今日は非番ということで、たまには街に出てみようと思った。

ヴァリアー邸はなにかとうるさいからたまには静かに過ごしたい。
町の中もなかなかうるさいけど、あれは聞き過ごせる。

絡まれることも滅多にない。
朝食を手短に済ませイタリアの街へと繰り出した。


行き交う人は多く、こ洒落た洋服屋やランジェリーショップは結構な混み具合だった。
今日は世間では休日なのかな。楽しそうな会話や日常で溜まった愚痴が飛び交っている。

そんな景色に溶け込んで、私もどこか適当な店へ入る。
外とは隔離された涼しい空間だ。


「このスカート可愛いー」

「こっちのも良くない？」


スカートということは私はどうやら洋服屋に入ったようだ。

声の主の方を見てみると１０代後半くらいの女性が２人いた。
やっぱり友だちとこういう所に来ると楽しいものなのかな？

ぼんやりとそんなことを考ながら買いもしない服を眺めていた。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか？」


急に声をかけられ、びっくりして振り返ると営業スマイルの店員さんがいた。


「今流行っているのはこちらのワンピースですよ。色も様々な種類があるので是非どうぞ」

「あの、見ているだけですので……」


私がしどろもどろ答えたら頭を下げてまた他の客のところに行ってしまった。

もう声をかけられぬようさっさと店を出た。
これが表の世界か。

今思い返せば表の世界に溶け込んで過ごすのはほとんど初めてかもしれない。

さっきの店でも私をお客さんとして見てくれた。
これが、ごくごく普通の一般的な日常。

物思いにふけながら行く当てもなくイタリアの街を徘徊した。