メイドパニック!
「マ、マジかよ・・・」
「仕方ないだろ。」
「まぁ、うん。ヒカルの言う通りだよね・・・とりあえず頑張ってアラタ。」
「俺も、頑張れとしか言いようがないからな。」
「っうう・・・」
アラタは目の前にある現実と、後ろに控えるユノ達が持つモノ、そして今からのことを思うと深いため息を吐いた。
「おぉ色んな店があるな。」
「そうだな。」
周囲の風景を見てバネッサ、ミハイルが思わず声を上げる。
先頭にいるムラクは、そんな2人の様子と隣に同じくキョロキョロと辺りを見渡すカゲトを見て小さく笑みを浮かべた。
今日は神威大門統合学園の年に1度の文化祭。
と言っても、外からたくさんの人を呼んだりすると言った大々的なものでは無く、あくまで島内でのため小さい。
なにより文化祭のため、ウォータイムは開催される1ヶ月前から無く、また敵国同士の争い、探り合い、小競り合い等はその間は禁止とされている。
そのため生徒達は普段の緊張感から解かれ、当日は自由に各々の国の出し物や学園長が用意した余興等を楽しんだり、他の国の生徒と話をしたりと普段なら出来ないことをしている。
ロシウスの第6小隊もそうだ。
この時ばかりは、敵国のことを気にせずに休憩時間を使い、他国の出し物や催し物を楽しんでいる。
「少し疲れたな。」
「ムラク、何処かで休憩するか?」
「そうだな。時間もいい頃合いだし。」
「ここから一番近い休憩場所は・・・2年5組ジェノックの喫茶店ですね。」
自分のCCMで時間の確認をした後、見回り用の校舎内パンフレットを持つカゲトが然り気無く答える。
それにバネッサとミハイルは少しばかり嫌な顔をする。
「あの瀬名アラタのところか・・・」
「まぁ、今日は敵国関係ないからいいだろう。」
アラタに関しては過去に色々とあったが今は文化祭。
バネッサやミハイルも敵国と言うことを忘れて正直楽しみたい。
「俺は別に平気ですけど、ムラクさんはどうです?。」
「俺もかまわない。」
「うんじゃ決定ですね。」
行くことを決めるとさっそく4人は2年5組へと向かった。
ジェノックが行っている喫茶店へとやってくるなり、4人は思わず固まった。
なぜなら・・・
「い、いらっしゃいま・・・ム、ムラク!?」
「瀬名アラタ、その格好・・・」
「っうう、ジロジロ見んなよ!」
案内するためやって来た生徒は、アラタなのだが、それは良いとして問題は彼の姿だった。
青を基調とした生地とリボン、そして白いフリルがふんだんに使われたメイド服を着ており、頭には同柄同色のヘッドドレス、丈は膝上で、履いている白いニーハイとの間には所謂絶対領域が見えている。
「「あははっ!男が、それも女の格好なんて・・・ありえない・・・はははっ!」
「うっさいな!仕方ないだろ!負けたんだから・・・」
「ま、負けた?」
「じゃんけんだ。」
盛大に腹を抱えて笑うバネッサに、恥ずかしくて赤らめた顔でアラタが文句を言えば、ミハイルが笑いを堪えながら問う。
それに答えようとすると、やって来たのはヒカルを筆頭にハルキ、サクヤと第1小隊の面々だ。
この3人の服装は白いYシャツに青い蝶ネクタイをつけ、上からは同色のベストをはおり、下は同色のズボンを履いている。
似たようなデザインから、おそらくアラタが着ているメイド服とセットなのだろう。
「ヒカル、ハルキ、サクヤどうしたんだ?」
「入り口辺りで立ち止まってたから心配で見に来たんだよ。」
「ところで、じゃんけんとこの格好がどう繋がってるんだ?」
カゲトの問いに『あぁ』と言った後、ハルキが少々困った表情でだか代表で答えた。
「服装が男子はウェイター、女子はメイド服と決まった際、一部(主に第4小隊)から『第1小隊は全員男子で華がないから1人だけ女装しろ』と言われてな・・・最初はもちろん反対したんだが、美都先生が了承してしまって結局じゃんけんで誰が着るかを決めたんだ。」
「それで負けたのか・・・プププ、だっせぇ。」
「だから仕方ないだろ!俺だって嫌だし似合わないから、初めはヒカルかサクヤにした方がいいって言ったんだ!そしたら拒否されて、じゃんけんになったんだよ。」
「いや、その、僕も似合わないってアラタ。」
「ふん、僕がそんなもの似合うわけないだろ。ただでさえ美しい僕が。」
「お前そんなキャラだったか?」
(最後の会話はある程度置いといて)ハルキの説明に全員が納得する。
ちなみにアラタが話した中に、ハルキがいなかったのは当たりと言えば当たりだろう。
ハルキはいかにも見た目的にも男子だ。
サクヤは身長や口調、性格、そしてヒカルは端正で中性的な顔立ちと美貌を持っているため、女装してもそこそこ似合うだろうが、ハルキは全く似合わないし、着たとしたら今のアラタ同様いい笑い者だ。
