三部・承太郎
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「水族館でイルカに会ったの」
水族館なのだから、イルカがいるのは当たり前だろう。
当たり前のことを伝えようとして口を開けば、目の前の女・・・秋山が、黙って聞いてほしいといった雰囲気でこちらを見たので口をつぐんだ。
飲みかけのコーヒーと一緒に、言いかけた言葉を飲み込む。
そうやって、おとなしく次の言葉を待っていると、ふっくらした唇が動いて、「イルカは」と、発した。
「水槽の中を泳いでいた・・・」
「それで?」
ひたすら黙っているだけなのもつまらないというものだ。
せめて続きを促すだけなら許されるだろう。
「それで・・・・・・」
秋山はおれの台詞を鸚鵡返しするだけで、話を先へ進めようとしない。
よほど言い辛いことなのだろうか。
あまり気が進まないが、こちらから切り込むか。
「言いづらいことなら、無理に話す必要はない。今日はただのお茶会だったということで良いだろう。今日でなくても、話はいつでも聞いてやれる」
「良くない。これは、承太郎にしか相談できないことだから。今言わなきゃいけないことなの」
額を押さえてかぶりを振る秋山は、普段の強気な姿勢は微塵も感じさせなかった。
なにを弱気になっているというのか。
普段の凛々しい君はどこへ行った?
それほどまでに悩んでおきながら、身内でも友人でもなく、おれしか頼れない案理由とは一体?
「どう表現すれば上手く伝わるのか分からない・・・。だけど、こう言うしか・・・的確な表現がないから、頭がおかしいって思われるかもしれないけど、あなたのことを信じているから言うわ」
「秋山?」
「わたしも・・・あの水槽の中を泳いでいたのよ・・・!そうとしか言いようがないの・・・!全身が海に入った時みたいに冷たくて、だけど服も、肌も塗れていない・・・水の入ったペットボトルだって持っていなかったわ」
「・・・話はちゃんと聞く。だから順を追って、落ち着いて話してくれないか」
あれほど躊躇していた秋山が、口を開けば栓を抜いた風呂のように、伝えたい言葉が次から次へと零れ出てきたことに、こちらまで急いてしまいそうになるのを抑えながら、おれは彼女に冷静になるよう促した。
――やはり、秋山の身に、どこか尋常でないことが起きている。
焦燥感に駆られた表情を見れば十二分に伝わってくる。
「それに・・・」
「秋山、ちゃんと息を吸え」
秋山は続けた。
「それに、水の中を潜っている音だってした・・・!まるでわたしが、あのイルカになったみたいな、気分、だった・・・・・・。あの時は突然のことで、感覚でしか理解できなかったから、もしかしたら夢だったかもしれないって、思っていたけれど・・・」
矢継ぎ早に話すからだ。
感情の激しい起伏により、秋山の目尻には涙が浮かんできていた。
息も、やや荒くなっている。
「いるのよ。確かに、ここに・・・」
「ウッ」
か細い声で話す秋山の涙が、微かだが、おれの目には震えように見えた。
それを認識すると同時に、涙はありえない方向へ、下ではなく上へと昇っていった。
そいつは宙に浮かび上がると、かなりの質量を伴って一気に膨らんでいった。
まるでサーカスで見かけるバルーンアートのようだ。
「なんだ!?こいつは・・・。・・・まさかお前!」
振り返ると秋山は椅子に座ったままで、俯き加減におれを見つめていた。
ぐす、と鼻をすする音が聞こえた。
「親に言っても信じて貰えなかった・・・友達には馬鹿にされて、誰一人、わたしを心配してくれなかった・・・。でも承太郎なら、あなたにも、人には見えないものが見えると教えてくれた人がいたから・・・」
もはや涙と呼べない質量にまで一気に膨れ上がった液体が、ゴボゴボと水音を立てながら、何らかの形を象っていく。
長い胴、三角形の背びれと、尾っぽの先には立派な尾びれが生えている。
歯並びのいい小さくて細かい歯をカチカチ鳴らしながら、そいつは気持ちのいい青空を背景に白い腹を見せながら、悠々とおれたちの頭上を泳いで見せた。
「だから、わたしは承太郎を頼った。ごめんなさい。こんな不気味なことに巻き込んでしまった・・・」
「・・・なるほど。イルカはスタンドで、秋山がその本体だったってわけだ。水に入っていないのに、秋山自身が水の中にいる感覚になった理由がよーく分かったぜ」
因みに。
「おれが、見えないものが見える体質だと教えてくれた、そいつは一体誰なんだ?お前の知り合いかもしれんが・・・場合によっちゃあ、ぶちのめすことになるぜ」
「えっ、ぶちのめすの?」
「知らない奴なら、な。いいか、お前にも危害が及ぶかもしれないんだ。ここは素直に答えた方が身のためだぜ」
DIOの残党による敵スタンドかもしれないからな。
いつこの街に危害を加えてくるかも分からないため、安眠のためにも早急に対処しておかなければ。
さあ、秋山は誰の名前を出してくる?
