悪戯とアルコール
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「いらっしゃいませ、今日はこちらです」
入店した途端、慣れたように案内される場所は、趣向を変えたようにテーブルの材質、1人掛けタイプの椅子と見慣れないものばかりだった。
先に待っている彼の横顔をうつす照明も、コスパ重視の居酒屋とは思えない、ムーディーな間接照明で。
随分とテイストの違う店内に戸惑いの声を漏らせば、とにかく席に座るように促される。
「いつも通りでいいから」
重ねて言う彼の髪も、ワックスを使ってセットされていて、遊ばれた髪とグラスの中身とのコントラストが映えていた。
運ばれて来たのはお馴染みの食器ではなく、曇りなく白い大きな皿と周りにかけられたソースが中央を際立てる、所謂“高いデザート”だった。
驚き厨房の方へ視線を向ければ、店員は既に席を離れていて向かい合ったテーブルにはお皿がひとつだけ。
ただ食べたかっただけなのか? 朧げな推測は、本来人が座ることを想定していない……私の椅子の肘掛けに腰掛けた彼によって散った。
会う中で作法やマナーなんて意識してこなかったけれど、流石にダメなラインというものはある。
平然とフォークを刺してチョコムースを口にする彼を、鬱陶しいのは承知で咎めようと口を開く。
「親しい店とはいえ、そこは座るところじゃないと思うんです、け、ど…」
唇の隙間から侵食するように、ぬるりとした感触が表面をなぞれば、ふわりとダイレクトに香ったカカオ。
食感はそのままに口内に落とされたそれは、紛れもなく彼が含んでいた皿の中身で。
思わず閉じてしまった口から吐き出すほどの拒否反応はなくて、一度咀嚼してしまったら飲み下すしかなかった。
脳内をめぐるのは、固形物の口移しは常識範囲内なのか? なんて疑問。
少なくとも、17年の間に摂取したコンテンツでは液体はあれど食べ物はなくて、なにより恋人でもない男性から鳥の啄みのように移された食物は妙でしかなかった。
流れる沈黙は、決していつも通りではなくて、心地良くもない。
胃のなかに溜まるのは不快感なはずが、感覚がおかしくなってしまったのかビターな甘さしか残っていない。
なぜか、上半身に渦巻くあまさをそのままにしてはいけない気がして、何かに急かされるように例の質問を呟く。
いま聞かないと、だめな気がしてしまって。
「なんで、飲ませたり口移ししたり、そんなことするんですか」
曖昧なまま吐き出した言葉に、目を合わせる様子もない。
返答は、形を変えつつも何度か繰り返された言葉で
「イイ子が悪いことしてんの、面白いでしょ」
共感を得られないことをわかりきったような声で、グラスを揺らした。
「あと、無理やり飲まされてるからって自分を正当化してるのも醜くて好き。」
宙に放り投げるように吐き出した言葉は、私に向けたものだったか。
耳をすり抜けたそれに込められた歪んだ感情に、ぞくぞくと駆けあがる感情は……。
やはり、目の前の男は常人——少なくとも、私には理解できない思考回路で動いているらしい。
彼のすべてを私は理解できない、はずで。
だから、唇が離れた一瞬、瞳の奥に熱が見えたのは気のせいだと。私には勘づいてしまえるその温度は、慣れない状況に可笑しくなってしまった私の幻覚だと。
そう言い聞かせて、夜は過ぎていく__。