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朔side
今日のターゲットが護衛を連れて高級そうな家具に囲まれた部屋を堂々と歩く。
それを天井から息を潜め眺める。
こんなギラギラした部屋目が痛くなる。すぐに終わらせて梨音を見て癒されよう。
__前は自分以外にここまで入れ込むことは無かった。それに一度裏切られたというのに、一人のか弱い女の子を心の支えにしている。
誰も信じないという自分の根底が変わってしまったようで、不安になる事もある。
その度近くにいる梨音を腕の中に閉じ込め思考を放棄する、だから結局何も変わっていない、より梨音に頼り切る事になっているだけだ。
あかんな、とにかく目の前の事に集中せな。
考え事をしながらもしっかり動向を見ていた ターゲットが、護衛から少し離れたのを合図にそっと開けた通気口から地面へと飛び降りる。
一瞬の浮遊感を感じる間に体制を整え、厄介な護衛の首を狙う。
流石に護衛という役割を担っている以上、天井から降りてきたこちらに気付き、銃を構える。
頭に照準を合わせ、引き金を引いた__
ふ、と一息つき簡易的なシャワー室に向かおうと足を向けた時、長い廊下の端に誰かを囲っている男達を見つける。
目を細めてみれば、真ん中にいるのは……梨音じゃないか?
何をしているのかと足音を立てず近寄れば、罵声が聞こえる。
「あいつ本当に調子乗りすぎなんだよ!」
「代わりにお前が責任取れよな!」
次々と発せられる言葉は、理解が出来なかった。それでも今彼女に向けて言っているという事は分かり、煮え滾るような怒りが沸く。
「……殺す」
呟かれた言葉と共に、頭が冷えていく。あいつらをどうやって殺そうか。五人確実に殺すには立ち回りを考えなくてはならない。
妙に冷めた頭でルートを見つける。よし、これでいこう。
気配を消し、全速力で死角から梨音の身体に触れようとしていた腕を、懐に忍ばせたナイフで切り落とす。
こちらの存在に全く気付いていなかった馬鹿共が戦闘態勢に入らず硬直している。
「そんなんで良くこの仕事できんな、すぐ殺されて終わりやろ」
こうなったら殺してくださいと言っているようなものだ。
動脈を狙い深くナイフで切りつける。
二人目が崩れ落ちた所で、やっと戦闘態勢に入る”先輩方”
「お前……!よくもッ」
棒立ちをやめたかと思えば今度は感情に任せた攻撃。呆れてため息が出た。
拳を握り急所を狙う手を加減無しに掴み、引き寄せ体幹を崩す。
足元がふらつき背中を見せた所でナイフを突き刺そうとした。
その時、待て!と制止の声がかかる。
その声はよく知った物で、周りによく思われていない俺を庇ってくれた先輩だ。ナイフは向けたまま、続きを待つ。
「お前の大切な人を傷付けた、そいつらが全面的に悪い。それは変わらないが、全員殺したとなれば俺もお前の事を庇いきれない。許せないだろうがここは俺に免じて、どうか見逃してくれないか?
絶対に同じ事が起きないよう言い聞かせる」
真剣な声色で叫ぶ先輩。
馬鹿は怯えた顔で縋るように先輩に視線を送っている。
何を言われようが起きた事は変わらない。そう、変わらないのだ。
「……もう、傷付くのは嫌なんです」
諦めの言葉と共にナイフを突き刺した。崩れ落ちる男を前に先輩も戦闘態勢になった。
「そうか……残念だな、将来有望な後輩をこの手で殺めることになるとは」
「俺も残念です」
口はそう動いているが言葉に気持ちなど微塵も入っていなかった。こうなった以上、先輩でもなんでもない。ただの”ターゲット”だ。
二人同時に相手の懐を狙って踏み出す。
__次の瞬間には決着がついていた。
足元に転がったのは血液がどくどくと溢れだしている元”先輩”。
――また、気にかけてくれる存在を1人、殺めてしまった。それでもこれは仕方の無いことだ。俺には、梨音がいればいい。
沸き上がる後悔の念を梨音への想いで上書きした。
ゆらり、魂が抜けたような呆けた顔で近付いてくる朔。
隣まで来て肩に寄りかかれば、そのまま体重をかけて二人一緒に倒れ込む。
上からぽたり、ぽたり、と雫が落ちてくる。私の頬に水滴が落ち流れる。
朔の瞳が水の膜を張っていて、くしゃりと顔を歪めている。
……彼も泣くことがあるのか。人間だから当たり前なのだろうが、感情を無にしている事の多い彼がこうして感情を溢れ出してるのは初めて見て、何故か胸がキュウと締め付けられて痛い。
きっとそばに居る人が悲しんでいるからそれが移ったんだろう。
心の奥に芽生えた愛する人を心配している気持ちには気付かずに、彼の頭を抱え肩に押し付けた。私はここに居るよ、そう伝えるように頭をぽんぽんと撫でた。
「ごめん、な……こうなる事は、予想、できとった、はずやのに。俺の落ち度や」
嗚咽混じりの謝罪に、大丈夫と返すことしか出来なかった。……もっと彼の罪悪感を晴らす言葉が言えたらいいのに。
__彼に絆されていって、傷付いて欲しくない、とまで思うようになっていた
なぁ。そんな始まりで話された事は、現実とは思えない事だったけど、 朔とだったらいいかもしれない、そう思えた。きっと私も毒されているんだろう。
「わかった、一緒に死の?」
狂った2人を止める者はそこにはいない。彼が殺してしまったから。
左胸に当てられたナイフが、深く心臓を貫く。
泣きそうな顔で笑っている彼を最後に、意識が落ちていった――。
end