悪戯とアルコール
名前変換設定
option*夢対応*小説に適用されます。
夢主の設定が濃い話もあるため、脳内補正お願いします。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ガヤガヤと止むことなく、夜が深まるにつれヒートアップしていく喧騒。
騒がしい場所は好きではないのに、なぜわざわざ金曜の夜にいるのかといえば、目の前でグラスを揺らす彼のせいに他ならなかった。
「バレたら、困るよね?」
歪んでいるようにしか見えない笑顔で吐き出された言葉は、間違いなく脅しで。
助けを求める間もなく予定を照らし合わせて追加されてしまえば、追い詰めるようなスタンプと共にくる位置情報メッセージに動かされるまま足を運ぶ生活となっていた。
彼が頼むつまみ、一杯目の飲み物。
それらを観察できる余裕が生まれるほどには、隣に席つく数も増えてきた。
また、わかってきたのは、彼は私が望んで飲酒することを期待しているということ、運ばれてきたグラスに口をつけずに、でかい氷の溶けた水を少しずつ飲んでいるとあからさまに不機嫌そうな顔でタッチパネルを操作して追加注文すること。
そして、運ばれてきたグラスを「飲ませて欲しいの?」なんて台詞とは似合わない淡々とした声色で近づけてくる。
怒りとも、色欲とも違う感情の読めない瞳を向けられると、なんだか抗ってはいけないような気がして持ち手を握ってしまう自分を、責めるのにも疲れてきてしまった。
距離は熱が伝わるほどに近いのに、腰に腕を回されることは初日以来なかった。
数少ない変化としては、彼の名を“お兄さん”と呼ぶようになったこと。兄弟を連想するような関係ではないけれど、何故だかしっくりきた呼び名はお兄さん自身も気に入ったようで定着していた。
ただのお遊びなのか。娯楽というには悪趣味が過ぎているが、進路を揺らがされる材料を彼が持っている以上提言などできない。
体調と初めて飲んだお酒とが相まって吐き気に襲われた時だって、水を飲ませてくる彼の奥底は見えなくて。
大丈夫?とかけられた声は、言葉の意味すら含まれていない音の羅列に聞こえた。
すぐそばにいるのに、遠く感じる。
わからないことだらけの彼と、数ヶ月の時間を過ごした。
徐々に掴めてきた、なんて自惚れた考えはとある華金にきた呼び出しによって粉々にされ、アルコールに溶けていく。
「今日はお酒飲みません」
呼び出し音が鳴り止まない携帯を片手に、席に着いた瞬間声を出す。
先手必勝、というわけでもないが、とにかく自由どころか常識の通じない人には先に封じてしまうに限る。
珍しく、彼の手元にあるものも結露ができた黄金のジョッキではなくグラスのようだし、中身は色からしてアイスティー。
視線の先に気づいたのか、飲む?とストローが刺さったグラスを寄越した。
普段紅茶系は飲まないけれど、知らないアルコールよりかは得意じゃないソフトドリンクの方が何倍も良いのは自明。
進められるまま口をつければ、最後に飲んだ記憶よりも飲みやすく口に合う気がした。
「ちなみに、それ度数20パーセントね」
カラン、氷が一等大きな音を立てる。
別に飲ませる気なかったんだけどね、と付け足しながら店員が持ってきたアイスティーを受け取る彼の言葉は、確かに嘘ではないとわかる。
ただ、「魔が差しちゃって。」と悪びれもなく度数の強いカクテルを飲ませてくる辺りどうしようもないというか、この男を許す気にはなれないと重く息をついた。
……帰りの塾、どうしようか。