一部
アリシア
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今日は、とんでもない記念日か何かなのだろうか。
突然の展開に頭がついてこない。
今だってそうだ、気持ちが焦ってしまって口が上手く回らないでいる。
だってまさか、さっき出会ったばかりの、それも素っ気ない対応をしてしまった男の子がこの屋敷の住人だったなんて、誰が予想できただろう。
おまけに彼は私の名前を知っていた。
喫茶店でたまたま耳にしたのだろうか。
いや、私がこの屋敷へ来ることを、あらかじめ親から聞いて知っていたのかもしれない。
その線が濃厚だ。
でもその場合、顔は知らないはずだから・・・なんというか、よくできすぎた偶然だ。
いずれにせよ、こういったことは初めてで、靴の裏から根っこが生えたみたいにその場で立ち尽くすしかできないでいた。
そんな私の気持ちを他所に、彼は長い階段を降りきると、私の前まで来て立ち止まった。
「もしかして君が、今日からここで働くっていう子かい?」
「え、ええ・・・」
曖昧な返事で頷く。
「そっか!どこかで聞いたことのある名前だと思ってたんだ。まさか君のことだったとはね。・・・・・・あっ」
彼は、はっと表情を変えた。
「えっと、さっきはごめんよ、急に声をかけたりして。あんまり美味しそうにスコーンを食べていたから、気になって、つい・・・ね」
先程とはと打って変わって、歯切れの悪くなった口調に、気まずい気持ちが彼の中にもあるのだと気がついた。
彼は後頭部を撫ぜながら、視線をそわそわさ迷わせたあとで控えめにはにかんだ。
しかし、しかしだ。
喫茶店でスコーンを頬張っていた姿を見られていたことを第三者から再認識させられた側としては、気持ち的に込み上げてくるものがあった。
そう、羞恥心である。
自分でも熱が一気に頬へ集中していくのが分かった。
紅茶で潤してきたはずの口の中は、とっくにカラカラになっていた。
「・・・先ほどは、見苦しいところを・・・・・・。失礼いたしました・・・」
なんてことだ、なんてことだ、やってしまった。
穴があったら飛び込んでしまいたい、むしろ埋めて欲しい、それぐらいに後悔している。
食い意地を張った無愛想な女。
これからお世話になる人を相手に、そんな第一印象を与えてしまったに違いない。
くう、と情けなさからか、目の前の彼から逃げるように、顔から足元へと視線をずらしてしまった。
行き場のない気持ちを発散させる術を持たない今は、ひたすらこの空気に耐えるしかない。
「いや」
赤面する私を見かねてか、彼はやや早口に述べ始める。
「見ていて気持ちが良かったんだよ。夕飯前だし、本当は控えなくてはならないのだけど・・・僕もあの後、こっそりスコーンを頼んだくらいさ。うん」
「それは」
空気を読み、上辺だけでも喜んでみせるべきだろうか、微妙なところである。
だけど、どうも不安げな表情から察するに、彼なりのフォローのつもりらしい。
それがなんだかおかしくて、やや間を空けてから、私は思わず噴出してしまった。
彼の方も、場の空気が好転したことに気を良くしたようだ。
「僕はジョナサン・ジョースター。みんな、ジョジョって呼んでるよ・・・これからよろしく」
「このたび、父の紹介により、ジョースター家にお仕えすることとなりました・・・・・・アリシア・フェリシスタスといいます。どうぞ、よろしくお願いします」
お仕えするなんて、今まで生きてきた中で使ったことがない不慣れな言葉だったから、口に出すときは躊躇した。
動揺を悟られないように、差し出された右手をそっと握り返す。
年は近いと聞いていたのに、やはり性差からくるのだろう、彼、ジョナサンの手の平は私と比べて一回りも大きかった。
父ほどでもない、それでもがっしりとした手だ。
「あのとき一緒にいた男の人は君の父親かい?優しそうな顔をしている人だった」
「ありがとうございます」
そういえば、あれからしばらく経つというのに戻ってこない彼女はいま、何処にいるのだろう。
