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1人の少年と1人の少女



「昔話をしよう。」



その一言で子どもたちはソファの周りに集まった。







ある時代、ある場所に1人の少年がいた。


「ハァハァ・・・っうハァハァ・・・」


「コラー!」


後ろでエプロンをつけた中年の男が少年を追っていた。
理由は1つ。
少年が抱えていたパンだ。
そのパンは本当は男が作って店で売っていたもの。

それを少年が盗んだ。
気付いた男は追い掛けた。
しかし少年も立ち止まる訳にはいかなかった。
今日を生きるためにも、『食料』が必要だからだ。



何とか男を撒いた少年はフゥと息をつき、寝じろにしている場所へと歩く。


「俺だって・・・好きでこんなことしてる訳じゃないのに。」


目に浮かぶ男の顔。
悪いことだと分かっているが、でも止めないわけにいかない。



「父さん・・・母さん・・・エイミー・・・」


事故で失った家族の名を呼べば、抱えたパンをギュッと握り締めた。


先日まで普通の家庭に育つ普通の少年だったが、事故で家族を失った途端に路頭に迷うことになった。


生活はガラッと変わった。
そして学んだのは、14歳の子どもが生きていくためには盗みしかないと言うこと。


けれど、辛かったが寂しくはなかった。
双子の片割れがいつもいたからだ。
だが、彼も一週間ほど前に事故で死んだ。


「兄さん・・・もし・・・天国や地獄がここよりマシなら、俺は喜んで行くよ・・・」


空を見上げながらボソリと呟く。
片割れを失ってから寂しさに襲われた。
朝起きても隣には誰もいない・・・


自分は本当に1人になってしまった・・・


しかし泣いている訳にはいかない。
泣けばお腹が減る。
空腹を満たすためにも、生きるためにも、盗みに行くしか・・・


(『世の中は皆平等』など・・・と何処かのペテン師のセリフだが知らないけど・・・ペテン師の言ったセリフは所詮セリフ、真っ赤な嘘だ・・・)



少年は前に向き直し止まっていた足を動かし始めた。









そんなある日。


少年はいつもの様に盗んだパンを持って寝床に帰ろうとしていた。
すると、すれちがいざまに貴族達の行列と出くわす。


「何だこの行列・・・?」


気になるが、今の自分には関係ないと思い、そのまま去る。


しかし、行列の先、貴族達が見ているものを見て思わず目を奪われ立ち尽くした。


「女・・・の子・・・」


そこにいたのは1人の少女だった。


(遠い町から来たんだろうな)


美しい服を着た少女をぼんやりと見ていると、少年はあることに気付く。


「あいつ泣いているのか・・・」


少女の瞳からは涙が出ている。
貴族達はそれすらも喜んで見て、手まで出そうとしていた。


青年は行列を見届けたあと走った。


そして泣きながら叫ぶ。

「うわあああぁぁぁぁ!!!」



(あんな、あんな清らかな・・・綺麗な体に汚れた手で触れるなんて・・・)


少年はその現実に、悔しくて辛くて悲しかった。








神様が・・・いるとしたら・・・








「何故、俺らだけ愛してくれないのか・・・くっ、うっ・・・」



走りながら少年はあることを決心する。


あの可哀想な少女を救うには1つしかない。








本当はやりたくないこと・・・だが、神様が愛してくれないのなら・・・








せめて、少女だけでも・・・








少年はどこかで剣を手に入れた。
とても大きいな剣は小さな少年の体に合わない。

そのため、ズルズルと引きずる形で歩く。


その姿は風と呼ぶには悲しすぎよう。



それでも少年は・・・少女のために、カルマの坂を登った。








行列に並んでいる貴族達を次々と殺す。
行き着いた先にいた少女は、既に変わり果てた姿に。



「あっ・・・くっ・・・」


周囲に香る青臭さ。
散らばる白い液体。


思わず鼻を塞ぐ。

少女は少年を赤い瞳で見た。
そして壊れた笑顔を少年に向ける。


「ハハッ・・・ハハッ・・・」


自分とは違う褐色の肌にもこびりついている白。


「お前・・・くっ・・・」


少年は壊れた少女をゆっくりと抱き締めたあと、最後の一振りを少女に・・・









泣くことを忘れていた。


「あっ・・・俺・・・」


あんなことがあったのに。


泣いていない自分に驚く。
それと同時に空腹を思い出す。



「腹減ったな・・・」



フゥと一息吐いたあと、いつもの様にパン屋に盗みに行く。


何事もなかったように・・・









「お話はここで終りだ。」


息を着いた女性は子どもたちに目を向ける。
それはとても優しいもの。


「何か悲しいだね。」


「うん。」


子どもたちが顔を見合わせて言えば、女性はフフッと笑みを浮かべた。



「実はな、この話には裏話と言うオマケ話がある。・・・聞きたいか?」



その問いかけに子どもたちは嬉しそうに頷く。
女性はそれを見て話した。



「少年は剣を振ったが、実は寸前で止めた。」


「どうして?」


そう問えば、女性の側に男性がやって来る。


「それはな、少女に惚れてしまった少年がつい、思い止まってしまったからだ。」


「ライル・・・」


女性が名前を呼べば、ライルと呼ばれた男性は女性の隣に腰かける。


「そしてな、壊れた少女を自分の寝床に連れて帰った。犯罪者の自分が幸せに出来るか不安だったが、どうしても惚れた弱味で彼女を殺すことは出来ないから。それから少女は少年の懸命な世話のお陰で復活した。そしてそれと共に、少年は働ける様な年になったため、盗みから足を洗い、今度は彼女のために働いて、やがて2人は幸せになったとさ。これで本当にこの話はおしまい。ささっ、子どもは寝る時間だ。」


ライルの言葉に悔しそうな顔をしながら従った。


「わかったよ父さん。」


「父さん、母さんおやすみなさい。」


「おやすみ2人とも。」


女性はニコリと笑みを向けて部屋に向かう子どもたちを見る。






2人きりなった部屋で会話をする。


「刹那、俺たちの昔話あまりするなよ・・・お前が話すと余計リアルに聞こえるからよ。」


「一応、オブラートに包んだつもりだがな。」


「どこかだよ・・・」


呆れた様に言うライルに女性・刹那は再び笑う。









それはもうあの時見た壊れた笑みではなく、本当の笑み。


ライルは呆れた顔から、つられるように笑った。









(あの時、寸前で止めて本当によかった・・・)



そうでなければ今の笑顔を見ることは出来なかった。







(神様はやっと俺たちに幸せをくれたんだな・・・)





あの時恨んだ神に、今は感謝をする。





ありがとう・・・と。








end








あとがき↓


話内容は管理人の大好きな、ポル○グラフィティの曲『カルマの坂』から。



前々から書きたかったものですね。
本当は、歌詞には裏話なんてありません。
理由は管理人がバッドエンドの様なものが嫌いだからです(^ω^:


ちなみに言うと、少年をライルではなく、刹那にしようと考えましたが、じゃあ少女役誰にしようと考えたらボツになりました(笑)考えつかなくて。
何より少女役が刹那の方があってましたし。
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