいがなんと返せばいいか。気の利いた言葉が思いつかないのでとりあえず既読だけ付けた。
_______加藤も、克巳も。二人の好意は真剣だと理解っているからここまで悩んでいた。
(・・・・あたしはあの二人の気持ちに答えたい。だからこそ、いずれはどっちか片方を選ばなきゃいけない。
それが・・・あたしに出来る最善の選択。二人の為にも自分の為にも・・・あたしがどうありたいかを考えていかないとね・・・。)
決してこれは恩ではなく本音。見栄でも意地でもなく名無の本心。
手を伸ばしてくれる二人に向き合う。それが今後の課題だった。
・・・その二人が『互いの手は取るな』と警告してきているのが問題なのだが。
(______そうだ!!二人の誘いに乗るのがダメなら、あたしから誘えば良いんだッ!!
・・・勿論二人には内緒だけど…。って、なんか凄い悪い事してるみたい・・・。罪悪感が凄い・・・・。
でも、こうでもしないとあたしも二人のどっちが好きか決めきれないし・・・。)
頭を悩ましていたがいっそ逆転の発想に出ることにした。
こっちから誘う分にはきっと"誘いに乗った"という解釈にはならないはず。
なので思い切って二人の手を取って。それから考える事にした。
克巳には加藤の、加藤には克巳の話をしない前提で物事を進める。
そうでないと名無はまだあの二人の事を理解しきれないと思ったからだ。
(それに、ちょうど二人に聞きたい事があったんだよね。次会ったら聞かないと・・・・。)
克巳と加藤のデートで少しはデートのやり方が
克巳の一件であれもデートに入るのなら、今後誘うのもそれはどちらにしろデートである。
前回の反省を活かそうとデートコースを調べてみたりして。とりあえずは互いの空いてる日を聞いて出方を伺うことになった。
『ママー!みてみてー!』
『んでその時彼氏がさ、超ウケるんだけどー』
都会から少しだけ離れた森林公園。ネットの検索に出てきたので散歩やデートにもってこいの場所を選んでみた。
ここなら知り合いに見つかるリスクも少なく、話題にも困らないデートスポットだ。
「お、お待たせしました!克巳さんッ!!」
「よう名無!まさかそっちから誘ってくれるなんて・・・俺とのデートにそんな気合い入れてくれるなんて嬉しいぜ☆」
「気合いっていうか、克巳さんとだったらこれぐらいしないと失礼かなって・・・。
・・・スカートとかまだあんまり慣れないですけど・・・。せっかく指南してもらったのもありますし・・・。」
空いてる日にちが早かったのは克巳だった。本当にたまたまで、今回は指南でもなんでもないデートそのもの。
克巳はノリノリだが名無からすると順番通り。気合いと言われてもいまいちピンと来ていなかった。
デート指南やこれまでを踏まえて一応女の子っぽい服装をセレクトしていた。本人的には前ほど背伸びはしていない範囲である。
「んじゃ、行くか!」
「ままま、待ってくださいッ!!その・・・あ、あたし達は付き合ってる訳じゃないんでッ!!手、繋ぐのはなしでっ・・・!!」
「・・・ちぇ。了解。んじゃあまた"今度"な。」
手を繋ぐのを断られてしょうがなく手を引っ込める克巳。口を尖らせるがさほど気にしてはない様子。
元々克巳は女慣れしている分さりげない誘いやアピールは上手い。名無からすると途端に緊張するので油断ならない相手である。
(流石にこの間のは調子乗りすぎたか・・・。まあ、名無も俺の事誘うってことはまだチャンス大ありだな。
どっかで抱き寄せたりとか出来ねえかなァ・・・雰囲気次第で・・・こう・・・。)
と妄想を膨らませているのに名無は全く気がついてないのであった。
「おぉー、でっけえアスレチックだなァ」
「子供がいっぱいいますね。皆楽しそう♪」
自然を利用した丸太の遊具で親子連れが遊んでいる。
子供向けなので眺めるだけだが散歩コースにはちょうどいいところだ。
「あたしもあれぐらいの時夢中になって遊びましたね…。あの時から身体動かすの好きだったのかも・・・。」
「そりゃあ神心会に入る前か?」
「うーん・・・。正確には覚えてないですけど物心つく前後ですかね?克巳さんと会う前にはもうああいう遊び好きでしたよ。」
「ほー、そうか。俺と会った時から名無はキビキビ動いてたもんなァ・・・。
俺アスレチックあんまやった事ねえんだよな・・・。こなせるのが目に見えちまう・・・。」
顎に手を当ててなんだか考え込む克巳。はたから見たら少し嫌味な発言だが名無は気にしていない。
それどころか興味津々だった。
「サーカス出身だと、そういう先読みとかも出来るんですか!?」
「え。先読みっつーか・・・。まあ俺はあれぐらいの時に空中ブランコやってから、10秒ありゃいけるなと・・・」
「おおーッ!!格好良いですねッ!!あたし克巳さんのそういう身体能力に基づいた前向きさ見習いたいですッ!!」
