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メイドパニック!

④伊丹キョウジ





「こう言うのは早いもん勝ちだろ。」


一瞬だった。
掴まれて顔を確認したかと思うと、すぐにそのまま彼の肩に担がれる。
そして未だに呆然としたまま勢いよくその場から、連れさらわれた。


「ちょっ、離せ!離せよ!」


「あぁ?今離したらてめぇ落ちるぞ。その可愛い顔を怪我させてもいいなら遠慮なく落とすけどな。」


「っうう!?」


あの伊丹キョウジに担がれていると言うことが嫌で、暴れそうになるアラタだったが途端に冷静になり、口をつぐんで大人しくなる。
それにキョウジは『そうそう初めっからそうしろよな』とニヒルな笑みを浮かべながら歩き続けた。












「うわっ!?」


やがて着いたのは、屋上。
そこには誰もいなく、ほんのりと海から潮が混じった風が吹いている。
そこへ着くなり、アラタはキョウジに投げ降ろされた。


「いてて・・・何するんだよ!」


「あん?『降ろせ』ってさっき言ったから降ろしてやったんだよ。」


「だからってなぁ!もっとゆっくり降ろせよ。」


「いちいち注文が多い奴だな。」


態と指で耳を押さえながらアラタの言葉を面倒くさそうに受け流しつつ、ゆっくりと近づいていく。


「な、何だよ・・・言っとくけどな、エゼルダームには絶対行かないからな!」


「はっ、別に今日はスカウトしに来たんじゃねぇよ。言ったろ?ただの休憩だって。」


「なら何で俺を連れてきたんだよ・・・?」


近づいてくるキョウジに警戒心を解かないまま理由を問えば、キョウジは『さぁな』と薄い笑みを浮かべたまま一言。


「意味分からねぇ。」


「まぁただの気紛れと思え。」


「ますます分からねぇよ・・・へ、へっくし!」


キョウジの言葉にどこか呆れた表情をすれば、海からくる冷たい風が、薄着のアラタに吹く。
天気は良くてもここは外。


メイド服と言う薄着はアラタの体をいつの間にか冷やしていた。


「何だ?風邪でも引いたか?」


「かも・・・へっくし!」


「んな格好してるからだろ。ほらよ。」


再び大きなくしゃみをしたアラタにキョウジはため息を吐いた後、何かを投げ渡す。
見ればそれは彼の着ていた筈の上着だ。


「これ・・・」


「ふん。気休め程度にはなるだろ。じゃあな。」


ポケットから飴を出し、包み紙を外して口に入れると、そのまま後ろ手にキョウジは去っていく。


「あ、ちょっと待てよ。」


「あぁ?何だよ?」


「これ、ありがとうな!ちゃんと洗って返すから!」


満面の笑みを見せて礼をするアラタ。
それに対し、キョウジは『けっ』と吐き捨てる様に言った後『勝手にしろ』と屋上から出ていった。



その顔に赤みが差していることを本人は知らない。




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