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それは、ある日のこと。ユーリにプロポーズされるよりも前。
ちょうどギルドが軌道に乗り出して間もない頃の出来事である。
いつものように、魔物討伐に駆り出された一行。
「・・・・・・・・はぁ。やっと終わった」
いつもなら、なんなく魔物を蹴散らして平気な顔をしているが。
私は無意識に大きい溜息をついてしまった。身体がいつもより重い。
「? どうした?」
「え?あ、ううん。なんでもない」
「そうか?ん?ラピード??」
「くぅーん」
ラピードがこちらに寄ってきて、スリスリとしてくる。まるで、大丈夫か?と。
これはまずい。もう来たのか。いつもより早くない?この感じ、絶対そうだ。
ラピードに気付かれてる…!違う、怪我じゃないのよ、これは。
「さ、ダングレストに戻りましょ。私、先に行くね!(早く替えの準備しなきゃ!)」
心配してくれたラピードに申し訳ない。頭を撫でてやり、さっさと走り出した。
「え。あ、おい!」
「ちょっと!」
「ユーリ。カロル。先に行かせてあげなさい」
「ジュディス?なんで」
「いいから。後は私に任せてちょうだい」
「‥‥?」
オレの前からさっさと走って行ってしまったあいつに首を傾げる。
さっきから様子が変だった。ラピードがあんなに心配そうにするのも珍しい。
理由を聞こうにも、ジュディも先に戻るとあいつを追いかけ行ってしまった。
「なんだよ。もーう僕にはさっぱりだよ」
「ああ…なんだいったい。なぁ?ラピード」
「わふ。くぅーん」
残されたオレら男性陣はそろって首を傾げるしかなかった。
ラピードだけはいまだ心配そうに尻尾が下方向である。
「はぁはぁ。やばい。…っと、立ち眩みだ。これはまずい」
どうやら今回は非常に重いのが来たようである。
身体は重いし、息切れも酷い。
早く宿を取って、替えを穿いて、横にならないと倒れそうだ。
「っ」
宿まであと少しのとこで、またくらりとめまいが襲ってきた。
(まずい・・・!)
もうダメだ、と倒れそうになった時。
ぷよん、と背中から柔らかい感触が。え…?
「思った通りね。慌てて戻って正解だったわ」
「…ジュディ?」
倒れそうになったのを、後ろから抱きしめる形で助けてくれたのだ。
いつの間に?え、もしかして気付かれてたの?
「ふふ、女なんだから当然よ。さ、宿まで肩を貸すわ」
「ありがとう…」
持つべきものは同性の仲間だ。何も言わなくても素早く察してくれた。
「個室にしておくから。貴女は早く替えに行ってらっしゃい」
「本当に助かるよ。あーもう限界…」
「顔が真っ青ね。ユーリ達には後で言っておくわ」
「うん。本当にありがと。ジュディ」
「いいのよ。お互い様よ」
ジュディには今度お礼に何か御馳走しよう、と思いながらお手洗いに駆け込む。
すると案の定だ。月の物が来てしまっていた。はぁ…とまた溜息が漏れた。
替えて自室のベッドで横になってると、ノックの音が。
「…はい。どうぞー勝手に入って」
「オレだ」
「ユーリ?悪いけど今夜は、いや暫く夜は付き合えないから」
私が横になってるベッドの縁に腰かけると、私の前髪をかき上げた。
「ジュディに聞いた。熱はないが…顔色悪いな。
(スン…) ん?いつもより香りが…」
「Σぎくう!」
「なるほど。あんた、いつもより早くないか?だからか…」
ユーリにまで気づかれた…!いつもより香りがきつくなるから仕方ないけど。