「サーカスは命綱も極力しねえから臨機応変さも大事だな。体動かすだけでなくアピールもしねぇとだし・・・
俺がもし空手じゃなくオリンピック選手に拾われてたら、そっちの道にいってたかもな?」
「克巳さんなら金メダルも楽勝ですねッ!!」
目をキラキラ輝かせる名無に自慢げな克巳。この漢はここまで言っても冗談にならないのだから凄い漢である。
だが名無はふと、真顔に戻ってどこか空を見上げた。
「_____でも、そうしたら克巳さんとあたしは出会ってないですね?あたしも女子部でリーダーやれてなかったかも・・・。
金メダルを獲った克巳さんは、テレビで眺めるだけの有名人になってたかも知れません・・・。」
「・・・そっちの世界だったら名無にサインしてやっても良かったんだが、生憎俺は今空手街道まっしぐらだからな。
・・・ぶっちゃけお
けどおかげで叩き直されてよ。"愚地"克巳として、名無に会えて良かったと思ってるぜ?」
(・・・そっか。克巳さんは、愚地館長から才能を見込まれてずっと修行を・・・。
あたしとはきっと比べ物にならない・・・。それを物にした人なんだ・・・。)
克巳の才能は天性のものであり、それを見抜いた愚地独歩が養子に迎えたという話は知っている。
元サーカス団員で色々あったとは聞いていたがプライベートはさほど知らない。
幼少期から道場で出会う程度だったので"愚地克巳"という漢が普段どれほどの鍛錬を積み上げているのかは計り知れなかった。
神心会の女子部リーダーである以上『身につける事の大変さ』は名無もよく理解っている。
「・・・あたしも克巳さんに出会えて良かったです。」
「惚れ直したか?」
「・・・その言い方はちょっと違う気がしますが・・・。でも、少し知れて良かったなって思ってます。」
(少しじゃなくてぐーんと好感度上がってくれても良いんだけどなァ・・・。)
まさかアスレチックからこんな話になるとは思わず。
名無は一人の人間として、克巳に近付けた事を嬉しく思ったのだった。
「____お。クレープ屋があるぜ。休憩がてら食うか?」
「美味しそう・・・!!食べましょうかっ!!
言っておきますがお代は自分で払いますのでッ!!」
「んじゃあーしょうがねえな・・・。俺の欲しかったらいつでも言っていいからな?」
「大丈夫ですッ!あたしはこっちのが食べたい気分なのでッ!!」
(クレープ一口作戦はダメそうだな・・・。)
公園内をそこそこ歩いたところにある休憩所。こういうところには食べ物屋があるのが定番。
周りのベンチにもカップルや親子連れが座って食べているようだ。
克巳が物理的な距離を狙ってなんとか間接キスを狙いに行こうとする。
「ん~美味しい~!!・・・あ。そういえば、克巳さん。実は今日聞きたいことがあって・・・。」
「ん?なんだ?なんでも聞いてくれ。」
クレープ片手に笑う克巳を前にして、デートの本来の目的を思い出した。
名無からするとふとした疑問なのだが、本人を目の前にして少しだけ我に返った。
(・・・・あれ。あたし、もしかしてさらっと凄い事聞こうとしてるんじゃ・・・っ・・・。
や、やっぱ面と向かって聞くの恥ずかしいかもっ・・・。)
「か、克巳さんは・・・その・・・・・。
とぇっ、と、友達ってどうやって作ったんですか・・・?」
「
(聞こうと思ってた事と違う事聞いちゃった・・・。てか噛んだ・・・。)
クレープの中身を見るふりをして咄嗟に視線をそらしてしまう。
いざ本音が言えないのも恋愛あるあるなのだが、果たしてこれは名無に当て嵌まるのだろうか。
様子の違う名無に若干の違和感を覚えつつも、克巳は自分なりの答えを語りだす。
「んー、俺は人望厚いから勝手に周りに人が集まってくんだけどよ。
その中でも仲良くなりてえやつとは共通の話題を見つけるのが大事だな。」
「成程・・・。でも共通点がない場合とかはどうすれば良いですか・・・?
最近の女の子の話題にもついていけないし、興味がない話題を聞いてもしょうがないし・・・。」
「そんときゃ天気の話題でもとっかかりは何でも良いさ。あとは自分の趣味を明かすのもアリだ。
・・・っつっても、この前みたいな妙な輩もいるから無理にとは言わねえけど・・・。
例えば俺は名無に興味あるから、名無はポッキー好きなのとか道場と違って可愛い一面があるのもバッチリ覚えてるぜ。」
ウインクしながら答えるので思わず顔が熱くなる名無。
真面目な話題の中でこういった展開にもっていくのは克巳の得意技である。
「う・・・有難うございます・・・。でも趣味って、せいぜいトレーニングぐらいしか思いつきませんが・・・。」
「でもいつかのカラオケとゲーセン、楽しかったろ?」
「はいっ!それはもちろんッ!!」
「そういう新しい趣味の開拓ってのも悪くねえんじゃね?なんなら俺が教えてやっても・・・」
「____そういえばあの時。意外とアニメとかアイドルの曲歌えて楽しかったです。そっち方面なら趣味になるかも・・・?
