ベル死にかけ騒動から数日経過した

私の体調もすっかり元通りになった

ここ数日動いていなかったし体もすごくなまっているはずだ

私は当初の予定通り、ある場所へ向かった


──地下１階のトレーニングルーム


ここで鍛練し直して己の身体を強化させよう

早速私はサンドバッグに蹴りを入れた

ほとんど使用されていないこのサンドバッグは新品独特の堅さを持っていた

みんなは実戦で力を培っていくんだろうけど、私はそれだけでは不安だ

このサンドバッグは私がぼろぼろにしてやろう


このささやかな決意を目標にして蹴り続けた

１歩目は右足で踏み込み、２歩目の左足では勢いをつけ、その勢いをさらに加速させて右足で蹴る

さらにその逆も同じようにした

あのときペンダントを盗られたのは自分の力不足のせいだ

そして、再び足手まといにならないようにという思いを込めてサンドバッグと格闘していた

足に力を集中させて、集中させて……させたいけどできるわけがない

さっきから誰かの気配を感じる

私は鍛練を一時停止し、ため息をついた




「誰」

「ちぇっ、バレたか」




キィと開いた扉から現れたのはベルだった

何なんだこの暇人は

何だか最近頻繁にその姿を見ている気がする

当の本人はというと何をするわけでもなく、ただ壁にもたれかかって黙ってこっちを眺めているだけだった

私も特に言葉を発することなく、再びサンドバッグと向き合った


数分経ったところでサンドバッグにナイフが刺さった




「……邪魔するなら出てって」

「そんなん実戦じゃ使えねーぜ。肉体鍛えてるなら話は別だけど」




ベルはそう言いながら近づいてきた

どうやら私と戦う気満々みたいだ

病み上がりなのに大丈夫だろうか

この間までふらふらしていた私が言えたことじゃないけど

考え事をしている内にベルが一気に間合いをつめ、私の懐に入ってきた

私は咄嗟に後ろへ跳んだ

もし避けていなければベルの拳がお腹に直撃していた


そういえば、ベルは格闘もいけると聞いたことがある

そっちがそのつもりなら病み上がりだろうが容赦しない

私は鍛練していた様にベルに蹴りをいれようとした

すると、それを予知していたかのようにするりと避けられた




「練習してたのと同じリズムだし、それじゃあ簡単に次の攻撃予想されんぜ」

「あ」




確かに１、２、３。１、２、３という単調なリズムで打ち込んでたかも




「じゃ、そんだけ。強くなりたかったらちゃんと飯も食えよー」




それだけ言い残し、手をひらひらさせながらべルは去って行った

そして、彼に言われて気がついた

今日はまだご飯を食べていない

意識すればお腹がすいているのを強く実感した

私は短くため息をつき、トレーニングルームをあとにした