いつも身体を重ねているせいか、私の生理のサイクルまで知っている。
ユーリは申し訳なさそうな顔をして、私の身体に手を伸ばしてくる。
「え、ちょっと…!」
「何もしねえって。ただ、気づいてやれなくて悪かったな」
「ユーリ…」
さわさわと私の下腹部を優しくさすってくる。労わるように。
ユーリが撫でるところから、温かくなって痛みやだるさが緩和してくるようで。
「ん。ユーリ」
「なんだ?」
「もうちょっと撫でて。気持ちい~^^」
「はは。いくらでも」
暫く穏やかな時間が流れた。すると、ぐぅと部屋に間抜けな音が響いた。
私は一瞬にして顔を真っ赤にさせる。恥ずかしぃ。
「お腹空いたのか。いいぜ、オレが作ってきてやる。厨房借りるか」
「いいの?やった!ユーリの手作り久々だ」
「何食べたい?っつても、その体調だとあまり無理は出来ねえか」
「ユーリに任せるよ」
こりゃ責任重大だな、と笑いながらユーリは部屋を出て行った。
んー何にしようか。頭の中でレシピを考えていると。
廊下の向こうからカロルが駆け寄ってきた。
「あ。ユーリ!彼女、大丈夫だったの?」
「ああ。心配するな。あ、カロル3・4日くらいギルド休暇でもいいか?」
「へ?別にいいけど。そんなに具合悪いの?」
「あーまあ、な。日頃の疲れが出たんだろうさ」
「分かった。その間に仕事見つけておくから。お大事にって言っといて」
「ああ」
カロルは宿の外へと出て行った。相変わらず忙しない首領(ドン)だ。
宿の人に厨房を貸して欲しいと理由を言えば、快く貸してくれた。
ちょうど夕飯もピークを過ぎているから、ということで。
(たしか持ち物の食料に味噌とライスとほうれん草があったはず…あとは…)
厨房の人にキノコはあるか?と問えば、格安で譲ってくれた。
ほうれん草を細かく刻んで。数種類のキノコを洗って、ざく切り。
(良し。土鍋で良く煮込んで…っと)
旅の間、砂漠で我慢できずに土鍋うどんを作ったことがあるが、
今の彼女にうどんは少しきついだろう。
ほうれん草は、鉄分補給。
数種のキノコは、ビタミンB、D、食物繊維など豊富に含まれている。
手軽に食べられて、栄養豊富ならこれに決まりだ。
(う~ん。いい匂いだぜ♪)
ぐぅ。いけね、これはあいつのだ。腹が空いたなー。
煮込んでいる間に、ここで飯食っちまうか。
最弱の弱火にして、宿の人から定食をもらい速攻で食べる。
(お。そろそろいいか。どれどれ…おおーうまそ)
すぐに蓋を戻して火を消す。
盆には、土鍋と取り皿に蓮華、水の入ったコップを乗せて厨房からでる。
ユーリが出て行ってしばらくした頃。
ノックの音と共になんかすごい美味しそうな香りが。
「おーい出来たぞー入るぞー」
「どうぞー」
ドアノブを回して、すぐに足でドアを開ける。足癖悪いよユーリ。
でもユーリの方から漂ってくる香りに惹かれる。これは味噌の香りだ。
「え。土鍋?うどんでも作ったの?」
「いや?オレ様特製、キノコ味噌リゾットだ」(それをオジヤというのだが)
私はベッドから起きて、部屋にあるソファに移動し座る。
ユーリもソファ前にあるテーブルに盆を置くと、隣に座ってきた。
土鍋の蓋を開けると、もわぁと湯気がでて美味しそうな味噌の香りが充満する。
「うわぁ美味しそう!さっそく、いただきま――」
「ちょい待ち」
「へ?」
蓮華を掴もうとした手は空を切る。ユーリに先を越された。
ユーリは蓮華で中身を掬い、ふぅふぅと冷ましている。
「ほら。あーん」
「え、ええ!!?」
「早く食べろって。冷めちまう」
