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スキ!を送りました
ささやかですがお礼にお話を。
この関係が始まったのはいつからだったか。
そう、人肌恋しくなる時期に温もりを求めたところからだ。遠距離恋愛でもお互いを思い続ける。約束したのに寂しさで過ちを犯してしまった。
これが浮気だって、彼を裏切る行為だって分かっているのに、彼氏が一番好きなのは変わらないから。そうやって誰かに言い訳するように自分に言い聞かせてきた。
「あれ、もう来てたの?」
真後ろから声がかかり、肩が跳ねる。
「ああ、ごめん 驚かせるつもりじゃなかったんだ」
謝りながらも前の席に座るのは、私より3つ年上の大人の雰囲気を纏った男性だ。
「注文はもうした?」
首を横に振れば、手を上げ店員さんを呼んだ。
「俺はブレンド珈琲で。いつものカフェオレで良い?」
うん、と返事をすれば店員さんがメモ帳に注文を書き込み、「少々お待ちください」と立ち去る。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「まぁそこそこ元気だったよ。そっちこそどうなの?」
「俺もそこそこって感じだな。あ、ごめん」
携帯が音とバイブレーションで着信を知らせる。電話はどうも急ぎのものらしく、すぐに立ち上がり早足で外へと向かっていった。
バッグから携帯を取り出して、友人から来ていたメッセージを返す。この中に、私が彼氏以外と定期的にお茶をしていることを知っている人は一人もいない。
誰にも打ち明けたくない、なんてことではなく、ただ単に彼氏と共通の友人がほとんどなのだ。
彼氏はムードメーカーのような存在だったから友人も多かったし、恋人になったことを報告すれば、彼氏の友人であり私の友人でもあるような人達にお祝いされた。
パーティーまで開いてくれた友人達に、遠距離恋愛で寂しくて浮気まがいのことをしているなんて、言えるわけがなかった。
店のドアについた鈴がチリン、と鳴った。
「取引先からだった。電話番号間違えただけらしいんだけど、無駄に長引いたわ。ごめん」
ドアを開けて一直線に席に座り、気怠そうにため息混じりで言う男に文句を言う気になどなれない。
「大丈夫。それよりお疲れ様、社会人は大変ね」
お前もあっという間に社会の海に揉まれるようになるぞ。と嫌な未来を想像させるような事を言いつつ、煙草を取り出しライターで火をつける姿には、大人の風格と熟成されたような色気を感じる。
たとえ今の彼と同い年になっても、私はこの人の隣に並んで違和感のない女にはなれないだろう。
煙を吸う姿をぼんやりと見つめる
―彼と出会ったのは数ヶ月前。最初はお互い敬語で、意図的に距離をとっていたのに、気づいたら敬語も使わなくなって、意識して距離をとるなんて
していなかった。不思議なことに、今じゃそれが当たり前になっている。
お互いに本気で好きなわけではない。
けど、パートナーと会えない寂しさを埋めてくれるということを知ってしまった。パートナー以外と触れ合うことで、寂しさを紛らわせることが出来るって、二人共気づいてしまったから。
曖昧な関係を持ちかけてきたのは彼だ。でも、彼のことは全く恨んでいない。
既婚者子持ちと言われても何も違和感のない見た目をしているのに、恋人が居る女に「一緒に遊ばない?」って声をかけてくる狂った男を、寂しさをごまかす相手に選んだのは私だ。
「彼氏さん、そろそろ帰ってくるの?」
「うん。またすぐにいなくなっちゃうけどね」
この言葉に彼氏への不満が詰まっていた。もう少しこっちにいてもいいのに。もっと私に構ってほしい。
そう思うけど、二人で話し合って決めたことだ。距離は遠くてもずっと愛してる。貴方は将来のために向こうにいったほうが良い。
そんなことを真剣に話し合って約束したというのに、今私は他の男とお茶を飲んで、恋人の真似事をして寂しさを紛らわせている。笑えない話だ。
「つまんなかったら、俺を呼んで良いんだからな」
”つまらない”という言葉を使うのは彼なりの優しさなのだろうか。彼はいつもそういう。一度も”寂しい”という言葉を使ったことがない。(たぶんここボツ)
