悪戯とアルコール
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太陽が明るい光で照らすことを許さないとばかりに、もくもくと発生した雲が空を埋め尽くす。
時間帯もわからなくなるような日は、吉兆とは程遠い運勢であることがほとんどだと思う。
見かけたのは、偶然だった。
ふと用事でいつもと違う駅から帰る途中、ちらりと視界に映った靴に見覚えがあって。
すぐ隣に並んでいたはずのハイヒールに意識がいかず、軽率に顔を上げれば目に飛び込んできたのは予想していた彼の顔と、知らない女の人。
ブランド物だろうか、高そうなファー付きのコートを羽織り金銀のアクセサリーを煌めかせる姿に、何故だか嫌悪感が胃のなかに流れ込んだ。
話している内容は聞き取れなくても、動きや表情は読み取れる。
女性側はお兄さんと親しい間柄だと感じさせる距離感で次々と言葉をかけているようだけれど、それに対して相槌を打つように短く言葉を返す彼は、私が目にしてきたどのお兄さんとも違くて別人のように思える。
でも、耳につけているピアスは紛れもなく彼の物で。
頷くたびに揺れる金髪のリズムに合わせるように、鈍い痛みが胸を襲う。
違う、私たちはそんな気持ちを抱く関係性ではないのに。
黒髪を靡かせて足の向きを変えた女性を、手首に手をかけて引き止めた彼。
これ以上痛んでしまったら瞳から感情が零れ落ちてしまいそうで、2人の姿を視界から外した。
同時に、くるりと方向を変えた体を留めるようにノイズのないクリアな声が耳に届いた。
「もう二度と関わるな」
どくり。心臓が止まったようだ。
一瞬で倍の鼓動を刻みだした心拍は、背中を流れ落ちる冷や汗と同様、落ちつくことを知らない。
「生意気になったものね」
吐き捨てるように響いた高い声と、コツコツと大きな音を立て離れていくヒールに、彼の言葉が自分に向けられた刃ではないことに気付いた。
が、小さな後ろ姿しか見えなくなった女性を掴んでいた手は、今度、私の腕を拘束していて。
「いまの、見てたでしょ」
責める口調でもなく、普段通りを装うような表情。ただ、一切の抑揚がない声というのは、第一声で感じられて。
触れ合ってあまく感じるような恋の気持ちとは正反対な、崖に立たされている精神とは裏腹に、なんでもないように呟かれる言葉。
「あれ、一応俺の血縁者ね。今更用があるとか言って都合良く偽善者ぶる奴だから縁切ることにしたけど」
独り言のように淡々と話す彼に、相槌さえも出てこない。勝手に勘違いした自分への嫌悪感も、諦めた様に吐き出された次の言葉で掻き消えた。
「俺には何もくれないくせに、ね」
子供っぽい口調。だけれども、確かに実感のこもった呪いは、私の心臓、奥深くに沈む。
私は、彼が求めるものを持っているのか?
すべてを望むようで、大抵の物には見向きもしない彼が心の底から渇望しているのはきっとココロや愛で。
「まあ、梨音ちゃんには関係ないけどね」
深淵にそっと触れたような、ぞくりとした冷えから距離を置かれれば、意識はこの場の表情を繕うことに切り替えた。
「……なに、考えてるの?」
黙りこくっていた私に、顔を覗き込むように傾ける。
口に出すことを促されている。けれど、浮かび上がってきた言葉がどれも吐いて捨てるような汚い感情ばかりで「急用があって」なんて月並みな言葉で手を振りほどいた。
私が支えたい、だなんてふざけた思考は捨ててしまえ。暗示のようにぐるぐると頭を巡らせる。
決して振り返らず、反対に向けた足を行き先もなくただ動かし続けた。
**
雑踏の中に紛れていく後ろ姿は、揺らぎに迷っているようで。
「いまさら、逃がさないけどね。」
低く響いた決意は、どろどろとした感情を溢れさせていた。
ひと回りほど離れている少女とでは、表情や感情を隠そうと、考えなんて手に取るようにわかる。
確信、していた。
グラスに入りきらなかった想いは——直接、身体の中へ。