『順番はどうでもいい。ただし、ベルは最後だ。嫌なものを見たくなければルッスーリアの部屋には入るな』


初の任務が幹部全員起こすってどういうことなのかさっぱり理解できない。
ルッスーリアさん？の部屋には一体何があるのだというのだ。
そして呼び方はどうすればいいのだろう。


「ルッスーリアさん、朝です。起きて下さい」


とりあえずさん付けをすることにした。

例の『嫌なもの』を見たくないのでドア越しに声をかけると返事が返ってきた。


「は～い、起きてるわよ。何か用があるの？エルザちゃん「

「はい、ボスが会議室に集合だとおっしゃっていました」

「分かったわ」


案外すんなりと起こせた。いや、起きていたのだろうか。
暗殺者なのにずいぶんと朝早いな。

次なるターゲットは部屋も近いしレヴィさんにしておこう。

彼の部屋に着いて、一呼吸置いてノックした。


「レヴィさん入りますよ」


扉を開けると目に入ったのはおびただしい数の目覚まし時計だった。
私が起に来なくてもよかったのでは……？

まぁこれもボスに言い渡された任務だ。
私はそれを全うするだけだ。


「レヴィさん起きてください。ボスが会議室に集合とおっしゃっていました」


ボスという単語が彼を起こした。


「ボスがか！？早く行かねば！おい貴様、何をしている。着替えるから早く出ていけ！」


レヴィさんを簡単に起こせたはいいものの、怒鳴られた。
私は言われるがままに部屋を出て、次は誰にしようと考えながらも前に進んだ。

その後も、鼓膜が破れそうになったり金とるぞと言われたけど任務は順調に進んだ。

ついにラストのベルフェゴールさんだ。
ベルさんでいいんだっけ？


4人にしてきたことと同様にドアをノックして部屋に入った。
床には脱ぎ散らかした服やお菓子の袋が広がっていた。
それらを出来るだけ踏まないようにベッドまで足を運んだ。


「ベルさん、朝です。起きて下さい」

「……だれ？王子まだ寝るし」


眠たそうに起きたと思ったら二度寝をし始めた。
前髪で目が見えないから起きているのか寝ているのか分かりづらい。


「起きて下さい、会議室に集合とボスが……」

「知るかよ」


揺さぶって起こしたらどこから取り出したのか、ナイフが3本飛んできた。
とっさに避けると後ろでナイフが壁に刺さる音が聞こえた。

ベルさんが投げたと思われる位置とナイフが刺さった位置を確認し、ナイフの軌道を逆算してみた。

……もし避けていなかったら両目と眉間にクリーンヒットしていたに違いない。

寝起きでそこまで正確にナイフを投げつけるセンスに驚きつつ、ある種の恐怖を覚えた。


「へー、新人にしてはやるじゃん。んで、会議室だっけ？」

「はい、そうです。では失礼いたします」


目が覚めたのか、ベルさんは上体を起こしてこちらを見据える。
その視線は私を見定めているかのように感じた。

あまり心地いいものでもなかったし、長居は無用だとも思ったので頭を下げ散らかった部屋から出て行った。

もしかしたら、任務というより試験に近かったのかもしれない。
それならベルさんを最後に起こしに行けと言われた理由も分かる。

ベルさんを起こす、不機嫌になってナイフを投げてくる、避けられなかったら死ぬ。
おそらくこういう過程があったんだ。

もし避けることも出来ないのであれば幹部失格、というところか。
そんなことを考えながら会議室に向かった。