「ありがとう。いつもごめんね」
お礼の言葉は全く耳に入っていないように、珈琲をすする彼は今どんなことを思っているんだろう。
「お待たせいたしました、カフェラテとブレンド珈琲でございます」
静かにカップを置くウエイターの顔をどこかで見たような気がする。思い出せなくてじっと横顔を見つめるが、「失礼します。」と頭を下げ、奥へと消えてしまう。
「知り合い?」
ふー、と息を吹きかけ中身を冷ましながら聞いてくる。やけどを恐れて息を吹きかけているだけなのに一連の動作が様になっていて、外見の力はすごいなと認識させられる。
「いや、どこかで見たような気がしたんだけど…気のせいだと思う」
実際さっき見た顔ももう覚えていないので、何か見間違えたんだろう。
そう返せば、そっか。とだけ言ってカップを傾けた。私も、ラテアートが施されたカフェオレを口にする。
ここのカフェオレは甘さがちょうどよくて好きなんだよね。葉っぱのラテアートも可愛くて心が癒される。
場所的に彼氏と共通の友人は来ないだろうし、彼との雑談を気兼ねなく楽しめる。
所々飲み物を口にしたり、ケーキを半分ずつ分けて食べたりしながら、他愛ない話をしていれば、そこそこいい時間になっていた。
ここに訪れる前より、心が充実感で満たされていて、もう途中のウエイターのことなんて忘れていた。
個別でお会計を済ませ、喫茶店を出ると同時に別れを告げる。また何時会うかも分からないから、「またね」なんて絶対に言わないで「さようなら」とか「ばいばい」って言って、別々の車に乗る。
――この関係がいつ終わるかは分からない。遠距離じゃなくなっても、彼氏とは違う甘さを求めて、またこの喫茶店に来ることになるかもしれない。
でも現実は、予想外のところで終わるようだ。(もっと良い言い回しがあるよ!!!)
「久しぶり~元気にしてた?
そう! お前の彼女、この前年上っぽい男と楽しそうに話してるとこ見かけたんだけど、まさか浮気とかじゃないよな~お前もしっかり心掴んどかないと、他のやつに取られるぞ~
え、もっと詳しく? いや新しいバイト先でさ〜」
ささやかですがお礼にお話を。
この関係が始まったのはいつからだったか。
そう、人肌恋しくなる時期に温もりを求めたところからだ。遠距離恋愛でもお互いを思い続ける。約束したのに寂しさで過ちを犯してしまった。
これが浮気だって、彼を裏切る行為だって分かっているのに、彼氏が一番好きなのは変わらないから。そうやって誰かに言い訳するように自分に言い聞かせてきた。
「あれ、もう来てたの?」
真後ろから声がかかり、肩が跳ねる。
「ああ、ごめん 驚かせるつもりじゃなかったんだ」
謝りながらも前の席に座るのは、私より3つ年上の大人の雰囲気を纏った男性だ。
「注文はもうした?」
首を横に振れば、手を上げ店員さんを呼んだ。
「俺はブレンド珈琲で。いつものカフェオレで良い?」
うん、と返事をすれば店員さんがメモ帳に注文を書き込み、「少々お待ちください」と立ち去る。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「まぁそこそこ元気だったよ。そっちこそどうなの?」
「俺もそこそこって感じだな。あ、ごめん」
携帯が音とバイブレーションで着信を知らせる。電話はどうも急ぎのものらしく、すぐに立ち上がり早足で外へと向かっていった。
バッグから携帯を取り出して、友人から来ていたメッセージを返す。この中に、私が彼氏以外と定期的にお茶をしていることを知っている人は一人もいない。
誰にも打ち明けたくない、なんてことではなく、ただ単に彼氏と共通の友人がほとんどなのだ。
彼氏はムードメーカーのような存在だったから友人も多かったし、恋人になったことを報告すれば、彼氏の友人であり私の友人でもあるような人達にお祝いされた。
パーティーまで開いてくれた友人達に、遠距離恋愛で寂しくて浮気まがいのことをしているなんて、言えるわけがなかった。
店のドアについた鈴がチリン、と鳴った。
「取引先からだった。電話番号間違えただけらしいんだけど、無駄に長引いたわ。ごめん」