秋山は暫くの間だけ口ごもっていたが、観念したように、恐る恐ると一人の男の名前を口にした。
そいつの名前は。
「あなたのお友達の花京院くんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・やれやれだぜ」
溜息を吐いて、帽子のつばで目元を隠した。
秋山におれに相談するよう促した奴が、まさかの親友だったとは。
これはどうやら一杯食わされたらしい。
「ちょっとだけ笑ってるのは何でよ?あのね、こっちは死活問題なんだけど・・・!」
「分かったから落ち着け。対処法ならある。これから説明するから、おとなしく席へ座りな。そうだな、まずはスタンドから説明していこうか。お前の頭にはちと難しいかもしれんがな」
「失礼な男ね、本当に!あなたも花京院くんを見習えばいいのよ」
最後の言葉が余計だったのは後で反省している。
だが、さっきまでしょぼくれていた女がいつもの調子にやっと戻ったので、これはこれで良しとしておく。
花京院があえてスタンドの相談に乗らず、承太郎と秋山の距離を縮めさせようとしただけの話。
水族館なのだから、イルカがいるのは当たり前だろう。
当たり前のことを伝えようとして口を開けば、目の前の女・・・秋山が、黙って聞いてほしいといった雰囲気でこちらを見たので口をつぐんだ。
飲みかけのコーヒーと一緒に、言いかけた言葉を飲み込む。
そうやって、おとなしく次の言葉を待っていると、ふっくらした唇が動いて、「イルカは」と、発した。
「水槽の中を泳いでいた・・・」
「それで?」
ひたすら黙っているだけなのもつまらないというものだ。
せめて続きを促すだけなら許されるだろう。
「それで・・・・・・」
秋山はおれの台詞を鸚鵡返しするだけで、話を先へ進めようとしない。
よほど言い辛いことなのだろうか。
あまり気が進まないが、こちらから切り込むか。
「言いづらいことなら、無理に話す必要はない。今日はただのお茶会だったということで良いだろう。今日でなくても、話はいつでも聞いてやれる」
「良くない。これは、承太郎にしか相談できないことだから。今言わなきゃいけないことなの」
額を押さえてかぶりを振る秋山は、普段の強気な姿勢は微塵も感じさせなかった。
なにを弱気になっているというのか。
普段の凛々しい君はどこへ行った?
それほどまでに悩んでおきながら、身内でも友人でもなく、おれしか頼れない案理由とは一体?
