悪戯とアルコール
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口に出したはずのない、私のアルバイト先に金髪を揺らして現れたのは、連絡を取らなくなって7日目のことだった。
「なん、で、ここにいるんですか……」
流れ作業のようにオーダーを取りに行けば、私の問いには答えず目を合わせる。
「言ったでしょ、なんでも知ってるって」
なんでもないように吐き出されたのは、どこか聞き覚えがあるような言葉。ただ、それはきっと言葉の綾だと受け取っていて……。
こちらの様子などお構いなしに、距離を詰めて、ねえ、と注目を引く。
「逃げてるでしょ?」
するり、注文をとるために胸ポケットに伸ばしたままで固まっていた右手を、容易く絡め取られる。
確信をつくようにぶつけられた言葉とは対照的に、どこまでも優しい手つき。ここ数日思い悩んでいた感情がぐちゃぐちゃに呼び起こされる。
ちがう、拙く吐き出された声は、肯定しているようなものだった。
久しぶりに腰に回された手は、変わらない感触のまま強い力で引き寄せられて。
「久しぶりに一緒に飲もっか」
拒否権なんてないように、ずるずるとボックス席に座らせる彼は数週間前より強引さが増したように思える。
ただ、ぼんやりと状況を把握できていない頭も、勤務時間内なことは覚えていた。
「仕事中です、から」
「バイトと俺、どっちが大事?」
間を置かずに返された低音は、どこか気付いてはいけない感覚を刺激する。
どくり、高鳴った鼓動は、恐怖によるものなはずで。
固く閉じた口に、最近目にすることのなかった、つまらなそうな表情。
彼らしいけれど、いま私に対しての感情を表しているのかと思うと震え上がる。__何に対して?
漠然と浮かんだ、興味を持って欲しいだなんて感情。彼に毒されているようで、思考もおかしくなっているに違いない。心身の限界なのだと、距離をおかないと__改めて逃げようとした瞬間に、声がかけられる。
「俺の方が大事だよね。じゃあ外出よっか」
決定事項のように一方的に告げられた言葉に、え、と間抜けな声をあげているうちに、いつの間にか出していた一万円札をテーブルに投げつける彼。
そのまま一気に仕切りを超えて向かっていくのは、出入り口。
駄目、こんな誘いに乗っちゃいけない。
抵抗心が本能を上回る前に、急くように引っ張られる腕に力をこめられなくて。
出入り口をぱたぱたと駆け下りて、しばらく人混みを割くように進めば、ふと立ち止まる。
「あ〜あ、これでもう共犯だ」
決して社会的に許されることではないのに、悪戯に笑う彼に、出会ったばかりの姿が重なった。
ひとつ、違うのは。胸に疼く感情が罪悪感ではなく、ガムシロップみたいに胸焼けするような甘さ——ぐるぐると身体を巡る糖分は、繋がれた手から流し込まれているようで。
瞳をあわせて決定事項のように告げられた行き先に、頷いて、しまった。
「俺の家、行こうか」