太陽の高度がちょうど最高に達した頃、１台の車が止まる音が窓の外から聞こえてきた

小さな客人のご登場だ


しかし、談話室にやって来たボスの後ろにはスーツ姿の男しか見えなかった




「もう一度言う。絶対オレの部屋に近づかせるんじゃねぇぞ」




ボスがうっすらと殺気を混じえた声で言ったあと、後ろにいたスーツ姿の男が声を放った




「お忙しい中、本当に申し訳ありません。ではよろしくお願いします」




男は深々と頭を下げた


すると彼の足の後ろから１人の可愛らしい少女が姿を現し

とてもおどおどとしている様子だ




「とても人見知りが激しい子で……、おっと、もう時間だ。それではよろしくお願いします」




男は少女の頭を撫で、さっそうと去って行った


男の姿が見えなくなり、見知らぬ人ばかりになった状況で少女は更に不安げになった


ちょっとした沈黙を破ったのはお腹がなる音だった

エルザはすかさず目線を合わせるためにしゃがみ込み、微笑んだ




「お腹空いた？一緒にお昼ご飯作って食べよっか」




エルザが差し出した手に小さな手が乗った

２人は手を繋いで厨房の方へと歩き出した




「エルザちゃんて表情のスイッチでも持ってるのかしら。いつも無表情に近いのに、すぐにあんな笑顔を作れるなんて」

「つーかあいつ多分子ども好きだぜ。この前もオレが殺そうとしたガキを助けたし」

「ベルちゃんそんなことしてたの……」




半ば呆れながら言うルッスーリアがふとあることを思いついた

そしてベルにある提案を持ちかけた

その提案にベルは少し悩んだ後、その提案に賛成した



一方、厨房ではゆで卵を１センチ角程度に切っているエルザがいた

そして切り刻んだ卵をボウルに入れた




「ローラちゃん、ここにマヨネーズを入れて混ぜてみて」

「はい。このくらいですか？」

「もっとマヨネーズ入れた方がいいよ」




そう言いながらエルザは食パンの耳を切り落としていた

どうやらサンドイッチを作っているようだ


厨房の外では細く扉を開け、２人を見ている影が２つあった




「あのガキ、ローラっつーんだ」

「でも、まだちょっと遠慮がちね。敬語というか丁寧語使ってるし」

「ずっといるわけじゃあるまいし、別にいいんじゃね？」

「２人を見てたら何だか胸がキュンキュンするわ」

「無視かよ。てかキモい」




気を取り直して厨房を覗いた

もちろん、覗いたのはルッスーリアだけだが

しかし、エルザの姿が見当たらない

不思議に思っているといきなり２人の後ろから声がした




「なに覗いてんのよ」




声の主はローラの前で見せていた笑顔でなく、表情を作っていないエルザだった




「げっ、いつの間にこっち来たんだよ。言っとくけど王子は覗いてねーからな」

「覗く覗かないの問題じゃなくてコソコソされるのが嫌なの」

「じゃあ堂々としとけば許してくれるかしら？」

「そういうことじゃ……まぁどっちでもいいけど。ローラちゃん待たせてるから行くね」




その後すぐに優しい声に切り替えて厨房の中へ戻って行った

中から楽しそうな声が響いていた