地と空とで
夜になり静寂になった街にたくさんの声が響く。
『出たぞ!怪盗ロックオンだ!』
『追え~!』
『今夜こそは逃がさんぞ!』
声の主はこの町の警察だった。
警察は1人の男を追っていた。
「じゃあな警察さん!」
屋根の上を軽やかに走りながら男は叫んだ。
男の名は怪盗ロックオン。
この町では有名な泥棒だ。
白い仮面で目を隠し、深緑色のマントをはおり、美しい茶髪を持つ男。
正体は未だ誰も知らず、狙った得物は逃さない。
怪盗ロックオンは闇の中へと消えていった。
翌朝。
この町で有名なソレスタル探偵事務所に依頼が舞い込んできた。
「皆、これが今回の依頼よ。」
事務所所長のスメラギが持ってきた1枚の封筒を見せる。
「これは・・・」
事務所の探偵、アレルヤが封筒を見ると、送り主の名前に『怪盗ロックオン』と書かれていた。
「怪盗ロックオン!」
「何だと!?」
「あのキザ野郎からか!」
同じく事務所の探偵、ティエリア、ハレルヤがアレルヤに続いて驚く。
そこに事務所の新人、刹那が質問をしてきた。
「あの・・・怪盗ロックオンって誰だ?」
「あっ、そっか。刹那はこの町に来たばかりだから知らないもんね。」
「怪盗ロックオンとは今この町を騒がしている泥棒だ。」
「盗む前に必ず予告状を送りつけてくるキザな奴なんだよ。それも狙った物は必ず盗んでいくから警察も今のところお手上げ状態なんだぜ。」
3人の説明に刹那は納得する。
「じゃあそれは予告状なんだな?」
「そうよ。そして中にはこの手紙が入ってたのよ。」
スメラギは刹那に手紙を渡す。
3人は刹那を囲むように手紙を見た。
『"今夜9時に中央美術館にある『女神の涙』とルビーの少年を頂きに参上します。"~怪盗ロックオン~』
「女神の涙?ルビーの少年?」
「女神の涙は美術館にある像についている宝石のことだよ。ルビーの少年は何だろう?」
アレルヤが後ろから刹那を抱き締めながら言う。
「ずるいぞアレルヤ・ハプティズム!刹那を抱き締めるなんて!」
それを見てティエリアが文句をつける。
「いいでしょちょっとくらい。それにさっきまでティエリアが抱き締めてたし。」
「だからってなぁ・・・」
「はいはい。」
スメラギが呆れた様に手を叩きそれを止める。
「とりあえず、今回の依頼はそれを怪盗ロックオンから守ることよ。それと、ルビーの少年に関しては美術館にある『夕闇に染まる子供』って言う絵画の可能性があるからそれも守ること。」
「了解。」
「刹那は俺とアレルヤと行動しろよ。」
「1人じゃ危ないし。」
「バカか貴様らは!刹那はここに置いとく!変な大人に拐われたりしたら困るしな!」
3人の溺愛ぶりにスメラギはため息をつきながら言った。
「あのね。それじゃあいつまでたっても一人前にならないし、刹那のためにもならないでしょ。とにかく、皆で護衛につくのよ。分かった?」
「分かりました・・・」
「けっ、」
「口煩いおばさんめ・・・(小声)」
「ティエリア・・・何か言ったかしら?」
頭に青筋を入れながらスメラギは問う。
ティエリアはそれに『別に・・・』と返した。
「コホン。それじゃあそれまでティエリアは美術館の内部にある監視カメラの数・位置を確認して。美術館まで行くのにあたりアレルヤは車の手配を。ハレルヤは刹那と私とともに買い出し。」
「買い出し・・・か?」
「何でだよ!?」
「お酒とおつまみ切れちゃったからそれの♪」
「なら1人で行きゃいいだろう!」
「寂しいじゃない。」
それに刹那は心底呆れ、ハレルヤは舌打ちをする。
夜の9時前。
それぞれの配置につき、5人は怪盗ロックオンが来るのを待った。
ちなみに配置は絵画にはアレルヤ&刹那。
女神の涙前ではハレルヤ。
ティエリアとスメラギは外を巡回してる。
絵画前。
「もうすぐだね。」
「あぁ。」
カチコチ・・・カチコチ・・・カチコチ・・・
静かな美術館内に時計の針の音が聞こえる。
「本当に来るのかなぁ?」
「分からない。けど来ないと困る。」
「どうして?」
「まともな依頼は今日が初めてだから・・・ちゃんとやりたい。」
ギュッと服の裾を掴みながら絵画を見つめる刹那。
(刹那は偉いな。真面目でしっかりしてて・・・だからティエリアやハレルヤ、僕も虜にしちゃうのかな?)
真剣な目付きで絵画を見る刹那に、そんなことを思いながらアレルヤはニッコリと微笑んだ。
「大丈夫、きっと来るよ。そして捕まえてこの世のものとは思えないほどの苦痛を与えてあげようね。」
(この世の?)