我侭を言える立場ではないのだけど、なるべく早く戻ってきてくれますように。
ああ、目の前の少年が眩しい。
突然の展開に頭がついてこない。
今だってそうだ、気持ちが焦ってしまって口が上手く回らないでいる。
だってまさか、さっき出会ったばかりの、それも素っ気ない対応をしてしまった男の子がこの屋敷の住人だったなんて、誰が予想できただろう。
おまけに彼は私の名前を知っていた。
喫茶店でたまたま耳にしたのだろうか。
いや、私がこの屋敷へ来ることを、あらかじめ親から聞いて知っていたのかもしれない。
その線が濃厚だ。
でもその場合、顔は知らないはずだから・・・なんというか、よくできすぎた偶然だ。
いずれにせよ、こういったことは初めてで、靴の裏から根っこが生えたみたいにその場で立ち尽くすしかできないでいた。
そんな私の気持ちを他所に、彼は長い階段を降りきると、私の前まで来て立ち止まった。
「もしかして君が、今日からここで働くっていう子かい?」
「え、ええ・・・」
曖昧な返事で頷く。
「そっか!どこかで聞いたことのある名前だと思ってたんだ。まさか君のことだったとはね。・・・・・・あっ」
彼は、はっと表情を変えた。
「えっと、さっきはごめんよ、急に声をかけたりして。あんまり美味しそうにスコーンを食べていたから、気になって、つい・・・ね」
先程とはと打って変わって、歯切れの悪くなった口調に、気まずい気持ちが彼の中にもあるのだと気がついた。
彼は後頭部を撫ぜながら、視線をそわそわさ迷わせたあとで控えめにはにかんだ。
しかし、しかしだ。
喫茶店でスコーンを頬張っていた姿を見られていたことを第三者から再認識させられた側としては、気持ち的に込み上げてくるものがあった。
そう、羞恥心である。
自分でも熱が一気に頬へ集中していくのが分かった。
紅茶で潤してきたはずの口の中は、とっくにカラカラになっていた。
「・・・先ほどは、見苦しいところを・・・・・・。失礼いたしました・・・」
なんてことだ、なんてことだ、やってしまった。
穴があったら飛び込んでしまいたい、むしろ埋めて欲しい、それぐらいに後悔している。
食い意地を張った無愛想な女。
これからお世話になる人を相手に、そんな第一印象を与えてしまったに違いない。
くう、と情けなさからか、目の前の彼から逃げるように、顔から足元へと視線をずらしてしまった。
行き場のない気持ちを発散させる術を持たない今は、ひたすらこの空気に耐えるしかない。
「いや」
赤面する私を見かねてか、彼はやや早口に述べ始める。
「見ていて気持ちが良かったんだよ。夕飯前だし、本当は控えなくてはならないのだけど・・・僕もあの後、こっそりスコーンを頼んだくらいさ。うん」
「それは」
空気を読み、上辺だけでも喜んでみせるべきだろうか、微妙なところである。
だけど、どうも不安げな表情から察するに、彼なりのフォローのつもりらしい。
それがなんだかおかしくて、やや間を空けてから、私は思わず噴出してしまった。
彼の方も、場の空気が好転したことに気を良くしたようだ。
「僕はジョナサン・ジョースター。みんな、ジョジョって呼んでるよ・・・これからよろしく」
「このたび、父の紹介により、ジョースター家にお仕えすることとなりました・・・・・・アリシア・フェリシスタスといいます。どうぞ、よろしくお願いします」
お仕えするなんて、今まで生きてきた中で使ったことがない不慣れな言葉だったから、口に出すときは躊躇した。
動揺を悟られないように、差し出された右手をそっと握り返す。
年は近いと聞いていたのに、やはり性差からくるのだろう、彼、ジョナサンの手の平は私と比べて一回りも大きかった。
父ほどでもない、それでもがっしりとした手だ。
「あのとき一緒にいた男の人は君の父親かい?優しそうな顔をしている人だった」
「ありがとうございます」
そういえば、あれからしばらく経つというのに戻ってこない彼女はいま、何処にいるのだろう。
我侭を言える立場ではないのだけど、なるべく早く戻ってきてくれますように。
ああ、目の前の少年が眩しい。