残夢
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言葉もあまり理解出来ていないくらい幼い時に誰かと約束をした、らしい。
というのも、人づてに教えられたから。そもそも、そんな小さな頃の話を覚えているはずがない。
ともかく、その約束とやらが私の人生を揺るがす程重大なことらしい。
全く実感はわかないが、なんでもとても偉い神様に気に入られたそう。
「三日後にお迎えに参ります、それまでに現世とのしがらみを断ち切ってください。」
一方的に言って柏手と共に消えた”紅季様の使い”を名乗るもの。
ちなみに紅季様、というのは嫁入りする事になる神様の現世で使われている名前。神藤 紅季様というらしい。
一日目はひたすら混乱していた。久しぶりに実家に帰れば強制的に人との縁を切られる事になり、それでも家族や親戚はとても喜ばしい事だと張り切って準備をする。
二日目、一晩寝れば自分でもあっさりし過ぎじゃないかと感じる程、心にすとん、と落ちるように理解し、まぁそんな人生も悪くないかもしれないと思った。
元々人や物に執着するタイプではなく、熱狂するような趣味も、一生添い遂げたいと思うような相手も存在しなかったからかもしれない。
関係各所に連絡しなくては、と思う反面、非現実的な事を言われても困るだろう、そもそもフリーランスでちょうど案件も何も引き受けていない。
結局誰にも連絡はせず、慌ただしく駆け回る親族たちをぼーっと眺めていた。
三日目、ついに迎えが来る日。まだ現実なのか疑っているところはあるが、心の準備は出来ていた。
「心残りはない?」
そう聞かれて、ふととある神社の存在を思い出した。
一番多感な時期、まぁ人格生成期とでも言ったらいいのか、そんな時期に毎日通っていた場所だった。
高校から大学に上がるに連れて、徐々に行く頻度が減り、就職と引越しにより大学を卒業してからは全く足を運ばなかった。
どうして今まで思い出さなかったのか、不思議な程あの神社にいる”紫苑”という彼にはお世話になったのに。
こうしちゃいられない、立ち上がり外へ出る。
駆け足で行けば五分くらいで赤い鳥居が見えてくる。
久しぶりに走った。ぜーはー乱れる息を整えて、流れる汗を拭いながら腕時計を見れば約束の時間まであと三十分。
「え、ぁ、梨音、さん……?」
戸惑ったような聞き覚えのある声に顔を上げれば、石段の上で棒立ちしていた。
その藤色の目は見開かれていて、心の底から驚いている事が伝わる。
瞬きも忘れ此方をじっと見てくる彼に
「お久しぶり、です」と変に角張った声で挨拶すれば、ぱぁ、とはっきりわかるほど嬉しそうに表情を変えた。
「本当に、梨音さんなんですね……!また会えて嬉しいです!」
感極まったように近くに駆けつけ顔を綻ばせる。
ここまで再会を喜んでくれるとは思わず、嬉しくもあるが、長年来れなかった罪悪感とこれから告げる内容に胸が痛くなる。
次々と私が顔を見せなかった間の出来事を聞いてくる彼に、最初は笑顔で答えていたが、止まない質問と迫る時間に申し訳なく思いつつも、話を遮る。
「本当はゆっくり話したいんだけど……実はね、」
もう残り十分しかない。手短に事情を話せば、先程とは一転、悲しそうに目を伏せた。
どうにか出来ないかと頭を悩ませる紫苑に、私はもう決めてるから、大丈夫だと伝える。
それは逆効果だったようで、珍しく大きな声を出す。
「だって、これからはもう一生会えないんですよ?こうやって、言葉も交わせなくなるッ、そんなの……!やっと会えたのに、」
感情を露わにして辛そうに声を出す彼の姿は、数年見てきた中で初めての事だ。