三部・承太郎
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顔がいい。
その一言に尽きる隣の大男は、逃がすまいとでもいう風に自慢の長い足を私の足に絡めたまま動かない。
足を絡めているということは、彼との距離も相当近いわけで。
体格のいい彼の重みに負けたソファの沈みに、下半身の自由が利かない私はバランスをとることができず、彼に自然と身を預ける形になっている。
互いの呼吸音どころか、心臓の音すら聞こえてきそうなほど密着しているのに、ポーカーフェイスを気取っていられる承太郎はやはり策士だ。
すす、と彼のつま先が私の足首を掠めたので、くすぐったさに身をよじった。
私を逃げられないようにして、その反応を楽しもうという魂胆なら既に見抜いている、つもり、だ。
にしても、表情がちっとも変わらなさ過ぎやしないだろうか。
会話もしないし、触れてもこないし(足はがっちりガードされてるけど)静かにタバコの煙をくゆらせるだけの彼が実際は何を考えているのか、てっとり早く問いかけてしまいたい。
しまいたいのに、この沈黙を破ったら何かが起こりそうな予感がして、行動に移せないでいる。
私はほんの少し顔を横に向けて、気づかれないよう承太郎を盗み見た。
・・・・・・それにしてもこの男、本当に顔がいいな。
「実は彫刻から生まれました」と言われても納得してしまいそうだ。
それくらいに非の打ち所がないものだから、ニッポン凡人代表一女子の私から、いや、周囲の女子高生からすればまさに高嶺の花。
月とスッポン、ミジンコとハリウッド男優。
私なんて、そこいらに無尽蔵にいる赤の他人と変わらないだろうに。
それでも承太郎が私の傍に来てくれる理由は、まあ、何だろう。
ペットショップの猫を構いに来るような、たまの暇つぶしができる都合のいいオモチャとでも思われているんだろうと、そう勝手に解釈している。
だって。「恋人になろう」とか、「好きだ」とか、「愛してる」だとか、甘ったるい言葉が彼の口から出てきたことがないのだから、こんな考え方になっても仕方がないと思わない?
要するにからかわれているのだ。
「承太郎、いいかげんに離して」
この体勢にもそろそろ疲れてきたので、もぞもぞと両足を動かして脱出を試みると、承太郎が、ふ、と口角を上げた。
「いいのか?お前はそれでも」
「いいって。足が疲れてるんだから・・・あと、そうやってからかうのもやめ、て」
「イサミ」
承太郎がゆったりとした動作で煙草を吸うと、ふーーーっと、深呼吸をするみたいに煙を私の顔に向けて吐き出した。
嗅ぎ慣れたいつもの臭いをダイレクトに受けて、嗅覚が麻痺しそうだ。
「けほっ、げほ!何するのよ、急に」
「冗談じゃねえ」
煙たさに涙目になりながら手の平で煙を振り払っていると、承太郎がその手を引っつかんで顔を寄せてきた。
今までに経験したことのない近すぎる距離に、ぎょっとした私は、自身の腰に分厚くて大きな手が回っていることにやっと気がついた。
「何とも思わない女に、足を絡めたりする俺だと思うか?天然なんてガラじゃねーだろ、てめーは。なあ」
どうなんだ、と詰め寄るエメラルドの瞳に気圧され、体はじりじりと後退し、終いにはソファの端っこまで追い詰められてしまった。
彼の長い足が、男らしい掌が、瞳が、声が私を捕えて離さない。
「イサミ」
承太郎が空いている右手の親指で私の目尻にある涙を拭った。
「俺はどうなっても知らんぞ」
その一言に尽きる隣の大男は、逃がすまいとでもいう風に自慢の長い足を私の足に絡めたまま動かない。
足を絡めているということは、彼との距離も相当近いわけで。
体格のいい彼の重みに負けたソファの沈みに、下半身の自由が利かない私はバランスをとることができず、彼に自然と身を預ける形になっている。
互いの呼吸音どころか、心臓の音すら聞こえてきそうなほど密着しているのに、ポーカーフェイスを気取っていられる承太郎はやはり策士だ。
すす、と彼のつま先が私の足首を掠めたので、くすぐったさに身をよじった。
私を逃げられないようにして、その反応を楽しもうという魂胆なら既に見抜いている、つもり、だ。
にしても、表情がちっとも変わらなさ過ぎやしないだろうか。
会話もしないし、触れてもこないし(足はがっちりガードされてるけど)静かにタバコの煙をくゆらせるだけの彼が実際は何を考えているのか、てっとり早く問いかけてしまいたい。
しまいたいのに、この沈黙を破ったら何かが起こりそうな予感がして、行動に移せないでいる。
私はほんの少し顔を横に向けて、気づかれないよう承太郎を盗み見た。
・・・・・・それにしてもこの男、本当に顔がいいな。
「実は彫刻から生まれました」と言われても納得してしまいそうだ。
それくらいに非の打ち所がないものだから、ニッポン凡人代表一女子の私から、いや、周囲の女子高生からすればまさに高嶺の花。
月とスッポン、ミジンコとハリウッド男優。
私なんて、そこいらに無尽蔵にいる赤の他人と変わらないだろうに。
それでも承太郎が私の傍に来てくれる理由は、まあ、何だろう。
ペットショップの猫を構いに来るような、たまの暇つぶしができる都合のいいオモチャとでも思われているんだろうと、そう勝手に解釈している。
だって。「恋人になろう」とか、「好きだ」とか、「愛してる」だとか、甘ったるい言葉が彼の口から出てきたことがないのだから、こんな考え方になっても仕方がないと思わない?
要するにからかわれているのだ。
「承太郎、いいかげんに離して」
この体勢にもそろそろ疲れてきたので、もぞもぞと両足を動かして脱出を試みると、承太郎が、ふ、と口角を上げた。
「いいのか?お前はそれでも」
「いいって。足が疲れてるんだから・・・あと、そうやってからかうのもやめ、て」
「イサミ」
承太郎がゆったりとした動作で煙草を吸うと、ふーーーっと、深呼吸をするみたいに煙を私の顔に向けて吐き出した。
嗅ぎ慣れたいつもの臭いをダイレクトに受けて、嗅覚が麻痺しそうだ。
「けほっ、げほ!何するのよ、急に」
「冗談じゃねえ」
煙たさに涙目になりながら手の平で煙を振り払っていると、承太郎がその手を引っつかんで顔を寄せてきた。
今までに経験したことのない近すぎる距離に、ぎょっとした私は、自身の腰に分厚くて大きな手が回っていることにやっと気がついた。
「何とも思わない女に、足を絡めたりする俺だと思うか?天然なんてガラじゃねーだろ、てめーは。なあ」
どうなんだ、と詰め寄るエメラルドの瞳に気圧され、体はじりじりと後退し、終いにはソファの端っこまで追い詰められてしまった。
彼の長い足が、男らしい掌が、瞳が、声が私を捕えて離さない。
「イサミ」
承太郎が空いている右手の親指で私の目尻にある涙を拭った。
「俺はどうなっても知らんぞ」
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