愛の欠乏
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『香月梨音』
名前が表示された携帯画面をぼーっと眺め、重い息を吐いた。
広い部屋の中に、疲れた溜め息がひとつ。
それがまた、胸の中を支配する虚しさを膨らませた。
俺には、彼女がいる。
ユニットを組んだ頃から付き合いはじめ、身体の関係もある。
ただ、それを誰かに言ったことは1度もない。
もちろん、暁や黎にも言っていない。
だから、事後処理をちゃんとしないまま会うことが重なったのもあって、特定の彼女を作らない人だと思われているだろう。
これまでは訂正しなくとも、曖昧に流していた。
ただ、今は違う。
暁も黎も相手を見つけて、依存しきった姿を晒している。
それが、酷く羨ましかった。
何度も夢見た理想を、2人に先越された時に沸いてきたのは圧倒的な屈辱感だった。
だから、俺も彼女と区切りをつけなくてはいけない。
このままじゃ、ダメなのはわかっているから。
携帯を手に取り、俺の家に彼女を呼び出して、中に入れるのと同時に本題を切り出す。
「梨音は俺から離れたい?」
渇いて上手く動かない口から、心の中にしまい込んでいた言葉が吐き出された。
ぴたりと動きを止め、大きな瞳でこちらをうかがう彼女。
きっと言葉を選んでいる。
「__うん、もう終わりにしよ」
俺が聞いた事だから、もう拒絶したって大丈夫だと思ったのかもしれない。
彼女に依存しなければ、生きられないような、そんな人じゃなくなったのだと思ったのかもしれない。
俺だって、そうだと信じていた。
なのに、梨音から発せられた”終わり”という言葉に、胸が死ぬほど痛くて、安心するために反射的に伸ばした手は、彼女の首を掴んだ。
「俺は、梨音がいなきゃだめ、生きられない。捨てるならいっしょに死のう? なぁ、」
頭が割れるように痛くて、ぐちゃぐちゃになった思考はただ目の前の梨音と一緒にいるためのことしか浮かばなくて。
ぴったりとくっついた彼女の身体が、震えて、ドクドクとはやい鼓動になって、合わない視線に怯えの色を含んだ瞳の奥。
あぁ、間違えたんだ。
会うたびに彼女は俺のことが好きなんだと信じたくて、世の中のカップルがやっているように、独占欲を身体に残したり、あまい香りを移したりしたかった。
でも、白い魅惑的な肌に吸い付けば、困ったように身を引いて、跡は付けないでと愛おしい声で拒絶した。
どうしても彼女と過ごした痕跡を残したくて、女性物の香水を纏わせたりもした。
それでも残るのは、虚しさだけで。
背中に手を回して快楽に耐える彼女に、噛んでいいよと言っても、綺麗に並んだ白い歯が俺の肌を傷付けることはなかった。
なにより、誰かとのメッセージ履歴に書かれた『彼氏いないです』という文字。
暁が女の子に抱きついている写真を見て、動揺のままに俺の表情で真実だと察して、席を立ったあとに聞こえた泣き声。
暁に彼女が出来てから、あまり視線が合わなくなって、暁の話題が出るたび、悲しさと罪悪感を滲ませた顔で話を変える彼女。
出会った頃から、1度もさせてくれないキス。
日が経つにつれて、俺が好きというたび泣きそうな顔をする。
薄々気付いていた。
彼女にとって俺は彼氏でも友達でも大切な人でもなくて、暁に近付くための手段に過ぎないと。
彼女が好きなのは、俺じゃなくて暁だと。
はっきり分かっても、梨音や暁を責める気にはなれなかった。
怒りよりも悲しみの方が強くて、彼女の気を惹きたくて。
ずっと願っていた。
ちゃんと目が合って、キスも沢山して、好きと言っても、愛していると言っても、笑顔を見せてくれるような甘い生活。
俺から逃れたがっていることには気付いていた。
だから、束縛して彼女を苦しめることなんてしたくなかったのに。
自分から提案した癖に、ドロドロした独占欲に負けて怯えさせるなんて、最低な男だろう。
それでも、もう後戻りは出来ない。
か弱い力で抵抗する彼女を押し倒す。
目元に浮かんだ雫に欲が膨らむのを感じた。
いま、梨音の瞳には俺しか映っていない。
強ばった身体を抱き締めて、首元にいくつもの跡を付けた。
強く吸うたびに、溢れていく涙が愛おしく感じる。
固く閉じた両足に無理やり割り込み、膝でぐりぐりと服の上から敏感な所を刺激しつつ、身動きを封じる。
両手で頬を包んで親指で唇をなぞれば、何をされるのか分かったのか、固く口を閉じた。
ああ、そんな小さな反抗しても無駄なのに。
潤った瞳で震える梨音が愛おしい。
唇を蝕むようにかぶりつけば、身体に力が入り、逃れようと動く。
だが、女の子の力で男に勝てるはずもなく、疲れて空気を求めた口に、舌をねじ込む。
「んー!ンン、はっ、ぁ」
初めて侵入した梨音の口内に、興奮する。
大きくなった俺のモノに気付いたのか、一瞬動きが止まり、頬が赤く染まる。
口内を犯し尽くす舌に、息を上げて乱れる梨音。
ずっと見たかった姿。
くだらない我慢をしなければ、もっと早くに見られたのに。
もう、ここまで来たら先のことなんてどうでもよかった。
罪悪感より、目の前の彼女を抱きたい気持ちの方が遥かに強い。
__今日で『dawn』は終わりだ。
それぞれ、愛おしい者を構うだけで満足だ。アイドルをやっている時間なんてない。
今まで燻らせてきた想いを、梨音に伝える。
きっと彼女は怯えるだけだろうが、それでもいい。
今の梨音には俺しか見えていない。それに纏う感情が恐怖だろうと何だろうと構わない。
“暁”じゃなくて、”焔”を見てくれているのなら、それでいい。
これからは暁になんて絶対会わせない。
俺と触れ合って、話して、それだけで十分。
他の奴らは視界に入れず、俺だけ見てくれれば良い。
__梨音は俺だけのお姫様。