優しすぎる君
「なっ・・・これは・・・」
一目見ただけでも分かる。
あの悲鳴の後、彼に何があったか。
刹那の手首には相当キツク縛られたらしく濃く青紫色の痕が残っている。
それを見つけ、今まで縛られていた事にティエリアは気付く。
(刹那・・・僕があの男の言葉に動揺されてなければ・・・パーティに参加したいと言わなければ・・・)
自分の行動に悔やむ。
しかし、今はそれどころじゃない。
ティエリアはすぐに我に戻ると、2人の元に駆け寄った。
「ロックオン、何をしている。」
「えっ・・・」
名前を呼ばれ、涙を流しながらティエリアの方を向くロックオン。
「早く刹那を運びだすんだ!でないと離れてるとはいえ、すぐに敵に見付かる。」
その言葉にロックオンは慌てて涙を拭き、冷静さを取り戻した。
(そうだ・・・今は泣いてる場合じゃない・・・)
「分かった。急ごう。」
ロックオンは立ち上がり、刹那を姫抱きにしてティエリアと共にガンダムを置いてある場所に向かった。
着くとすぐさま刹那にパイロット・スーツを着させ、ケルディムに同乗させて2人はトレミーに帰還した。
乗る前にティエリアはダブルオーを自動操縦モードにすることと、すぐにドクターを呼ぶようミレイナに頼んだ。
トレミーに帰還すると、すぐさま刹那は医療室に運ばれた。
ロックオンは怒りを隠せずにギュッと拳を握り締め、ティエリアは悔しそうに唇を噛み締めながらパイロット・スーツを着たまま待機室にいた。
「ねぇ、一体何があったの?」
アレルヤが今だ着替えない2人を心配して声をかける。
アレルヤは刹那がケガをした事以外詳しいことは聞いていない。
それは他の、トレミーにいた人間も同じ。
ロックオンとティエリアが刹那の事を気遣い、詳しいことは言わなかったのだ。
「・・・いずれ、分かることだ。」
ティエリアがゆっくりとした口調で言った。
アレルヤはその言葉の意味を理解すると2人の表情を交互に見て、そっとする事にした。
数十分後
クルー達全員がブリーフィングルームに呼ばれた。
ロックオンとティエリアもあれから少し落ち着きを取り戻し、制服に着替えた。
「医療室に運ばれた刹那の状態についてドクターから連絡が来たわ。フェルト、モニターに出して。」
スメラギに言われ、フェルトがモニターに出す。
写し出されたドクターの表情は険しいものだった。
『これから検査報告をするが・・・まず、スメラギ・李・ノリエガ以外の女性クルー及び、マイスター以外の人間は出ていってくれ。ちょっと言いづらいことなんだ。』
ドクターに言われ、マイスターとスメラギ以外のクルー達は渋々出ていった。
疑問に思い『何故ですか?』と言おうとしたミレイナだが、それは父・イアンとフェルトが状態に気付いてか止めた。
マイスター3人とスメラギだけになったブリーフィングルーム。
そこでドクターは、コホンと1つ咳払いをすると刹那の状態を教えた。
「はっきり言わせてもらうと、刹那の体には男に暴行された跡とレイプされた跡があった。それもかなり酷くな。」
「そんなっ!?」
「一体誰が・・・」
ドクターの言葉にスメラギは驚き、アレルヤは呆然とした。
「もしかして・・・2人が黙ってたのってこの事だっの・・・?」
アレルヤの問いにロックオンはただ何も言わずに唇を噛み締め、ティエリアは忌々しげに『あぁ』と言った。
「俺達だって驚いた・・・グッタリとしてて・・・まだ二十歳になったばかりの奴にだぞ・・・身動きを封じられて・・・抵抗出来ない奴をこんなに傷付けて・・・」
口調からロックオンは怒りに満ちている事がハッキリと分かる。
スメラギはその言葉から、刹那がどれだけ酷いめに遇わされたかと思うと悲しくなったが涙を堪えた。
「・・・それで、刹那は今は?」
『その事なんだが・・・さっき目を覚ましたんだ。』
「本当ですか!?」
『あぁ。そして泣きながらスメラギ・李・ノリエガ、アンタを呼んでいた。』
「私を・・・ですか?」
意外な言葉にスメラギは呆然とする。
マイスターの3人もバッとスメラギを見た。
刹那は4年前よりも仲間意識と言うものが強くはなってはいるが、誰かを、それもスメラギ1人を自分が酷いめあった後、呼ぶなんて言うことは無い。
『一応マイスター1人連れて、医療室に来てくれ。』
「分かりました。すぐに向かいます。」
モニターを切るとスメラギはいぶかし気な顔をする。
(何故刹那は私を・・・あんな目に遇わされた後だからかしら・・・)
そんな事を考えつつスメラギは医療室に向かった。
ちなみに一緒に来ることになったマイスターはロックオン。
理由はロックオン自ら行きたいと言ったからだ。