「どう表現すれば上手く伝わるのか分からない・・・。だけど、こう言うしか・・・的確な表現がないから、頭がおかしいって思われるかもしれないけど、あなたのことを信じているから言うわ」
「秋山?」
「わたしも・・・あの水槽の中を泳いでいたのよ・・・!そうとしか言いようがないの・・・!全身が海に入った時みたいに冷たくて、だけど服も、肌も塗れていない・・・水の入ったペットボトルだって持っていなかったわ」
「・・・話はちゃんと聞く。だから順を追って、落ち着いて話してくれないか」
あれほど躊躇していた秋山が、口を開けば栓を抜いた風呂のように、伝えたい言葉が次から次へと零れ出てきたことに、こちらまで急いてしまいそうになるのを抑えながら、おれは彼女に冷静になるよう促した。
――やはり、秋山の身に、どこか尋常でないことが起きている。
焦燥感に駆られた表情を見れば十二分に伝わってくる。
「それに・・・」
「秋山、ちゃんと息を吸え」
秋山は続けた。
「それに、水の中を潜っている音だってした・・・!まるでわたしが、あのイルカになったみたいな、気分、だった・・・・・・。あの時は突然のことで、感覚でしか理解できなかったから、もしかしたら夢だったかもしれないって、思っていたけれど・・・」
矢継ぎ早に話すからだ。
感情の激しい起伏により、秋山の目尻には涙が浮かんできていた。
息も、やや荒くなっている。
「いるのよ。確かに、ここに・・・」
「ウッ」
か細い声で話す秋山の涙が、微かだが、おれの目には震えように見えた。
それを認識すると同時に、涙はありえない方向へ、下ではなく上へと昇っていった。
そいつは宙に浮かび上がると、かなりの質量を伴って一気に膨らんでいった。
まるでサーカスで見かけるバルーンアートのようだ。
「なんだ!?こいつは・・・。・・・まさかお前!」
振り返ると秋山は椅子に座ったままで、俯き加減におれを見つめていた。
ぐす、と鼻をすする音が聞こえた。
「親に言っても信じて貰えなかった・・・友達には馬鹿にされて、誰一人、わたしを心配してくれなかった・・・。でも承太郎なら、あなたにも、人には見えないものが見えると教えてくれた人がいたから・・・」
もはや涙と呼べない質量にまで一気に膨れ上がった液体が、ゴボゴボと水音を立てながら、何らかの形を象っていく。
長い胴、三角形の背びれと、尾っぽの先には立派な尾びれが生えている。
歯並びのいい小さくて細かい歯をカチカチ鳴らしながら、そいつは気持ちのいい青空を背景に白い腹を見せながら、悠々とおれたちの頭上を泳いで見せた。
「だから、わたしは承太郎を頼った。ごめんなさい。こんな不気味なことに巻き込んでしまった・・・」
「・・・なるほど。イルカはスタンドで、秋山がその本体だったってわけだ。水に入っていないのに、秋山自身が水の中にいる感覚になった理由がよーく分かったぜ」
因みに。
「おれが、見えないものが見える体質だと教えてくれた、そいつは一体誰なんだ?お前の知り合いかもしれんが・・・場合によっちゃあ、ぶちのめすことになるぜ」
「えっ、ぶちのめすの?」
「知らない奴なら、な。いいか、お前にも危害が及ぶかもしれないんだ。ここは素直に答えた方が身のためだぜ」
DIOの残党による敵スタンドかもしれないからな。
いつこの街に危害を加えてくるかも分からないため、安眠のためにも早急に対処しておかなければ。
さあ、秋山は誰の名前を出してくる?
秋山は暫くの間だけ口ごもっていたが、観念したように、恐る恐ると一人の男の名前を口にした。
そいつの名前は。
「あなたのお友達の花京院くんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・やれやれだぜ」
溜息を吐いて、帽子のつばで目元を隠した。
秋山におれに相談するよう促した奴が、まさかの親友だったとは。
これはどうやら一杯食わされたらしい。
「ちょっとだけ笑ってるのは何でよ?あのね、こっちは死活問題なんだけど・・・!」
「分かったから落ち着け。対処法ならある。これから説明するから、おとなしく席へ座りな。そうだな、まずはスタンドから説明していこうか。お前の頭にはちと難しいかもしれんがな」
「失礼な男ね、本当に!あなたも花京院くんを見習えばいいのよ」
最後の言葉が余計だったのは後で反省している。
だが、さっきまでしょぼくれていた女がいつもの調子にやっと戻ったので、これはこれで良しとしておく。
花京院があえてスタンドの相談に乗らず、承太郎と秋山の距離を縮めさせようとしただけの話。