三部・承太郎
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「好きだ」と言われたら「あっそう」と返し、「愛してる」と言われれば、「頭イカれてるんじゃない?」と突き放す。
高校生が大人ぶって、意味を知らずに愛の言葉を平気で口にする。
恋愛映画の見すぎなんじゃないのかとさえ思う。
「いっぺん川に飛び込んで頭冷やしたら」
しつこいのよ貴方、と渡されたプレゼントを丁重にお返しすれば、相手はくしゃりと顔を歪めて、罵声を飛ばしながら走り去っていった。
取り残されたプレゼントは軽い音を立てて地面へ落下し、土草に塗れてしまった。
中身を確認する気にもならない。
というか、開けてしまえばそれは告白にOKを出したことになりそうだから、ここは触らぬ箱に祟りなし、そっとしておくのがベストだろう。
深いため息を吐いた。
不快だ。
彼とは深い付き合いをしたわけでも、何か接点があったわけでもない、なんてことはないただの同級生だというだけなのに。
どうしてあそこまで簡単に愛を囁けるのか、てんで理解することができなかった。
生まれ持った自分の容姿だけはどうにもならない。
周りの女子からのやっかみをもたらすし、異性が相手でもすぐこれだ。
美形だから得をすると思ったら大間違いである。
誰にだって損をすることくらいあるのに、誰もそれを理解してくれない。
頻度は下がってきても、それでも時たま呼び出されることに、私は苛立ちを覚え始めていた。
「また振ったのか」
「また見てたのね」
空にした煙草の箱をくしゃりと握り潰しながら、その男はやって来た。
一連の流れを影から見ていたに違いない。
のらりくらりと歩み寄ってくるそいつ、空条承太郎という男子生徒はその腕っ節の強さから、そこいらの男子生徒から恐れられ、女子生徒からは熱烈な視線を送られる、そういう存在だ。
知る人ぞ知る有名人。
これまでいったいいくつの告白をその身に受けてきたのかは想像がつかない、というか興味が沸いてこない。
だが、一度も女子と親しそうに歩いている姿を見かけたことがないので、きっと一度も受けていないのだとは思う。
「これで何回目になるのかしら。悪趣味だからやめてって、この間、言ったばかりよね?」
「さあな。元々ここは俺のサボりスポットなんで、ね。そこにたまたま居合わせただけの話だ」
「ウソばっかり」
承太郎が煙草に火を点けると、白い煙が狼煙のように上がった。
彼の節くれだった指のせいで、煙草が小枝に見えてくる。
「はあ・・・・・・お願いだから、プライベートに干渉してくるのをやめてちょうだい。あまりいい気分じゃないのよ、分かるでしょ。・・・というか、いつもどうやって嗅ぎつけてくるわけ?」
「勘」
即答だった。
「その勘をもっと違うところに活用しなさい。テストとか、他に色々あるでしょ」
「成績なら問題ない。なんならお前より上だ」
「こ、こいつゥ・・・」
イケメンが言うから余計に憎たらしさが増すというものだ。
口角と握りこぶしがピクピクするのを抑えて、私は腕組みをして後輩を見下ろした。
実際は私が承太郎に見下ろされている側なのだけど、相手の身長がバカみたいに高いからそれはできないので、せめて気持ちだけでも上に立っていたい。
でないと威厳がなくなってしまう。
「先輩に生意気な口を叩くとは、感心しないねえ。その辺のワンコの方が、よっぽど可愛げがあるわ」
「なってやってるだろ」
「何に」
「犬に」
「は?」
は?としか答えようがなかった。
いつ犬になったの。
耳と尻尾が生えているわけでなし、いたって普通の、いや普通じゃなかった、改造制服に身を包んだ後輩からは、犬の要素など全く見受けられない。
意味が分からなくて、数秒考えてもやっぱり分からなくて、承太郎の顔を見れば、「まだ気がつかないのか?」と涼しげに、咥えていた煙草を地面に落とした。
落ちていく煙草が靴先で磨り潰されるのを見守っていると、それを終えた足がこちらへ向かってきて、あっという間に距離を詰められた。
足が長いと歩くのも速くていいな、なんて考える間に、承太郎は私の手首を掴むと。
「てめーの番犬に、だ」
がじ、と噛みついた。
なるほどそういうわけか。
告白される頻度が下がっていたのは、この男が何かと手を回していたからかと頭の隅で理解した。
