悪戯とアルコール
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玄関に着くまでの道程はほとんど頭に残っていなくて、でも運転する姿を初めてみた、とかそもそも免許持ってたんだなあ、とか、ぼんやりとした印象は残っていた。
どうぞ、なんて後ろからドアを押して通された部屋は、一人暮らしの男性にしては広い一室だった。
後ろで、ドアが閉まる音がやけに大きく響く。
未成年であろうと成人男性の家に上がっている、ということは無防備どころではないのは流石に分かっている、はずだったのに。
実際に鍵の閉まる音と当然のようにかけられたチェーンを視界に入れてしまえば、早計だったのでは、と遅すぎる不安が襲ってきた。
それらをすべて見透かすように。そして、逃げ場などないのだと知らせるようにするりと腕が回された。
「ねえ、好きっていっちゃおうか」
突然呟かれたそれは、私達の関係を揺るがす言葉で。
そして、なによりここ数ヶ月の私が渇望していた感情に違いなくて。
返事、しなきゃ。彼に、なにより自分自身に突き動かされるように言葉を紡ごうと口を開いたのに、あまりに色々な想いが巡っていたせいでうまく言葉にできなかった。
声にならない声で、せめて肯定の意思でも伝えようとこくこく頷く。
「梨音は、俺に愛をくれるよね。お金もなんもいらないからさ、梨音を頂戴?」
初めての呼び捨てと、追って付け足すように囁かれた言葉に、いまさら首を振ることなどできない。
ただ、この状況になっても勇気も決意も表せない私に逃げ道を示すように、彼が誘惑を口にする。
「ふたりとも酔ってるんだから、仕方ないよね」
首に回された腕が、ぐっと距離を縮める。
そのままするすると降りていった手のひらは、背中をなぞり、腰に沿わせるように動きを止めた。
服一枚挟んで伝わる体温に、心臓の動きが速まっていくのを体感する。
酔ってるんだから、しかたない。
彼が呟いた言葉が頭のなかで反復しているうちに、腰に置かれていた手は服を弄り、直接肌の上を滑る。
ただ同じ箇所をなぞっているだけなのに、往復するたびに熱がこもっていく。
それは表面だけではなくて、もっと身体の奥の__本能が、刺激されているようで。
余裕を崩さず、上機嫌に私の様子を観察している彼に、情欲を駆り立てられているなんて納得できないが、確かに灯る熱はいままで知らなかった、異性に対する色欲そのもので。
もっともっと、触れられたらどうなるんだろう。
無意識的に生まれた欲は、身体の前にまわってきた腕によって満たされる準備を始めていた。
一つずつ外されていくブラウスのボタン。本来なら抵抗するべき場面なのに、片手で支えられた腰部の感触に抗う気など起きなかった。
お兄さんといるときは、いつだって常識感なんて役に立たなくなって。
露わになった上半身と、胸部を覆う最後の一枚。
どこか慣れたような手つきでホックに手を掛けた彼と、視線が交差した。
磁力が働いたように、どちらともなく引き寄せられて合わさった唇は、もっと、と貪欲に舌を絡める。
日差しの届かない、カーテンに締め切られて世間の目など存在しない家という空間では、普段奥底に秘めていた欲望が表れる。
熱を燻らせた瞳が、ぱちりと合った時。
耳に残る重低音が響いた。
「もっと、していい?」
抑えきれない欲望の矢に、射抜かれたのは仕方のないことだった。
彼の言葉を境にペースがぐんと高まった触れ合いは、もはや前戯と言って差し支えないものへと変わっていた。
荒くなった息とお互いの体温。
触れるたびに下半身が疼くのは、きっと、そういうことで。
紛れもなく、期待してしまっている自分がいた。
ほんとはよくないことなのに、どうしてかお兄さんとなら大丈夫だと思ってしまう。
もしかしたら。世間に溢れる心理術よりもなによりも、目の前の彼が恐ろしいかもしれない。
バカなことを考えているあたまだって、絡み合う唾液でまとまらなくなってきた。
とろけるように甘い液体が、止まることなく流れていくようで。
恋の錯覚、とはよくいったものだ。
布一枚も纏っていない肌は、彼のぬくもりが直に伝わってくる。
太ももを伝う液体がなんなのか、わからないほど初心ではないけれど、誰かと夜を過ごした経験などないそこは未体験で。
全部、わかっているように優しく触れる手つきが、ひたすら心地良く思えた。
いつのまにやら脱いでいた彼の腰部が、視界に写ったとき。わずかな痛みとともにぎゅっと瞑った目の近くにそっと柔らかな唇が当たる。
ふわふわと当たる金髪が生理的に緊張してしまう心をほぐしてくれるようで、彼の首に手を回し、甘えるように抱きつく。
今までこんなこと一度もしなかったのに、どうしてか、いまこの時だけでも深くまで繋がっていたくて。
はじめてなのに、私が私じゃないみたいに塗り替えられていく。
それは気持ち悪いものじゃなくて、心地良く受け入れられる変化だった。
だれもしらないふたりだけの夜、私とお兄さんはひとつに繋がりあった。
「好きだよ。梨音も、俺のこと好き?」
刻むようにゆっくりと問われる。答えはひとつだけ、
「うん、だいすき」
年齢より拙く響いた声に、グラスの氷がアルコールを揺らした。
**
光を遮る布の外は、朝日が上り始めている。
一人の男が少女から離れる気などないように抱き締めている奥のテーブルには、
——ウォッカ、オレンジが混じったふたつのカクテル。
”あなたに心を奪われた”