アクション系の映画も楽しかったし・・・なんか希望が見えてきました!!流石ですね、克巳さんッ!!」
「お、応よッ!!」
(俺がまた指南する流れに持ってけるかと思ったが流石に厳しかったか・・・。
あと普通にクレープ食うの旨いな?口の端にクリーム付けてたらチャンスだったのにッ・・・!!)
克巳が密かに悔しがっているのを名無は知らない。
けれど結果的に本人の為になるなら別にいいような気もして。
アドバイスは無駄ではないと思いたいのであった。
「克巳さーん!鯉の餌やりが出来るみたいですよー!!」
「じゃあやってみるかァ。」
「克巳さん、ここ博物館みたいですね?」
「ほお。ここの森林公園の歴史が載ってンのか・・・。」
「・・・ん?克巳さん・・・もう日が暮れてきましたね・・・。」
「もうそんな時間か・・・。今から出入り口のバスまで歩いてちょうどいいくらいだな。」
遊んでいたらあっという間に時間は過ぎていった。人通りも徐々に少なくなっていくのと、照らされた自分の影の長さで夕方を実感する。
夕方は物寂しくなる。いつぞやのカラオケ指南の帰りもこんな夕暮れだったのを思い出した。
「あの・・・克巳さん・・・・。」
「んー?どした?」
「・・・・・今日、ですね・・・。実は、もうひとつ聞きたいことがあったんです・・・・。」
元々克巳は尊敬する人物としての見方が強かった。けれど思い出せば最初の指南の時から克巳は名無を好きでいた。
名無には一つ、
深呼吸して真っ直ぐ克巳を見つめた。
「克巳さんって・・・その・・・
______私のどこを好きになったんですか・・・・?」
「・・・・!」
驚いて少し照れた様子の克巳。
明らかに夕日の反射ではないそんな顔に思わずこっちも紅くなってしまう。
「・・・ナルホド。本題はそれか・・・。
俺はそーいう素直なところ好きだぜ?あとたまに見せる女の子らしいとことか・・・。」
「・・・神心会でそんなとこ見せてましたっけ?」
「名無は気付いてねェかも知れねえけどよ、俺に技教えてくれって言った時の表情がすっげえキラキラしててよ。
なんつーか・・・他の女の子にはない真っ直ぐさっつーか、純粋さがあって・・・。
気がついたら目で追ってた。んで俺は名無が好きになったってワケさ。」
自然と二人の足が止まる。時が止まったような感覚に、ドキリと胸が鳴る。
嬉しいような、恥ずかしいような。でも決して嫌ではなくて。
克巳の笑顔は穏やかな表情をしていた。そんな
「・・・有難うございますっ。なんか・・・あたしで良いのかなって・・・。ずっと思ってたんです・・・。
他にも女子部には可愛い子いっぱいいるし・・・。不思議だったんです・・・。
聞いてみて良かったです。なんだか・・・上手く言えないんですが、そのっ・・・。
凄く・・・・恵まれてるなって思っちゃいました・・・。」
「だからよ・・・。アイツじゃなく俺を選んでほしい。
・・・俺は本気だからな?」
克巳と居ると、名無のペースはいつも狂わされる。
さっきまであんなに穏やかだったのに。ライバル心に燃える克巳は灼熱の眼差しでこちらを真っ直ぐ捉えて離そうとしない。
夕焼けの景色と克巳が重なる。名無の目にはその『漢』が妙に眩しくて。
こちらの気持ちまで燃やされてしまいそうな熱を感じていた。
「_____・・・・あっ・・・。
えっと、帰りのバス・・・あと5分なんですがッ・・・。」
「え?・・・・ああマジだ!!やべえ!!走るぞ名無ッッ!!」
そういえば自分達は帰りのバスまで歩いている途中なのを思い出す。
眼差しに耐えきれなくなって咄嗟に出た言葉にしては上出来だった。
「わ、っ!?ちょ、克巳さんッッ!!?」
なのに克巳は自然と名無の手を握ってバス停まで走り出した。
元々走らなければ間に合わないとはいえ、あまりに自然な流れだった。
一緒になって走っている克巳の顔は。どこか楽しそうで、満足げで。
そしてどこか。普段より格好良く見えたのだった______
「・・・今日は有難うございましたッ。楽しかったです!!」
「じゃあな、名無。またデートしようぜ!!」
結局。バスに乗っても克巳は無言のまま手を握っていた。
離してほしい訳ではなく、言い出すタイミングが
何事もなかったかのように爽やかに去っていく克巳を見て、家に帰るまでぼんやりと手の中に余韻が残っていた。
(・・・・これが・・・好きって事、なのかな・・・?)
家に帰っても思い出してドキリと胸が高鳴る。
今の名無には、これが走った瞬間の吊り橋効果か。それとも違う感情から来るものなのか。
まだ漠然と正体が掴めずにいた。
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