「う!あ・・あーん(ぱく)」
もぐもぐ。あ、くにくにの食感。キノコがいっぱい入ってる?美味しい。
でも、恥ずかしい。ユーリはつゆ知らず。次のを冷まそうとしている。
ムッ、悔しい。私はおもむろにユーリから蓮華を奪い、ふぅふぅする。
「はい、ユーリ。あーん^^」
「……」
「あーん。ほら早く」
「(ぱく。もぐもぐ)」
「ね?少しは私の気恥ずかしさ分かった?」
「…分かったけどよ。オレがやりたいんだ」
「もぅ。世話焼きさんですねえ」
私は仕方なくユーリの餌付けに付き合った。
ちょっと恥ずかしかったけど、ユーリは優しかったから甘んじて受け入れた。
ユーリの作ってくれた味噌リゾットは本当に美味しくて完食しちゃった。
さてと、大浴場は使えないし。身体でも拭くか。
宿の人にお湯のタライを頼もうと部屋を出ようとしたら。ノックの音が。
「もう。またユーリなの?」
「おーう。よくわかったな」
そしてドアを開けてから、両手に大きめなタライを持ったユーリが。…まさか。
「そこまで甲斐甲斐しくしなくて良かったのよ?」
「いいんだって。オレが好きでやってるんだからな」
タライをテーブルに置いて、ドアを閉めて、カーテンも閉める。
灯りを付けて、ユーリは布巾をお湯に湿らせてぎゅっと絞る。
「ほれ。さっさと脱いだらベッドに座れ」
「はいはい。ふふ、分かったわよ」
下履きだけ残して、全部脱ぐとベッドに腰かける。
ユーリは丁寧に私の首筋から肩、鎖骨、腕、胸元、お腹へと拭いていく。
いやらしい感情など微塵も感じさせず、むしろ慈愛の精神が伝わってきて。
私はユーリに全身を預けた。汗が拭われて気持ちいい。
「次は背中だな。ほい、後ろ向け」
「はぁーい」
髪を横にどけて、ユーリに背中を向ける。またお湯でぎゅっと絞る。
また温かい温度の布巾で拭かれ、私はほっこりと気が緩む。だが不意に。
「ひゃあ!?」
「ん…悪ぃ。あんたの項につい、な」
「こら!ユーリ。病人に手出しは無用!」
「あだっ!」
項にキスマーク付けられた。ほんとにもう。油断も隙も無い。
思わずチョップしちゃった。
「これ以上はしねえって。なぁ」
「なあに?」
「今夜一緒に寝ていいか?何もしない。添い寝だけ」
「ほんとにー?全く。少しでも手ぇ出したらぶん殴るから」
「おー怖。もうしねえよ」
ユーリは苦笑して、今度は両脚を丁寧に拭いて、足先までやってくれた。
こんな甲斐甲斐しくしてくれるなんて。もしかして気付けなかったから気にしてる?
「ユーリ、今日はありがとうね」
「なんだ?オレの看病に惚れ直したか?」
「ん。まあね」
ベッドに添い寝されて、こっちをニヤニヤと見るユーリに私は苦笑した。
実際にユーリにお腹をさすられて楽になったし、ご飯は美味しかった。
挙句には身体を拭くのも手伝ってくれたし。至れり尽くせりだ。
「ま。今夜はゆっくり休め。3、4日は休暇にしといたからよ」
「え。そんな。申し訳ないよ」
「ギルドの掟を忘れたか?一人は皆の為、皆は一人の為に、だ」
「う。だけど」
「いいんだって。あんたが倒れる前で良かったんだ」
頭を撫でられて、耳に髪をかけられる。そしてお腹をさすられた。
「オレに出来る事なんてこれくらいだ。痛みを肩代わりしてやる事も出来ねえ」
「ユーリ…ううん。充分だよ。嬉しい」
お腹をさすられ、気持ちよくて。トロトロと、眠気が襲ってくる。
「もう寝ろ。傍にいるから。――おやすみ」
「うん…おやすみ。ユーリ…」
ユーリの香りに包まれて、迎える夜は安心する。大好き、ユーリ。