巻き(幸福)、蒔き(木:誠実さ)、槇(色褪せぬ恋)――甘く、まいて
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翌朝。ファブレ邸を包むのは、これ以上ないほどに晴れ渡った、どこまでも澄んだ青空だった。
庭園に面した廊下で、ルークと彼女は運悪く(あるいは運命的に)正面から鉢合わせしてしまう。
「あ……」
「お、…おう。おはよう」
顔が合った瞬間、昨夜の唇の感触や、バウムクーヘンを「あーん」した記憶が鮮烈に蘇る。
二人は弾かれたように視線を逸らし、不自然なほどキビキビとした動きで、付かず離れずの距離を歩き出した。
(…やっべー、どんな顔して隣に並べばいいんだよ!)
ルークは自分の頬がまた熱くなるのを感じていた。
昨夜は勢いで「後悔するからな」なんて格好をつけたが、
いざ朝の光の下で見つめ合うと、心臓が口から飛び出しそうなほど跳ねている。
彼女もまた、書類を抱える手に力が入り、視線は足元のタイルに釘付けだ。
けれど、どうしても隣の彼の様子が気になって、睫毛の隙間からチラリ、と盗み見てしまう。
(あ、今ルークくんもこっち見た……!)
視線が絡みそうになるたび、二人して「ふいっ」と反対方向を向く。
そんなぎくしゃくとした歩調が、廊下に不器用なリズムを刻んでいた。
「……あー、その。昨日の、ケーキ。……腹、壊してねーか?」
「えっ!?う、うん。全然!すっごく美味しくて、元気になっちゃった」
「そ、そっか。…なら、いいんだけどさ」
会話が続かない。けれど、沈黙は決して苦痛ではなかった。
チラチラと視線を送り合い、お互いの顔がまだ赤いことを確認しては、小さく口元を緩める。
「…なぁ」
「なに?ルーくん」
「…いや、なんでもねーよ」
ルークは、ほんの一瞬だけ彼女の指先に自分の手を触れさせ、すぐにまた前を向いた。
たったそれだけのことで、胸の奥が温かなフォニムで満たされていく。
一度は全てを諦め、消えようとした二人。
けれど今、こうして新しい朝を迎え、お互いの存在に照れ、笑い合っている。
重なり合う年輪のような日々は、まだ始まったばかり。
輝くような朝の光の中、二人の影は寄り添うようにして、どこまでも続く未来へと伸びていった。
そんな二人の「甘酸っぱすぎる登庁風景」を、廊下の角から生温かい目で見守る影が二つあった。
「…おいルーク。いつまで玄関先で踊ってやがる。さっさと歩け、見苦しいぞ」
呆れ果てたような声と共に現れたのは、ナタリアを伴ったアッシュだった。
彼は腕を組み、昨夜の「大慌て」を棚に上げて、これ以上ないほどの蔑んだ……もとい、
呆れ顔をルークに向けている。
「わっ、アッシュ!? お、お前こそ……なんだよ、その顔は!」
「てめぇのニヤけ面があまりにクズすぎて、反吐が出るって言ってるんだ。シャキッと立ちやがれ!」
アッシュの容赦ない罵声に、ナタリアが「まあまあ」と扇で口元を隠して微笑む。
「アッシュ、それくらいになさって。ルークも彼女さんも、昨夜はとても良い『夢』をご覧になったのでしょうから」
ナタリアの優雅な追撃に、ルークと彼女は揃って茹で上がった。
さらに、そこへトドメの一撃が降ってくる。
「あ~らら! 昨日のスパルタ特訓の成果、バッチリ出てるみたいだね~?」
ひょっこりと柱の陰から現れたのは、もちろんアニスだ。
彼女は指で輪っかを作って覗き込むような仕草をしながら、
これでもかというほどの「ニヤニヤ」を浮かべて二人を追い詰める。
「ルークもアッシュも、アニスちゃんの言う通りにして大正解だったでしょ?
感謝のしるしに、お給料アップとか……期待しちゃってもいいのかな~?」
「てめぇ、アニス……! 見てたのかよ!」
「バッチリ☆ 二人とも、顔が赤すぎてバチカルの朝焼けより眩しいよぉ~?」
「うるせぇ!」「あっち行け!」と喚くルークと、無言で拳を固く握りしめるアッシュ。
そんな二人を笑い飛ばすアニスと、優しく見守るナタリアと彼女。
かつて世界を覆っていた重苦しい預言(スコア)は、もうどこにもない。
ここにあるのは、ただの不器用な青年たちの、騒がしくて愛おしい日常だけだ。
ルークは一瞬だけアッシュと視線を合わせ、どちらからともなく小さく鼻を鳴らした。
昨日焼き上げたバウムクーヘンのように、これからも喧嘩して、笑って、
少しずつ「二人」の時間を積み重ねていく。
「……行くぞ、みんな!」
ルークの号令に、仲間たちが笑顔で応える。
踏み出した一歩は、眩しい朝の光の中に溶け込み、確かな足音を響かせて未来へと続いていった。
*ゲームをプレイして、どうしても切ないEDだったので突発的に書いてみました。