一部
アリシア
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アリシア・フェリシスタスの足取りは十分すぎるほどに語った。
厳密に言えば、全てを語りきったわけではないけれど、むしろこれから始まるのだけれど、今はこれくらいで充分だと思うので、過去の話はひとまず終わり。
だから今回は結論から述べることにする。
私はとある屋敷にメイドとして仕えることになりました、以上。
ボロボロなカバンを地面に転がしたまま、だんだん小さくなっていく馬車の背を見送りながら考える。
娘をこの屋敷へ送り届ける役目を果たした父は、たぶん、村へ帰るのだろう。
「強く生きるんだ、アリシア。決して諦めてはいけないよ」
父が去り際に残した言葉が胸に引っかかって取れない。
「名残惜しい気持ちは分かりますが、いつまでもそうしていても何も始まりませんよ」
頭上から降ってきた高い声が私の意識を引き戻した。
振り返ると、私たちの出迎えをしてくれた女性――年は30代ほどだろうか、貫禄のあるメイドだ――が、やや鋭い目つきで私を見ていた。
目力に気圧され、拾い上げたカバンを抱く腕に無意識につい力がこもる。
「着いていらっしゃい。これから貴方が担当する仕事についてお話します」
きびきびとした動作で屋敷の敷居へと足を進める彼女の雰囲気が、時間を無駄にするなと暗に示している。
戻るという選択肢が残っていない私は、名前も知らない彼女のあとを追いかけるしかない。
場は変わり屋敷の大広間。
「さあ、ここで待っていなさい。私は他のメイドと執事たちを呼んできましょう」
そう言うなり、メイドは屋敷の奥へ姿を消した。
少しの自分だけの空間にここぞとばかりに気を抜く。
まったく初めての環境というだけで、こうも緊張するものなのか。
はっきいり言って落ち着かない。
こじんまりした我が家をいったいいくつ並べれば、この屋敷と同じ広さになるのだろう。
「・・・・・・・・・」
気晴らしにキョロキョロと視線を動かしてみる。
壁、床、天井に吊り下がるシャンデリアから置時計に至るまで、造りが精巧なものばかりだ。
これらが全て高価なものなのか。
考えてみて、さらに居心地が一気に悪くなった。
自分が歩いてきた方向を振り向いて、ピカピカな大理石が汚れていないか、こっそり確認したくらいだ。
と、ここで、階段の傍に立っている女神像が視界に入った。
傍に寄ってまじまじと眺めてみる。
なかなかの大きさのそれは、高い台座の上に乗せてあるためより立派に見える。
子どもの私からすると、さながら一本の木のように大きく、頭を傾けて見上げなければ全貌を知ることができない。
だからかなるほど、しゃんと背筋を伸ばして聖杯を掲げる姿は「秀麗」という言葉がしっくりきた。
彼女は屋敷が建てられてからずっと、ここに住む人たちを見守ってきたのだろう。
「あっ!」
ここぞとばかりに女神像に見入っていると、傍の階段から誰かが降りてきて、私の姿を確認するなり駆け寄ってきた。
「君は、さっき喫茶店にいた・・・」
半ば詰め寄るかたちで距離を縮めてくるその人は、何を隠そう、私が喫茶店で無視を決め込んできたあの少年だった。
やってしまった。
なんてことだ。
どうしようの前にどうしようもない過去に、私は口元が引きつるのを隠せなかった。
それでも彼はにっこにこと私の顔を見て言うのだ。
「君ともう一度話がしたいと思っていたところなんだ。会えて嬉しいよ!」
裏表を感じさせない、心からの笑顔が眩しかった。
厳密に言えば、全てを語りきったわけではないけれど、むしろこれから始まるのだけれど、今はこれくらいで充分だと思うので、過去の話はひとまず終わり。
だから今回は結論から述べることにする。
私はとある屋敷にメイドとして仕えることになりました、以上。
ボロボロなカバンを地面に転がしたまま、だんだん小さくなっていく馬車の背を見送りながら考える。
娘をこの屋敷へ送り届ける役目を果たした父は、たぶん、村へ帰るのだろう。
「強く生きるんだ、アリシア。決して諦めてはいけないよ」
父が去り際に残した言葉が胸に引っかかって取れない。
「名残惜しい気持ちは分かりますが、いつまでもそうしていても何も始まりませんよ」
頭上から降ってきた高い声が私の意識を引き戻した。
振り返ると、私たちの出迎えをしてくれた女性――年は30代ほどだろうか、貫禄のあるメイドだ――が、やや鋭い目つきで私を見ていた。
目力に気圧され、拾い上げたカバンを抱く腕に無意識につい力がこもる。
「着いていらっしゃい。これから貴方が担当する仕事についてお話します」
きびきびとした動作で屋敷の敷居へと足を進める彼女の雰囲気が、時間を無駄にするなと暗に示している。
戻るという選択肢が残っていない私は、名前も知らない彼女のあとを追いかけるしかない。
場は変わり屋敷の大広間。
「さあ、ここで待っていなさい。私は他のメイドと執事たちを呼んできましょう」
そう言うなり、メイドは屋敷の奥へ姿を消した。
少しの自分だけの空間にここぞとばかりに気を抜く。
まったく初めての環境というだけで、こうも緊張するものなのか。
はっきいり言って落ち着かない。
こじんまりした我が家をいったいいくつ並べれば、この屋敷と同じ広さになるのだろう。
「・・・・・・・・・」
気晴らしにキョロキョロと視線を動かしてみる。
壁、床、天井に吊り下がるシャンデリアから置時計に至るまで、造りが精巧なものばかりだ。
これらが全て高価なものなのか。
考えてみて、さらに居心地が一気に悪くなった。
自分が歩いてきた方向を振り向いて、ピカピカな大理石が汚れていないか、こっそり確認したくらいだ。
と、ここで、階段の傍に立っている女神像が視界に入った。
傍に寄ってまじまじと眺めてみる。
なかなかの大きさのそれは、高い台座の上に乗せてあるためより立派に見える。
子どもの私からすると、さながら一本の木のように大きく、頭を傾けて見上げなければ全貌を知ることができない。
だからかなるほど、しゃんと背筋を伸ばして聖杯を掲げる姿は「秀麗」という言葉がしっくりきた。
彼女は屋敷が建てられてからずっと、ここに住む人たちを見守ってきたのだろう。
「あっ!」
ここぞとばかりに女神像に見入っていると、傍の階段から誰かが降りてきて、私の姿を確認するなり駆け寄ってきた。
「君は、さっき喫茶店にいた・・・」
半ば詰め寄るかたちで距離を縮めてくるその人は、何を隠そう、私が喫茶店で無視を決め込んできたあの少年だった。
やってしまった。
なんてことだ。
どうしようの前にどうしようもない過去に、私は口元が引きつるのを隠せなかった。
それでも彼はにっこにこと私の顔を見て言うのだ。
「君ともう一度話がしたいと思っていたところなんだ。会えて嬉しいよ!」
裏表を感じさせない、心からの笑顔が眩しかった。