ドアを開けて一直線に席に座り、気怠そうにため息混じりで言う男に文句を言う気になどなれない。
「大丈夫。それよりお疲れ様、社会人は大変ね」
お前もあっという間に社会の海に揉まれるようになるぞ。と嫌な未来を想像させるような事を言いつつ、煙草を取り出しライターで火をつける姿には、大人の風格と熟成されたような色気を感じる。
たとえ今の彼と同い年になっても、私はこの人の隣に並んで違和感のない女にはなれないだろう。
煙を吸う姿をぼんやりと見つめる
―彼と出会ったのは数ヶ月前。最初はお互い敬語で、意図的に距離をとっていたのに、気づいたら敬語も使わなくなって、意識して距離をとるなんて
していなかった。不思議なことに、今じゃそれが当たり前になっている。
お互いに本気で好きなわけではない。
けど、パートナーと会えない寂しさを埋めてくれるということを知ってしまった。パートナー以外と触れ合うことで、寂しさを紛らわせることが出来るって、二人共気づいてしまったから。
曖昧な関係を持ちかけてきたのは彼だ。でも、彼のことは全く恨んでいない。
既婚者子持ちと言われても何も違和感のない見た目をしているのに、恋人が居る女に「一緒に遊ばない?」って声をかけてくる狂った男を、寂しさをごまかす相手に選んだのは私だ。
「彼氏さん、そろそろ帰ってくるの?」
「うん。またすぐにいなくなっちゃうけどね」
この言葉に彼氏への不満が詰まっていた。もう少しこっちにいてもいいのに。もっと私に構ってほしい。
そう思うけど、二人で話し合って決めたことだ。距離は遠くてもずっと愛してる。貴方は将来のために向こうにいったほうが良い。
そんなことを真剣に話し合って約束したというのに、今私は他の男とお茶を飲んで、恋人の真似事をして寂しさを紛らわせている。笑えない話だ。
「つまんなかったら、俺を呼んで良いんだからな」
”つまらない”という言葉を使うのは彼なりの優しさなのだろうか。彼はいつもそういう。一度も”寂しい”という言葉を使ったことがない。(たぶんここボツ)
「ありがとう。いつもごめんね」
お礼の言葉は全く耳に入っていないように、珈琲をすする彼は今どんなことを思っているんだろう。
「お待たせいたしました、カフェラテとブレンド珈琲でございます」
静かにカップを置くウエイターの顔をどこかで見たような気がする。思い出せなくてじっと横顔を見つめるが、「失礼します。」と頭を下げ、奥へと消えてしまう。
「知り合い?」
ふー、と息を吹きかけ中身を冷ましながら聞いてくる。やけどを恐れて息を吹きかけているだけなのに一連の動作が様になっていて、外見の力はすごいなと認識させられる。
「いや、どこかで見たような気がしたんだけど…気のせいだと思う」
実際さっき見た顔ももう覚えていないので、何か見間違えたんだろう。
そう返せば、そっか。とだけ言ってカップを傾けた。私も、ラテアートが施されたカフェオレを口にする。
ここのカフェオレは甘さがちょうどよくて好きなんだよね。葉っぱのラテアートも可愛くて心が癒される。
場所的に彼氏と共通の友人は来ないだろうし、彼との雑談を気兼ねなく楽しめる。
所々飲み物を口にしたり、ケーキを半分ずつ分けて食べたりしながら、他愛ない話をしていれば、そこそこいい時間になっていた。
ここに訪れる前より、心が充実感で満たされていて、もう途中のウエイターのことなんて忘れていた。
個別でお会計を済ませ、喫茶店を出ると同時に別れを告げる。また何時会うかも分からないから、「またね」なんて絶対に言わないで「さようなら」とか「ばいばい」って言って、別々の車に乗る。
――この関係がいつ終わるかは分からない。遠距離じゃなくなっても、彼氏とは違う甘さを求めて、またこの喫茶店に来ることになるかもしれない。
でも現実は、予想外のところで終わるようだ。(もっと良い言い回しがあるよ!!!)
「久しぶり~元気にしてた?
そう! お前の彼女、この前年上っぽい男と楽しそうに話してるとこ見かけたんだけど、まさか浮気とかじゃないよな~お前もしっかり心掴んどかないと、他のやつに取られるぞ~
え、もっと詳しく? いや新しいバイト先でさ〜」