四部・岸辺露伴
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ほぼ半焼に近い豪邸。そこで辛うじて被害を免れたテラスに腰かけて、私は大笑いした。上品とは程遠い笑い声に、豪邸の家主こと漫画家、こと岸辺露伴は見るからにしかめ面をして、「君は楽しそうでいいな」と嫌味を溢した。無意識だろうか、彼の口が、への字に曲がっているのがまた可笑しくて堪らない。東方仗助。彼が、お小遣い欲しさにチンチロリンを申し込んできた一連の流れを、無理を言って聞かせて貰ったのだ。サイコロは、どの目が出るかは振ってみないと分からない。なのに仗助は、良い目を三度も続けて出して見せたという。不自然だ。岸辺先生は、自身がイカサマを仕掛けられていると確信した。結論から言うと、岸辺先生はイカサマのネタを割ることができなかった。しかもだ、自身の小指をボールペンでぶち抜いた挙げ句、サイコロを調べるために持ち出していた虫眼鏡による自然発火によって、自宅を半焼させてしまうはめになった……というわけだ。この騒動により、二人の賭けはパアになった。勝者と敗者、どちらもいない、スッキリしない終わり方だ。しかし、強いて言うなら……。岸辺先生がネタを割るよりも早く、火事のどさくさに乗じて土壇場で逃げ切った仗助こそ、ある意味、勝者と呼べるのではないだろうか。この男を相手によく無事で済んだものだと感心した。拍手を贈りたいくらいだ。「僕はイカサマを暴けなかった」岸辺先生は悔しそうに言った。「あいつに勝ち逃げされたような気分だ。思い返すと、今でもむかっ腹が立つぜ。おまけに家は焼けるし……」「二百五十万の家具も焼けた」私が笑いを堪えながら付け足すと、じろり、と岸辺先生が私をねめつけた。少し調子に乗りすぎたか。あまり彼を刺激したくない。ここからは真面目に話すとして、ついでに、チンチロリンからも話題を逸らすとしよう。「でも、二つ杜トンネルで入院患者に襲われた時は、助けに来てくれたんでしょ?」「結果的にはな」苦々しい声だ。「言う事とやる事が、あべこべなんだよ、あいつは」「心中お察しします」
二人とも、関係がここまで拗れているのに、例の件に関しては協力的な関係にあるというのだから、いやはや、人間とは不思議な生き物だ。聞きたいことは粗方聞けたので、爽やかな空を見上げて呆けていると、岸辺先生から、「世間話は終わりだ」と声がかかった。今度は私が話す番のようだ。「何から聞きたい?」足を組んで、わたしは尋ねた。といっても、知っていることしかお話ししてあげることはできないけれど。「そうだな…。本来なら君とは、ここで吉良吉影について情報を擦り合わせるするはずだった。その予定だったんだが…」岸辺先生は、わたしの爪先から頭までをじいっと観察して。「今の今まで、ただの勘違いだと思っていた…。気のせいだと、自分で自分に言い聞かせていた……」岸辺先生の頬から顎にかけて、つう、と汗が流れていった。微かに唇が震えている。先程と比べて、顔色も悪いようだ。「これは僕の予想なんだが、はっきり言って、勘違いであってほしいと思っている…!」「ひょっとして君は……」そう言いかけた彼は瞬きをしないまま、一拍置いてから言葉を続けた。
「死んでいるんじゃあないのか?」
夏、サマーシーズン到来。普段は静かな街並みも、ひとたび観光客で賑わえば、雰囲気は賑やかなものへと一転する。お楽しみがいっぱいなこの季節、誰もが心踊らせていることだろう。そう、きっとあいつも…。輝かしい季節の反面、どす黒い脅威は依然として、この街の何処かで息を潜めている…。『いよいよ今月から海開きです!ご家族で旅行に行かれる方も多いことでしょう……』敷地の庭木に水やりをする中年男性が、BGM代わりにつけていたラジオ。そこから聴こえてくるラジオパーソナリティの元気な声に耳を傾けながら、岸辺露伴は、頭の中に描いた地図に沿って足を進めていく。杜王町勾当台2に建つオーソンの隣に、存在しないはずの小道に、その足は向かっていた。具体的にいえば、用事があるのは小道ではなく、そこに住む少女の方にあるのだが。細かいことを言えば、住むでなく縛られていると言った方が的確かもしれない。地縛霊、彼女は自身のことをそう例えていたのだから。十五年の歳月が経つにも関わらず、一人で……いや、一人と一匹でこの町の危機を訴えてきたというのだから、大したものだ。そうこうしている内に目的の場所に辿り着いたので、露伴は周りに人気がないのを確かめてから、慣れた足取りで例の角を曲がった。ここから先は、人ならざる者たちの領域だ。声が聞こえた。女の声だ。高くも低くもない落ち着いた声が路地の塀向こうから聞こえてくる。だれかと話しているようだ。いったい誰と?分かりきった疑問が頭に浮かぶより早く、足が動いていた。相手に勘づかれないよう慎重に足を運び、塀の影に隠れた。影からそっと顔を覗かせて、相手の様子を伺う。