しながら、噛みついたまま熱のこもった眼差しでこちらを見上げる番犬に、せめて飼い主らしくあろうと、私は見慣れた帽子にチョップを繰り出した。
これだから躾のなっていない犬は困る。
高校生が大人ぶって、意味を知らずに愛の言葉を平気で口にする。
恋愛映画の見すぎなんじゃないのかとさえ思う。
「いっぺん川に飛び込んで頭冷やしたら」
しつこいのよ貴方、と渡されたプレゼントを丁重にお返しすれば、相手はくしゃりと顔を歪めて、罵声を飛ばしながら走り去っていった。
取り残されたプレゼントは軽い音を立てて地面へ落下し、土草に塗れてしまった。
中身を確認する気にもならない。
というか、開けてしまえばそれは告白にOKを出したことになりそうだから、ここは触らぬ箱に祟りなし、そっとしておくのがベストだろう。
深いため息を吐いた。
不快だ。
彼とは深い付き合いをしたわけでも、何か接点があったわけでもない、なんてことはないただの同級生だというだけなのに。
どうしてあそこまで簡単に愛を囁けるのか、てんで理解することができなかった。
生まれ持った自分の容姿だけはどうにもならない。
周りの女子からのやっかみをもたらすし、異性が相手でもすぐこれだ。
美形だから得をすると思ったら大間違いである。
誰にだって損をすることくらいあるのに、誰もそれを理解してくれない。
頻度は下がってきても、それでも時たま呼び出されることに、私は苛立ちを覚え始めていた。
「また振ったのか」
「また見てたのね」
空にした煙草の箱をくしゃりと握り潰しながら、その男はやって来た。
一連の流れを影から見ていたに違いない。
のらりくらりと歩み寄ってくるそいつ、空条承太郎という男子生徒はその腕っ節の強さから、そこいらの男子生徒から恐れられ、女子生徒からは熱烈な視線を送られる、そういう存在だ。
知る人ぞ知る有名人。
これまでいったいいくつの告白をその身に受けてきたのかは想像がつかない、というか興味が沸いてこない。
だが、一度も女子と親しそうに歩いている姿を見かけたことがないので、きっと一度も受けていないのだとは思う。
「これで何回目になるのかしら。悪趣味だからやめてって、この間、言ったばかりよね?」
「さあな。元々ここは俺のサボりスポットなんで、ね。そこにたまたま居合わせただけの話だ」
「ウソばっかり」
承太郎が煙草に火を点けると、白い煙が狼煙のように上がった。
彼の節くれだった指のせいで、煙草が小枝に見えてくる。
「はあ・・・・・・お願いだから、プライベートに干渉してくるのをやめてちょうだい。あまりいい気分じゃないのよ、分かるでしょ。・・・というか、いつもどうやって嗅ぎつけてくるわけ?」
「勘」
即答だった。
「その勘をもっと違うところに活用しなさい。テストとか、他に色々あるでしょ」
「成績なら問題ない。なんならお前より上だ」
「こ、こいつゥ・・・」
イケメンが言うから余計に憎たらしさが増すというものだ。
口角と握りこぶしがピクピクするのを抑えて、私は腕組みをして後輩を見下ろした。
実際は私が承太郎に見下ろされている側なのだけど、相手の身長がバカみたいに高いからそれはできないので、せめて気持ちだけでも上に立っていたい。
でないと威厳がなくなってしまう。
「先輩に生意気な口を叩くとは、感心しないねえ。その辺のワンコの方が、よっぽど可愛げがあるわ」
「なってやってるだろ」
「何に」
「犬に」
「は?」
は?としか答えようがなかった。
いつ犬になったの。
耳と尻尾が生えているわけでなし、いたって普通の、いや普通じゃなかった、改造制服に身を包んだ後輩からは、犬の要素など全く見受けられない。
意味が分からなくて、数秒考えてもやっぱり分からなくて、承太郎の顔を見れば、「まだ気がつかないのか?」と涼しげに、咥えていた煙草を地面に落とした。
落ちていく煙草が靴先で磨り潰されるのを見守っていると、それを終えた足がこちらへ向かってきて、あっという間に距離を詰められた。
足が長いと歩くのも速くていいな、なんて考える間に、承太郎は私の手首を掴むと。
「てめーの番犬に、だ」
がじ、と噛みついた。
なるほどそういうわけか。
告白される頻度が下がっていたのは、この男が何かと手を回していたからかと頭の隅で理解した。
しながら、噛みついたまま熱のこもった眼差しでこちらを見上げる番犬に、せめて飼い主らしくあろうと、私は見慣れた帽子にチョップを繰り出した。
これだから躾のなっていない犬は困る。