悪戯とアルコール
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お兄さんとの初接触から、半年が経とうとしていた。
最近になってようやく知った名前をふと呼べば、んー、と気の抜けた返事をする。
ずっと、こんな調子だ。
真意は読めなくて、ただ時折突拍子もなく過激な行動をとる。
今だって、思いついたように立ち上がったかと思えば、押し付けるようにして当てた唇を伝ってさくらんぼのカクテルを流し込む。
「美味しい?」
突然口移しされて喉を通り過ぎる液体の味なんてわかるわけないのだけれど、正直に言ってしまえば不満そうにもう一度同じ行為をするのは目に見えている。
こくり、頷けば、満足したように同じ飲み物を頼む。
まって、それは度数高いやつじゃ——
迂闊な発言は、柔軟な思考を捨てた彼には届くはずもなく、私の帰りへの不安はさらに深刻になった。
「はー、ここまで酔うとはね」
他人事風に呟く彼の声が、ガラス一枚挟んだように遠く聞こえる。
いつの間にか会計を済ませたあとで、ため息をついてどこかに電話している。
程なくして来たタクシーに、ああこれを呼んでいたのかとぼーっと浮かんだあたりでまともな記憶が無い。
気づいたら私の家の前に着いていて
「あとはまっすぐ歩くだけだから、ほら降りて」
と急かされて、言われるがまま人形のように歩いてドアを閉めたところで記憶が途切れた。
目が覚めたのは、翌日の昼過ぎ。
異様に渇いた喉を潤しているうちに、あぁ飲み過ぎた……というか飲まされすぎたのだと曖昧な記憶が蘇ってきた。
口移しを気に入った彼が、子供みたいに繰り返しアルコールを注いで、されるがまま雛鳥のように飲み込むしかなくて。
際限なく行われたそれを中断したのは私が耐えられなくなったからで、それから——?
タクシーを呼んだ姿までは覚えているのに、その先が朧げだ。
私は彼に住所を教えてしまったのか? 後悔と確認も、メッセージを残すなんて丁寧なやりとりを重ねる相手ではないため考えるだけ無駄。
とにかく気分の悪さをどうにかしようと、思考を切り替えた。
**
「今度、ご飯食べに行こうよ」
ぐらついた視界を彼の腕が支えながら、次の誘いがくる。
あれ、居酒屋でもなく食事の誘いは初じゃないのかな? ぼんやりと気づくものの、深く考えるほど頭はまわらなくて、ただ頷く。
「予定入れとくね」
バックから当たり前のように取り出した私のスマホを、流れるようにロック解除してカレンダーを開く彼。
「いや、なんでパスワード知ってるんですか……?」
さすがに見過ごせない。ん?と間の抜けた声で答えた彼は、曇りなく__いや、すべてが曇っているのかもしれないけれど、熱のこもった瞳を合わせて言葉を発した。
「梨音のことならなんでも知ってるから」
揶揄いに違いないのに、ふざけた口調で零したわりには目が物語っているのは危ない香り。
**
——未来は、薄暗く堕ちていく。
ぼんやりと黒く染まっていくそれは、急激に——。