「あっ、あぁ。」
アレルヤの言葉に少々疑問を抱きつつ、刹那は頷いた。
すると突然『ゴーンゴーン・・・ゴーンゴーン・・・』と美術館内に9時を示す時計の音が鳴り響いた。
「9時だね。」
「予告状にある通りなら奴が来る時間だ。」
2人は絵画を見る。
特に異常はないと確認した瞬間、
『ガッシャーン!』
ハレルヤのいるとこからガラスが割れる音がした。
「何今の音!」
「まさか・・・ロックオンか!」
音を聞いて刹那はすぐにハレルヤの元に向かおうとしたが、それはアレルヤが止めた。
「アレルヤ、」
「刹那は危ないから僕が行くよ。だからティエリアに連絡を入れてここで待ってて。」
「でも・・・」
「大丈夫。すぐに戻るから。それじゃ、」
そう言うとアレルヤはハレルヤの元に向かった。
刹那はアレルヤに言われた通りティエリアに連絡し、その後絵画を背にペタリと床に座り、天井からさす月明かりを見た。
「・・・アレルヤやハレルヤは大丈夫か?」
(ってか俺、ちゃんと役に立つか・・・?)
刹那はゆっくりとうつ向く。
(今だって危ないからって止められたし・・・)
ギュッと服の裾を掴む。
そんな時、
「可愛い顔が台無しだぜ。」
後ろから声が聞こえた。ゆっくりと振り向くと、そこには月明かりに照らされた1人の男がいた。
白い仮面をつけ、緑色のマントをはためかせ、茶髪の髪をなびかす。
その姿はとても美しく、刹那は思わず言葉を無くした。
男は刹那に近付くと微笑んだ。
「こんばんは探偵さん。いや、刹那って呼んでいいか?」
それに刹那は驚いた。
「お前、どうして俺の名前を・・・」
立ち上がり問いつめる刹那に対し男はなだめた。
「まぁまぁ。いいじゃないの細かいことは。それよりさ、予告通り貰いにきたぜ。」
「えっ・・・」
刹那が言った言葉の意味を分からずにしていると、男は顎を掴みキスをした。
「んっ・・・」
いきなりキスされ、刹那は呆然とする。
キスは軽く、男はすぐに刹那から離れた。
「ごちそうさま。」
ペロリと口を舐める男。
「なっ・・・」
それで改めて刹那は男とキスをしたことを自覚し、恥ずかしくなりうつ向く。
「あらあら赤くなって。本当可愛いな刹那は。」
「うっ、うるさい!ってかそれよりお前は一体何者なんだ!?」
刹那がドンドンと男を叩くが、男にとっちゃそんな攻撃は全く平気。
「ハハッだから貰いに・・・!」
男は刹那の後ろからこちらに来る足音に気付く。
そしてゆっくりと刹那から離れる。
「じゃあ、またな刹那。」
「えっ・・・」
男はロープを天井に向かって投げ柱に引っ掛ける。
ちょうどその時、アレルヤとハレルヤ、ティエリアがやって来た。
「刹那、大丈夫・・・!」
駆け寄ってきたティエリアが刹那の目の前にいる男に気付く。
「刹・・・!」
「てめぇ・・・」
続いてアレルヤ、ハレルヤも気付く。
3人に向かって男は『やぁ』と言った。
「貴様は怪盗ロックオン!」
ティエリアの言葉に刹那は驚き、男、怪盗ロックオンを見る。
ロックオンはニヤリとすると4人向かって叫んだ。
「俺の名は怪盗ロックオン!狙った得物は逃さないが・・・今回はちょっとヤバイから退散するわ。とりあえず女神の涙だけ貰っとくじゃあな♪」
そう言うとロックオンは上手にロープを伝い、天窓を割りそこから外に出て逃げた。
その後スメラギに事情を説明したあと、3人に1人にしたことを謝られられ、刹那は最近引っ越してきたアパートに戻った。
(今日は疲れたなぁ。結局ロックオン逃したし・・・それにキスまで・・・)
そう思いながらドアを開けようした時、
「よぉ仕事お疲れ様。」
隣人で大家のニール・ディランディが話しかけてきた。
ちょうど彼も仕事帰りだろう、スーツを着ている。
「ニールか。お前も仕事だったのか。」
「まぁな。ってか何か冷たくない?」
「気のせいだ。それよりなんだ?用事か?」
「あっ、あぁ。どうせ飯の支度今からだろ?俺の家で食わないか?」
「ならニール、お前だって・・・」
「いや、俺のとこさ昨日シチューだったから暖めるだけなんだ。まだたくさんあるし。どうだ?」
刹那は少し考え、
「デザートがあるなら・・・。」
と呟くように言った。
「了解♪」
ニールは刹那の頭を撫でると手を引っ張り中へと入れた。
その時彼からロックオンと似た香りが一瞬したが、刹那は疲れもあり、対して気にしなかった。
end
オマケ↓
「そう言えば・・・怪盗ロックオンに会った。」
デザートのカボチャプリンを食べながらふと刹那が喋った。
「へぇそれでどうだった?ロックオンは逃げ足早いし強いから。」
ニコニコとしながらニールは問う。
刹那は顔を赤らめながら小声て言った。
「キス・・・された。いきなり・・・男の俺に・・・。それで・・・された後、貰ったとかどうとか・・・絵画はあるのに・・・」
「そうか。訳が分からんなそれは・・・」
愛想笑いをしながらニールは思った。
(本当はルビーの少年は刹那の事なんだよな。ってか、やっぱまだコイツには難しかったか・・・新人だし。今度簡単な文にしよう。)
ニールいや、ロックオンは赤らめた顔をした刹那を愛おしげに優しく撫でた。
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