優しすぎる君
医療室。
そこの患者用ベッドの上に刹那は座っていた。
左頬には大きなガーゼをつけ、目の周りは涙を拭く時に擦ったらしく赤く腫れている。
「刹那、Msスメラギが来たぞ。」
ドクターの言葉にサッと扉の方を向くと、スメラギとその後ろからロックオンがやって来た。
スメラギは簡易な診察用の服の隙間から見えたうっ血の痕と左頬についたガーゼを見て、改めて彼がどれほど酷いことをされたか身に染みた。
「Msスメラギ・・・」
ポツリと呟く様に刹那が名を呼ぶ。
スメラギはハッと我に返ると彼の隣に座り、出来るだけ明るく言った。
「何かしら刹那?」
「あの時・・・」
「あの時?」
「Msスメラギが地上にいる時・・・住んでいたマンションに俺が訪ねた時だ。」
その言葉でスメラギは思い出す。
「あぁ、あの時ね。それがどうかしたの?」
「あの時、俺がアンタを連れていかなければ・・・アノ男の心は壊れずに済んだ・・・すまない・・・」
刹那の体がカタカタと震え、すまないと言った瞬間にポタポタッと涙が出始める。
「えっ!刹那それって・・・ビリーの事?・・・」
刹那が頷いた後、その言葉を聞いてスメラギは一瞬驚いたが、すぐに嫌な予感を感じ、まさかと思い不本意ながら聞いた。
「刹那・・・もしかして・・・それって・・・ビリーにヤラれたの?」
刹那は体を震わしたままゆっくりと首を縦に振った。
そしてスメラギに『ゴメンなさい・・・ゴメンなさい』と小さな声で謝った。
スメラギの嫌な予感は見事に的中した。
信じたくなかったけど、信じるしかない現実。
彼の元から無理矢理去るみたいな事をし、裏切った自分。
(ビリーは・・・私への復讐のために刹那を・・・こんなにまで・・・)
スメラギは堪えていた涙を溢した。
「すまない・・・Msスメラギ・・・無理矢理連れていかなければ・・・すまない・・・」
それを見て、刹那は自分のせいだとまた感じ謝る。
(この子は・・・刹那は・・・こんなになってまでも彼を恨まず、私に謝罪してきた・・・)
スメラギは涙を流す刹那を優しく抱き締めた。
「あなたは・・・優しいわね・・・」
涙を拭き、微笑むスメラギ。
「俺は・・・優しくなんかない・・・俺は・・・破壊者・・・人を傷つける・・・」
「あら、優しいわよ。」
未だ流れる刹那の涙を拭くと、今度は頭を撫でる。
「だって、こんなめに遇っても彼を恨まなかったし。それに、起きた後も普通なら人間拒否をしたりなんかするのに刹那、あなたは逆に私に謝罪してきたでしょ。」
刹那はコクりと頷く。
「それはあなたが優しい証拠よ。確かに私達CBは破壊者でしかない。けれど、その破壊者だって人間何だからそんな心あって当たり前なのよ。」
そう言うとスメラギは刹那のガーゼがついている左頬に触る。
「謝らなければいけないのは私の方ね。ビリーに頼りすぎて、優しい彼の心を傷付けてしまったんだもの。そして、壊れた彼はあなたを私への復讐として一生残るような傷を付けた。本当にゴメンなさい。」
その謝罪に刹那は頭をフルフルと横に振る。
「俺も悪い。連れ戻すとは言えCBのメンバーである事をバラしてしまったし。あの男を壊したなら俺も一緒だ。」
「本当、優しいわね刹那は。」
それから落ち着いた刹那は再び眠りついた。
ロックオンがその側について。
スメラギは自室に戻ると、冷蔵庫にあるワインを取り出しグラスに注いだ。
(ビリー・・・)
飲まずにただグラスを回す。
「私は過去の他にも、ビリーについてケリをつけないといけないわね・・・」
(優しすぎる彼が・・・2度と傷付かないように・・・)
そう思うとグラスの中のワインを1口飲んだ。
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