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現在、ユーリはこれまでにないピンチを迎えていた。
誰よりも大切にしたい女を些細な話題で傷つけてしまった。
ギルドの依頼も終わり、宿屋の1室で、それはちょっとした話題から始まった。
「――ねぇ。ユーリの小さい頃はどんな子だった?
フレンと相変わらず、やんちゃな事でもしてたのかしら」
「ぁー…悪態ついてはジリばあさんに拳骨食らったり、
ハンクスじいさんには本気で叱られたこともあったな。
あんたは?同じ下町でも、全然会わなかったよな」
「んーそういえば、これは初めて話すんだっけ。
私、小さい頃は病気がちでね、体も弱かったんだよ」
「は?あんたが??」
それにユーリは驚いていた。
今でこそ強いし、騎士団では女の中でも滅法強い部類に入る騎士だったからだ。
そんなに驚いた?と微笑みユーリに言う。
「ほら。私の家族って両親いないし、
唯一年の離れた14歳上のお姉ちゃんが私を育ててくれてたんだけど、事故でさ。
親戚に預けられたけど、肩身は狭かったなあ。だから何としてでも強くなろうって、ね」
ちょっと悲しそうな顔をしたけど、
あっけらかんとした表情に戻して「鍛え始めたんだよ」と言う。
ユーリは「大変だったんだな」とこちらの頭にポンと手を置いた。
ううん、と首を振った。
「ユーリは知らなかっただろうけど、フレンとユーリのやんちゃは下町の名物だったよ」
ふふふ、と笑いながらユーリの隣に座る。いつも元気で羨ましいなあって思ってた。
「ユーリは今でこそ私の事、大事にしてくれるけど。
もっとユーリのこと知りたいな。小さい頃…そうね。初恋なんて、どうだった?
私はユーリが初恋なんだよ。遅い初恋だけどね^^」
「ばっ!!?(///) 初恋なんて何で聞きたがるんだよ。
オレは今あんたで充分満たされてるっつーの。(オレが初恋…!?マジかよ)」
若干、焦っている様子のユーリに首を傾げる。
好きな人の過去を知りたいと思うのはいけないのだろうか?
「ねえねえ~。いいでしょ~」
「あんたなー。女ってなんでそんなコイバナとか知りたがるんだよ」
「えー?好きな人のこと知りたいと思うのはいけない?」
「はぁ。ったく、しゃあねーなあ…」
頭をガシガシ搔きながら、ユーリは小さい頃を思い出す。
*下町最強だった豪傑な、ジリおばさん。ハンクスじいさんの奥さん。(小説・断罪者の系譜より)
【ユーリ回想】
あれはまだ、フレンと出会う前だっけ。
ほら知ってるだろ?下町にある〈我が家〉。
身寄りのない子が集う家で生活していたその頃。
オレはいつもの貴族の悪態にムカついていた。ちょっとした悪戯のつもだったんだ。
何故かバレてその使用人たちに乱暴されているとこに、ちょうど若い女性が通りがかってさ。
「ちょっと!そこで何しているの貴方たち!」
オレを見つけて、あわてて駆け寄って助けてくれたんだ。
奴らには少ない金を握らせて退散させて。
大丈夫?と手を差し出して、女性は何故か自宅へ連れて行って手当てをしてくれた。
「もう無茶しちゃダメよ。きみ、ユーリくんでしょ?」
「え、なんで」
「知ってるわ。同じ下町ですもの。わんぱくな子だってジリおばさんから聞いてるわ。
子供はあんなことしちゃダメ」
「なんでだよ。貴族が我が物顔で独占しているんだぜ?ムカつく」
「分かるけど。それでも一人でこんなことしてちゃ身体がいくつあっても足りないわよ?