そこには見知らぬ後ろ姿が在った。声さえ聞かなければ、一見、細身の青年とも捉えられそうなラフな服装をしている。女が露伴の存在に気づいた素振りが見られないため、念のためにも、もう少しばかり様子見を続けようと決め込んだ。その時だ。「露伴ちゃん」最近やっと聞き慣れた優しい声に呼ばれた。呼び掛けにつられた女が、露伴が隠れている塀を肩越しに振り返った。こうもバッチリ目が合ってしまっては、隠れていることはできない。吉良の素顔を暴いてからというもの、新たに矢で貫かれた敵スタンド使いに襲われる頻度が上がってきているというのに、迂闊に近付きたくはなかったのだが…。半ば引きずり出されるような形で姿を現すことになった露伴は、一瞬、渋い顔をした。何かあってもすぐ対応できるように、女から視線を外すことなく、ゆっくりと歩を進める。昔、幼馴染みだったという少女の傍に立つと、何故だか、にこりと微笑まれた。向かい合う形になり、露伴は初めて女の顔を見た。
二人とも、関係がここまで拗れているのに、例の件に関しては協力的な関係にあるというのだから、いやはや、人間とは不思議な生き物だ。聞きたいことは粗方聞けたので、爽やかな空を見上げて呆けていると、岸辺先生から、「世間話は終わりだ」と声がかかった。今度は私が話す番のようだ。「何から聞きたい?」足を組んで、わたしは尋ねた。といっても、知っていることしかお話ししてあげることはできないけれど。「そうだな…。本来なら君とは、ここで吉良吉影について情報を擦り合わせるするはずだった。その予定だったんだが…」岸辺先生は、わたしの爪先から頭までをじいっと観察して。「今の今まで、ただの勘違いだと思っていた…。気のせいだと、自分で自分に言い聞かせていた……」岸辺先生の頬から顎にかけて、つう、と汗が流れていった。微かに唇が震えている。先程と比べて、顔色も悪いようだ。「これは僕の予想なんだが、はっきり言って、勘違いであってほしいと思っている…!」「ひょっとして君は……」そう言いかけた彼は瞬きをしないまま、一拍置いてから言葉を続けた。
「死んでいるんじゃあないのか?」
夏、サマーシーズン到来。普段は静かな街並みも、ひとたび観光客で賑わえば、雰囲気は賑やかなものへと一転する。お楽しみがいっぱいなこの季節、誰もが心踊らせていることだろう。そう、きっとあいつも…。輝かしい季節の反面、どす黒い脅威は依然として、この街の何処かで息を潜めている…。『いよいよ今月から海開きです!ご家族で旅行に行かれる方も多いことでしょう……』敷地の庭木に水やりをする中年男性が、BGM代わりにつけていたラジオ。そこから聴こえてくるラジオパーソナリティの元気な声に耳を傾けながら、岸辺露伴は、頭の中に描いた地図に沿って足を進めていく。杜王町勾当台2に建つオーソンの隣に、存在しないはずの小道に、その足は向かっていた。具体的にいえば、用事があるのは小道ではなく、そこに住む少女の方にあるのだが。細かいことを言えば、住むでなく縛られていると言った方が的確かもしれない。地縛霊、彼女は自身のことをそう例えていたのだから。十五年の歳月が経つにも関わらず、一人で……いや、一人と一匹でこの町の危機を訴えてきたというのだから、大したものだ。そうこうしている内に目的の場所に辿り着いたので、露伴は周りに人気がないのを確かめてから、慣れた足取りで例の角を曲がった。ここから先は、人ならざる者たちの領域だ。声が聞こえた。女の声だ。高くも低くもない落ち着いた声が路地の塀向こうから聞こえてくる。だれかと話しているようだ。いったい誰と?分かりきった疑問が頭に浮かぶより早く、足が動いていた。相手に勘づかれないよう慎重に足を運び、塀の影に隠れた。影からそっと顔を覗かせて、相手の様子を伺う。そこには見知らぬ後ろ姿が在った。声さえ聞かなければ、一見、細身の青年とも捉えられそうなラフな服装をしている。女が露伴の存在に気づいた素振りが見られないため、念のためにも、もう少しばかり様子見を続けようと決め込んだ。その時だ。「露伴ちゃん」最近やっと聞き慣れた優しい声に呼ばれた。呼び掛けにつられた女が、露伴が隠れている塀を肩越しに振り返った。こうもバッチリ目が合ってしまっては、隠れていることはできない。吉良の素顔を暴いてからというもの、新たに矢で貫かれた敵スタンド使いに襲われる頻度が上がってきているというのに、迂闊に近付きたくはなかったのだが…。半ば引きずり出されるような形で姿を現すことになった露伴は、一瞬、渋い顔をした。何かあってもすぐ対応できるように、女から視線を外すことなく、ゆっくりと歩を進める。昔、幼馴染みだったという少女の傍に立つと、何故だか、にこりと微笑まれた。向かい合う形になり、露伴は初めて女の顔を見た。
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