各々がアラタの女装の件で話していれば『カシャ』とシャッター音が聞こえる。
ふと見れば、今まで殆ど喋らなかったムラクが自分のCCMを片手に持ち、何かをしていた。
その後『保存・転送完了』と言う音声も続く。
『まさか・・・』とその場にいた誰しもが同じことを考え、代表でミハイルが聞いた。
「ムラク、何しているんだ?」
「瀬名アラタの写真を撮った。」
案の定の一言にアラタは慌ててムラクに叫ぶ。
「ムラク今すぐ消せ!!マジで消せ!」
「無駄だ。今俺のパソコンの方にも撮った写真を転送したから、この写真を消しても意味がない。」
撮った写真を見せながら堂々と言い放つムラクに『嘘だろ!?』と更に慌てだすアラタ。
一方それに呆然とするのはバネッサ達、第6小隊の面々だ。
「「ムラクも変わったよな。今まで任務や自国にしか興味持たなかったのに。」
「まぁな。」
「けど良いじゃないっすか。あんなムラクさん、今まで見たことないし。瀬名アラタも結構面白いやつだし、俺、ムラクさんが惹かれるの分かるっすよ。」
「まぁ、堂々と敵国の寮やクラスに来て話しかける事態普通の生徒ならしないしな。」
「確かに。」
3人が話をしながらアラタとムラクの様子を見ていれば、ハルキが『勝手にうちの隊員の写真を撮らないでほしい』と2人の間に入り発言し、それに対し『なら許可があればいいのか』とムラクが言い返せば、ハルキは更に続ける。
隊長2人の間にはいつの間にか見えない火花が散っていた。
ちなみにヒカルは2人が言い合いを始めたのを見て、早々に距離をとり(ただしアラタの側は出来るだけ離れない)、サクヤは苦笑いを浮かべている。
一方のアラタは2人の間に入れず『えぇと・・・』と困惑していた。
その時、不意に声が聞こえた。
「へぇ、面白ぇ格好してるじゃねぇか瀬名アラタ。」
「えっ?あっ、お前はエゼルダームの伊丹キョウジ!?」
声のする方を振り向けば、そこに居たのはエゼルダームに所属し、依然アラタを態々女子生徒の名前で呼び出し、勧誘しに来た伊丹キョウジ。
アラタは咄嗟に睨み付ける。
「何の様だよ。」
「そんな怖い顔で睨むなよ。一休みしようって思って喫茶店(ここ)に偶然入っただけなんだぜ。まぁ、お陰で面白いもんが見られたが・・・」
そう言うと下から上へと、全体を舐め回すようにアラタを見る。
その何とも言い難い視線と言葉に気付いたアラタは、顔を赤くしながらすぐにスカートの裾を引っ張り見えない様にする。
「見んなよ!面白くもないし!」
「いいじゃねえか。別に減るもんじゃねぇし。それに好きでやってるんだろ?」
「好きなわけないだろ!」
ジロジロと見続けるキョウジにアラタはあまりの恥ずかしさで、正直半分泣きそうになった。
だが、そんなキョウジの視線を遮る様にアラタの前にムラクとハルキが出る。
それにキョウジは口笛を吹いた。
「おっ、騎士(ナイト)達のお出ましか。」
「黙れ。」
「俺の隊の隊員を侮辱するのは許さん。」
「ムラク、ハルキ・・・」
2人の様子にアラタは安堵する。
その横では『もちろん僕もだ』とヒカルが腕を組ながら冷たい視線を向け、後ろではサクヤも同じように睨んでいた。
周囲に緊迫した空気が漂い始める。
そんな時・・・
「ちょっと、店の入り口で何してるの?」
呆れた表情をしてやって来たのは副委員長の鹿島ユノだ。
彼女はアラタと同じメイド服とヘッドドレスをつけている。
「ユノ、実は・・・」
サクヤが簡単に今までの経緯を説明すれば『なんだそんな事』と返ってきた。
そしてその後、ある意味とんでもない言葉で返してきた。
「なら、さっさと誰かがアラタを自分のものにしたらいいじゃない。」
「はあ!?」
「だって、話聞いた限りでは結局皆、アラタが好きだからそんなことしてるんでしょ?だったら、さっさとそうすれば終わるじゃない。」
『何でそうなるんだよ!』と今度はユノに対し困惑しながら叫ぶアラタ。
だが周囲はその言葉に納得していた。
「なるほどな。」
「確かに。」
「面白いじゃねぇか。」
「フン。」
「ちょ、ちょっと待てよ!?」
周囲の様子に更にアラタは慌て出す。
そんな時、突然誰かに腕を引っ張られる。
(えっ・・・)
引っ張られた方を見た瞬間、アラタは驚いて目を見開く。
そこにいたのは・・・
①ロシウス第6小隊隊長→P2
②第1小隊隊長→P3
③同隊でありルームメイト→P4
④エゼルダーム所属の以前勧誘してきた生徒→P5
⑤第2小隊隊長→P6
⑥第3小隊隊長→P7
⑦第4小隊メカニック(※NL)→P8
⑧第5小隊隊長→P9
⑨ロシウス第27小隊隊長→P10
⑩???→P11
あとがき→P 12
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