ここはどこ？

見渡す限り黒、黒、黒。

漆黒の世界だ。


あぁ落ちる。
いつまで落ち続けるのか分からない。

手を伸ばしても差し出してくれる手はいつまでたっても現れない。
その代わりに、下からは数多くの手が私を引きずり下ろそうとしている。

もう見慣れた、死人の青白い手が。
私が殺した数だけの手が蠢いている。

そうか。

私は『落ちて』いるのではなく『堕ちて』いるのか。


嫌だ、誰か助けて！

死にものぐるいで精一杯手を伸ばすと一筋の光が見えた。
闇の世界を照らしてくれる鮮やかな光。
生きた人間の手が私の手に近づいてくる。

あと少し、あと少しで届く──。
































あと数センチのところで目が覚めた。

今までにも何回かあの夢をみたことがあるけど、最後に出てきた光の手は初めだった。
あの手は一体誰？

ひんやりした固い床の上で汗だくになりながら私は時計を見た。


「５時３８分か」


任務までに時間があることだし、シャワーを浴びて汗を流すか。

ホースから止めどなく流れ落ちるお湯の中、答えを必死に探した。
が、やはり見つからない。

あの手は一体誰のもの？

バスルームを出て濡れた髪をタオルで拭きながら殺風景な部屋を見渡した。
やはり目に入るのは真っ白で大きいベッド。

ここ10年間、ろくな場所で寝ていなかったから布団やベッドで寝るのはしっくりこない。
いや、落ち着かないのだ。

時計を見ると長針が12、短針が6を指していた。

濡れた体を拭き、昨日支給された隊服を着た。
少し大きかった。ヴァリアーには女は滅多に入隊してこないそうだから男物の隊服でまかなっている。

サイズは今日新調する予定だ。

そういえばマーモンさん？の隊服はどうなっているのだろう。
……何と呼べばいいのか聞いておく必要があるな。

今後のことを考えていると時計の長針が6を指したので部屋を出た。