せっかく元気に生まれてきて、健康なのだから、丈夫な体に感謝しなくちゃ」
手当てを終えて、そっとオレの頭をなでてくれた優しい掌。なぜか顔が熱くなった。
「誰でも健康でいられるとは限らないの。お姉さん、心配になっちゃうわ^^」
「う…分かったよ。悪かったな」
「あら。素直。いい子ね」
「やめろ!頭ぐしゃぐしゃになる」
オレは恥ずかしさから、つい女性の手を叩き落としたっけ。照れ隠しにも程があるだろ。
「さ、今夜は遅いし。晩御飯は食べないわよね?少し待ってて。用意するから一緒に食べましょ」
「え、いいよ」
「いいから、いいから。ジリおばさんには言っておくから^^」
ね?と微笑まれ結局断れなかった。あの綺麗な笑みにどうしてか頷いてしまって。
これが初恋のせいなのかは分からない。まだ帰るには惜しいと思ってしまったんだ。
用意してもらったご飯は質素だったけど、とても美味しかった。温かくて、味付が優しくて。
この人、そのものみたいだなって。オレは用意してもらったデザートの虜になって。
「美味しかった。ごちそーさま」
「たくさん食べてくれて良かった。デザートは美味しかった?」
「うん」
「妹もこれ大好きなの。甘いの好きで」
「妹がいるのか?お姉さん」
「ええ。そうね、ちょうどユーリくんと同じくらいかしら?病気がちであまり外には出れないの」
二階に目線を向ける女性に、あ。上で寝てるんだと知った。
「ふぅん」
「もし会うことがあったら仲良くしてあげてね?」
「ま。会えたらな」
「さぁ。それなら行きましょ。妹はやっと薬飲んで落ち着いてくれたから。休ませてあげたいし」
オレの手を取ってきた。温くて柔らかい掌に、また顔が熱くなって。俯いた。
「送るね」
「え、いや。いいよ」
「だーめ。また無茶するかもでしょ?」
「今日はもうしないって。お姉さん心配し過ぎ。大丈夫だって!オレ強いんだぜ?」
「それでもダメ。これ以上言うならジリおばさんに悪戯の事、言うわよ?」
「げ。ずりぃ!卑怯だろ!」
「嫌ならちゃんと送られて。それに夕飯ごちそうしちゃったし。
どの道ジリおばさんには報告は必要よ?」
「Σうっ。そうだった…今頃ジリババア、カンカンに怒ってやがる」
「ほらごらんなさい。言い訳は酔っ払いから助けてくれたことにしておくから。ね?」
オレの怪我や、ご飯を一緒に食べた事の言い訳まで考えてくれたんだ。
「分かった。あ、お姉さん名前教えて」
玄関の扉まで来て。手を繋いでくれる女性に名前を聴く。
下町では顔見知りが多いが、お姉さんは初めて見る顔だったからだ。
「ふふ。私の名前は――――」
「一度しか会った事ないけどな。あのジリばあさんを納得させちまったぜ。
こんなガキを庇ってくれた、本当にお節介というか、お人好しというか」
ユーリは照れくさそうに頬を掻いていた。貴方だってお人好しでしょーが。
しかし私は絶句していた。だって、ユーリの口から出てきた女性の名前。それは―――。
「運命、なのかな…」
「え?」
「もう、どうあがいても過去の、死んだ人は美化されて。ずっとユーリの思い出に居続ける」
「…どうした?」
「優しい味付、分かって当然じゃん。私がずっと好きな好物で――ユーリが作ってくれた味付は…」
私が体調不良で苦しんでた時に、ユーリが作ってくれた好物。
あれは、あの味付は私が最も身近で、大好きだった人のもので。鼻の奥がツンとしてきた。
「やだよ、私は二番煎じじゃない。今はユーリだけが好きなの。
ユーリの中にあの人がいるから私を選んだの?」
「何言ってるんだ?初恋の話だろ?今はあんたが一番だって」
「でも…!でも…」
ついに涙があふれる。何でここで判明しちゃうのよ。こんな事なら聞きたくなかったよ。
「だって、その人は私の、死んだお姉ちゃんだもの!」
「なっ」
「ユーリは私のどこが好きになったの」
「おい、ちょっと待て」
「ユーリはよくお姉ちゃんの作ってたもの、私によく作ってた。
それってまだ好きってことじゃないの?」
「は?」
私が恋するきっかけが、お姉ちゃんの味付け。
お姉ちゃんが良く作ってくれた好物。なんて皮肉だ。
ユーリに沁みついているお姉ちゃんの面影に、私はどうしようもなく悲しくて。妬ましくて。
思ってもみないことを口から出てしまった。違う、こんなこと言いたいんじゃないのに…!
ユーリの目がだんだん据わってくる。
いや、面倒くさそうに頭を掻いている。
「あんた、いい加減にしろよ。初恋はもう過ぎたことなんだよ。それとも何か?
