──楽しい、楽しい

やめて、死んだらどうするの

──かつてこれほどまでの好敵手がいただろうか

だめ…その人は……ここの人たちは殺したくない

──１対１でこれほど楽しませてくれるやつらを殺さずにいるほうがもったいない

──そうだろう？エルザ……いや、ローズ？

そんなこと思ってない！

──忌み子として生まれた運命を呪え。本能に忠実になれ。自分を捨て、身を委ねろ。



何も感じず、何も考えず、何も悩むことなく、ただ血を求める獣に全てを託してしまえばどれほど楽になるのだろうか


そう思ったことは何度もある

けど、忌み子だろうが中に獣がいようが「私」は人間だ

呪われた恐ろしい人生……それでも私は生きたい

ようやく居場所を、私を認めてくれる仲間を見つけた


まだ生きたい

だから殺したくない、大事な仲間を


誰か私を呪縛から解き放って


助けて…ベル……



そんな内なる想いとは裏腹にベルとの交戦は激化していく

ここまで来ても精神を保っていられることに我ながら驚いている

でももうダメ

体は完全に自分の意思では動かせない

自分と自分が深くて濃い霧に遮られているように意識が朦朧とする


ああ、皆が集まってきた

ボス、スクアーロ、ルッスーリア、マーモン、レヴィ……

誰か私を止めて

それが無理なら、せめてベルだけでも正気に戻して



──邪魔なやつらが増えてきたな。場所を変えよう。



薄れていく意識、水を得た魚のように動く体


ふいにガラスが割れた音がした

高いところから飛び降りてる感覚がする


ああ、「私」が窓を突き破って外に出たのか

もう意識を保つのも限界だ

もしかしたら、次に目覚めることはないかもしれない


天国とか地獄とか信じていないけど、行くとしたら私は間違いなく地獄だろう



さようなら

最後にヴァリアーに居れて良かった

……ありがとう