昨日の任務は疲れた。
着なれないドレス、改まった口調や仕草、その上ハイヒール。

今日はゆっくりと……


「う"お"ぉい！何すんだ」

「鮫にカルシウムが足らないから牛乳与えただけじゃん」

「ぶっかけたの間違いだろがぁ。しかも与えたって何様のつもりだ！？」

「王子様」


……休めそうにないな。
皆、朝っぱらから元気だ。

ベルには昨日の疲れは存在しないのか。

そしてスクアーロは「鮫」と言われたことは見事に触れなかった。

ルッスーリアの声も加わって聞こえた後、スクアーロの短い断末魔も聞こえてきた。
多分ボスに「うるせぇ」とか言われながらグラスを頭に投げられたのであろう。

ドア越しの光景が全て目に浮かぶ。

ため息交じりにベッドにダイブした。
が、10秒も経たない内に起き上がった。

やはりベッドは落ち着かないのだ。

窓から降り注ぐ陽光が目にしみる。
カーテンを閉めるついでに外の景色を見回すと見たこともないような美しい庭が広がっていた。
何故今まで気付かなかったのだろうか。

そのまま体が勝手に動き、3階の窓から飛び降りた。
一体誰が整備しているのだろう、という疑問を持ちながら探索を始める。

それにしてもすごい。
青々とした芝生や色とりどりの花たち、影という黒色を作り出す大きな木。
椅子やテーブルまでもある。

それらが互いを壊さずにバランスを保っている
本当に、今まで気付かなかったのが不思議なくらいだ。

気持ちが休まるし癒される。
いい場所だ。

時間が限りなくゆっくりと流れている。

ふと、ある花壇が目に入る。
時間が一瞬止まったが、すぐに動き出す。

その花壇の近くに大きな木があった。
その木に登り、太い枝に座ったら元からあつらえてあったようにフィットした。

心地よい香りに包まれながらいつの間にか眠りについていた。































爽やかなそよ風がひんやりとした風になり始めた頃に目が覚めた。
人の気配を感じたからだ。


「そんなとこにいたら危ないわよー」

「ルッスーリア？どうしたの」

「ここのラベンダーを摘みに来たのよ。いい香りでしょ。部屋に飾ろうかと思って」

「うん、すごくいいと思うよ」


ルッスーリアは一瞬驚いた顔をしていた。
でもすぐににっこりと笑い、一緒に摘まないかと誘ってくれた。

それにしても久しぶりにぐっすりと眠れた気がする。
なんとなくいい夢も見たような気がした。

早速談話室には白い花瓶に紫の花が咲いていた。


「おいカス、これは何だ」

「ラベンダーだろがぁ」

「誰が持ってきた」

「私よ。別にいいでしょ、エルザちゃんも嬉しそうだし」

「しし、本当だ。いつもより何か穏やかな顔してる」


何故ここの人たちはこうも私に絡んでくるのだろう。
しかもベルの顔が近いのは気のせいか？

それよりも、私そんな顔してたんだ。


「ベル、顔が近い」

「じゃあもっと近づけてやろーか？」

「こら！ベルちゃん」


ベルの悪ふざけにいちいち注意するルッスーリアは大変だろうな。

エルザの口の端から小さな笑いがこぼれたことは本人を含め誰も気づかなかった。