あんたの告白を受け入れたのは、あんたの姉貴に似てるからだとでもほざく気か?」
「だって!どうしたって死んだ人には勝てないじゃない!置いてかないで、ユーリ」
お姉ちゃんがいない今、私にはユーリだけだもん、と泣きじゃくる。
自分でもめんどくさい女だって思ってるよ。でも。ユーリががいなくちゃ、私は…。
「――っとに。本当にバカだな、あんた」
「え」
泣いたままの私に両脇に手を挟み、持ち上げられる。フッとユーリが切なそうに微笑んだ。
「なぁ、どうしたらあんたに伝わるんだ?」
「ゆぅり・・うぅ」
抱き上げられた私の涙があふれ、ユーリの頬に雨のように降る。
「オレはな、町で美味そうに飯を頬張るあんたの幸せそうな顔に惚れたんだよ。
過去の事なんて頭にあるわけねえだろ。一瞬の世界で、あんたでいっぱいになったんだぜ?」
「!!ユーリ…」
買い食いを見られていた、あの時の事?そんな…。じゃあユーリはすでに私に…?
「だからオレはあんたに早く元気になってもらいたくて作った。同僚って関係だけなのにな」
それを聴いてさらに涙があふれた。じゃあユーリは本当に私の為だけに作ってくれたんだ。
「とにかく。あんたの姉貴が頑張って育ててくれたから、あんたはここまで健康に強くなれたんだろ?
感謝してるぜ。オレを助けてくれた事よりも、あんたに出会わせてくれた、運命を作ってくれた姉貴に」
「お姉、ちゃん…」
「な?オレは嬉しいんだ。あんたがいて、今が幸せなんだ。
だから、そんな悲し事、言うな。――好きだぜ?」
ボロボロこぼす涙をユーリが舐めとってくれる。
その拭ってくれた舌が、そっと私に唇を割って入ってくる。
ゆっくり、想いを確かめ合うように私に絡んでくる。
「ふぅん、ん。ユーリ・・うぅ。ゆぅりぃー」
「不安にさせて悪かった。な、どうしてほしい?」
「ううー。今夜は絶対離さない。ううん違う。ずっと一緒にいて」
「ああ。当たり前だろ」
ようやく落ち着いて、ユーリが床におろしてくれた。
なんだか恥ずかしい。過去の姉に嫉妬するなんて。
でもユーリは言ってくれた。姉に感謝しているって。私に出会わせてくれて嬉しいって。
(――ごめんね、お姉ちゃん。私、ユーリがどうしようもなく大好きなんだ)
「ユーリ…ごめん。ありがと…」
「あーもーぉ。べそべそすんな。今日は泣き虫だなぁ」
「ユーリが泣かせたんじゃん~」
「だがなー。オレとしては気持ち疑われたのは根に持ってるぞ」
「へっ!?」
ユーリの爆弾発言に、涙はぴたりと止まった。
「今夜は抱き潰す気でいくから覚悟しておけ」
「ええええ!?そんな、ごめんってばぁ~!?」
「こら逃げんな」
「ひゃああ」
あっさりユーリに捕まり、いつものようにベッドに押し倒される。
さっさと乗り上げてきたユーリは私の胸元へと手を伸ばす。
両胸のラインに沿って下から持ち上げられ、とくに左胸に口付けられた。
「っあ。ゆ、ユーリ…」
ピり、とした痛みに、紅い華を付けられたのだと気づく。
「ここ。あんたの心臓。オレだけのものだ。姉貴の代わりに護らせてくれ」
「!」
「護ってやる。だからオレがバカしないように見ててくれ。ずっとあんたの傍にいる」
「うん…うん!」
私は、ユーリの首に腕を回して密着する。離れていかないで。
お姉ちゃんが残してくれた、繋いでくれた絆を、私達は噛み締める。
――私とユーリ、運命だったのかな。お姉ちゃんが導いてくれたのかな。
…ありがとう、お姉ちゃん。
【あとがき】
ユーリの公式設定に初恋は14歳年上のお姉さんとあったので、主人公の姉になってもらいました。
実は主人公が恋する前に、ユーリが好きになっていたというパターンです。
ユーリはきっと惚れるパターンが普通の人よりずれていると思います。美醜関係ない。
貪欲で、美味しそうに頬張っている幸せそうな顔がユーリの琴線、本能に触れたのでしょう。
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