一部
アリシア
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思い出したくもない結果になった。
母は倒れてから自宅に運び込まれたのち、2日苦しんでから息を引き取った。
原因は・・・知らない。
聞きたくなかった。
仮に聞いたところで、彼女の命が消えた事実に変わりはない。
強いて述べるなら、きっと流行り病だったのだろう。
翌日、母は、村の奥まったところにある墓地へ埋葬された。
次第に土で埋もれて見えなくなっていく棺桶は、実は空っぽで、この葬儀だって嘘っぱちで。
自宅に帰れば母が微笑んでいてくれたら、どんなに嬉しいか。
出来上がったばかりの、簡素な墓石の表面を人差し指で撫ぜる。
涙は不思議と出てこなかった。
まるで何度も経験してきたかのような、妙な慣れが心のどこかにあった。
葬儀を終えた私は、父と今後の方針について話し合った。
母がいなくなってしまったので、農業だけで生きていくのはとてもじゃないが難しいことらしい。
足りない分は私が裁縫なり靴磨きなりをして稼がなければならない。
私は母の跡を継ぐ決意をした
――もし、お母さんがいなくなったら、お父さんをよろしくね。
母が残した遺言のこともある。
けれどそれ以上に、妻を失い、悲しむあの人の背を見ているのが辛かった。
だから私なりに出来ることをしよう、そう決めた。
女が畑仕事をすることはあまり好まれない世界だけれど、生きるためなら、がんばれるよね・・・お母さん。
母が天国へ旅立ってから2年の月日が経った。
相も変わらず父は尊敬できる人物でい続けている。
対する私は大きく変わった。
具体的には見た目がだ。
年相応に身長が伸びて、顔立ちもちょっと大人びてきたように思う。
家事に内職、家畜の世話だって一人でできるし、重たい野菜もそれなりに抱えられるようになった。
おかげで体力もついて一石二鳥だ。
ただ、週に一回、畑で採れた野菜を売りに町へ行くことだけは、まだまだ任せてもらえそうにない。
私としては、子ども扱いはしてほしくないのに。
文句をつければ「我侭を言うもんじゃあない」と、額を指ではじかれた。
一人娘のことを考えれば、父親としては当然のことなのだろうけれど、それでも一人前として認められないことに不満をこぼさずにいられなかった。
そして明日はその町へ売り出しに行く日。
汁の多い豆のスープと、木苺のジャムを塗った固いパンだけのささやかな夕食をすませ、私は明日の準備に追われていた。
村と町はかなり離れているから、徒歩でいくには時間がかかりすぎる。
だからいつも町へ仕事に向かう御者に頼み、乗せて行ってもらわなければならない。
私は野菜をカゴへ詰め込みながら、町に着いたら、こっそり貯めていた小遣いで菓子でも買おうか、なんて考えていた。