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『○○県○○市にて刃物を持った男が逃走中。身長は170cm程で細身。黒いパーカーにジーンズを履いていると目撃。
○○から○○にかけて移動しているようです。外出時には十分警戒し戸締りはしっかり行うようにしてください』
母親からLINEが届き、開いてみれば近くで事件が起きたようで、気をつけてねとメッセージ付きで転送されてきた。
これから出かけるというのに……周りの反対を押し切って一人暮らしを初めて数ヶ月。だんだんと慣れてきてはいたが、初めての家事にバイト掛け持ちで忙しく、自炊をしている暇がなかった。
今の時代は便利だ。レトルト食品の技術が上がり、お手頃な値段で美味しいものが食べられる。という事で近くのコンビニに行く用意をしていた。
コンビニまでの道は少し遠いが、小路地を抜ければ大通りに出るため、駆けていけば大丈夫だろう。
スニーカーを履き鍵を開ける。そうだ、母親に返事を返してない。
『気をつけます』と書かれたスタンプを送り、画面を閉じる。
さぁ行くぞ、と顔を上げれば、目の前でドアノブが下がった。
今日は来客の予定は無い、第1、私の友人に黙って家に入ってくるような奴はいない。
嫌な予感を共に、息を潜めながら周りに武器になりそうなものがあるか探すが、ビニール傘一本しかなかった。
ないよりは、と手を伸ばしたところで、ドアが開く。
開かれたドアの隙間から見えたのは、パーカーを羽織った男の人。
驚き硬直している間に背後に立たれ、大きな手で口を覆われた。
ツンと鼻を刺激する鉄臭さと目の前に見せつけられる赤黒い液体の付いたナイフに全てを理解する。
「なぁ、俺死に相手っていうの探してるんやけど、どうやろ?」
感情の感じられない声でポツポツと話す。
「ここに来るまでに3人殺したんよ、絶対捕まるし逃げられない。でも俺はこれ以上生きる気ないんやけど」
一度言葉を区切ると、やっと人間らしい調子のある声になる。
「一人で死ぬの寂しいやん?死ぬ時くらい誰かといたいんや」
寂しそうに笑う声に胸がきゅうと締め付けられた。
離された手に急に大量の空気が肺に入り、ゴホゴホとむせる。
一度深呼吸すれば、ひとつの打開策が浮かんできた。
咳き込んでいる間に、彼は目の前に立ち様子をうかがっている。
「……わかりました、大人しく捕まったら出所する時迎えに行きます。絶対約束するから一緒に生きませんか?」
咄嗟に出た提案に目を見開くと、一瞬嬉しそうな顔になった。が、すぐに顔付きが変わると、真剣な眼差しを向け
「……絶対やぞ?」
と念押しする。
こくりと頷けば、
「じゃあ、そろそろ行くわ。何年後になるかわからんけど、また」
とひらひらと手を振りながら出ていく。
大きな音を立てて閉まったドアの鍵を閉めれば、一気に肩の力が抜けた。
そのまま崩れ落ちるように玄関マットに膝をついた。
__今のは夢だったのか。非現実的な体験にまだ心臓がバクバクとなっている。
あの人は本当に自首しに行ったのか。
確かめなければいけないが、リビングから消す暇のなかったテレビの音声が耳に入り、それに何故だか安心して、ゆっくりと瞼が落ちていった。