一部
アリシア
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ジョースター邸に仕えて一週間が経った。
この短い期間で沢山の経験をした。
わたしが家女中、いわゆるハウスメイドとしてジョースター邸で働くことになってからというもの、農家の娘から一転、目まぐるしい環境の変化に脳味噌がどうにかなりそうだ。
忙しすぎて、口よりまず手を動かさないと仕事が間に合わない。
動物や植物と違い、言葉を話す人間を相手にしての仕事が含まれるおかげで、人見知りをする傾向があるわたしにとっては苦難の道のりだ。
それでもこの仕事を続けられているのは、ミセス・バセットの指導はもちろんのこと、同僚でもある先輩メイドがサポートしてくれているおかげだろう。
先輩メイドというのは、わたしと同じく屋根裏部屋に住む女性のことで、未熟なわたしを支えてくれる、頼りになる先輩のことだ。
しかし、彼女の紹介をするのは、今回は割愛させて頂きたい。
近いうちに語る時がきっとくるだろうから。
「キャッ!」
「だーれだ!」
広すぎる玄関のホコリを箒でせっせと外へ掃き出していたら、突然、背後から両目を覆われて驚いた。
光を遮られて真っ暗になった視界から抜け出そうと首を左右に捻ってみるが、意地悪な手の持ち主は、わたしの動きに合わせて自身の腕を動かして退こうとしない。
「もう・・・」
振り向かなくても誰の手かは分かっているので、声に出してその人の名前を呼んだ。
「ジョジョ様!びっくりさせるのはよして下さいと、あれほど言いましたのに!」
「へへへ・・・ごめんよ、[#da=1#]を見ているとつい、からかいたくなってしまうんだ」
「そういうのは、好きな女の子ができてからにして下さい!」
わたしは瞼の上に被さった彼の手の平に自身の手を添えて、外すようにそっと促した。
「おかげで、わたしは心臓がいくつあっても足りないくらいなんですから」
「女の子か・・・まあ、その内できるかもしれないけどさ・・・・・・」
やっと離れた手の平に、視界が明るくなる。
大きな窓から眩い陽光がさんさんと降り注いでいるのが眩しくて目を細めた。
両手でしっかりと箒を握り締めて掃除の体勢に入ろうとしたところで、ジョジョ様がどことなく悩んだ様子で、「うーん」と唸った。
どういうわけか、わたしを見つめたまま、何かを言いたそうな表情をしている。
いったい、どうしたというのだろう。
「けど、そうなったら今度はアリシアが寂しくならないかい?」
「・・・わたしが、ですか?」
箒を握った手から力が抜けた。
思いがけない問いにきょとんとして、足元で転がっていたホコリを憎らしげに睨みつけるのを中断し、視線をジョジョ様に戻した。
「アリシアはここに来たばかりで知り合いが少ないだろう?だから心配なんだよ。・・・まあ、君が寂しくないっていうんなら話は別だけどね」
「ジョジョ様・・・」
先程の思い悩んだ様子が、わたしのことを案じてくれていたからだと知って、胸の辺りがこそばゆくなった。
わたしとそう年の変わらない少年だというのに、彼の持つ懐の深さには驚かされるばかりだ。
ただ同時に、自分がいかにちっぽけな人間かということを思い知らされるので、心の中で恥ずかしく思う時もあるのだけれど。
「わたしなら平気です。父とはあれから会えていませんけれど、みなさんがいますから、毎日が楽しいです」
「本当に?」
「はい、本当に」
「そっか・・・。アリシアは強いんだね」
「そうでしょうか?」
ただ強がっているだけですよ、と心の中で付け足した。
本当のことを言ってしまったら、周りの人たちを困らせるだけだろうから。
それにしても同年代の男の子といえば、いつも泥まみれのやんちゃ坊主で、いじめっこというイメージで定着していたのに、ジョジョ様を見ていると、それらの泥臭い印象が払拭されていくのが自分でも分かった。
それは、彼が本当の紳士を目指しているからだという理由もあるのだろうけれど、少なくとも、わたしにはジョジョ様が輝いて見えた。
さあ、そろそろ掃除を再開しなければ。
と思ったところで、ジョジョ様が、「でも」と呟いた。
まだ話したいことがあるのなら仕方がない。
わたしは黙って言葉の続きを待つことにした。
「アリシアは、ぼくより一つ下だっていうじゃあないか。なのに、ずっと働いてばかりいて、遊びに出かける時間がちっともないじゃないか。ダニーだって傍に君がいなくて、きっと寂しがっていると思うな」
顎に人差し指を添えて、左上の何もない空間を見つめながら、ジョジョ様は話を続ける。
「だから・・・ほら!外はいい天気だし、たまに遊びに行くくらいなら、父さんならきっと許してくれるんじゃないかな?」
「・・・ジョジョ様?」
「僕が寂しいんだよ」
訝しげに名前を呼べば、拗ねた口調で小さな紳士は、根負けしたといった風に本音を口にした。
なるほど、そういうことだったのか。
彼が伝えたかったことを理解して、納得した。
構って欲しい相手に遊んで貰えなくて、ジョジョ様は寂しい思いをしていたのだそうだ。
ずいぶんと可愛らしい本音を聞くことができたことに、彼との心の距離がちょっぴり狭まったような気がした。
素直に嬉しいと思う。
「あっ、もちろん、ダニーが寂しそうだっていうのも本当のことだからね!」
「あの子とも、遊んであげたいのは山々なのですが・・・」
わたしとしても、彼らに構ってあげたい気持ちはあることには、ある。
しかし、公私混同をしてはいけないと、ミセス・バセットから厳しく教えられているため、そのような瞳でいくら見つめられても、彼の誘いに、わたしは首をそう易々と縦に振ることはできないのだ。
「ですが、ジョジョ様。これがわたしのお仕事ですから」
「アリシア・・・」
ここはどうか分かって欲しい。
そういう意味を込めて遠まわしに伝えてみるも、あの寂しげな瞳が退くことはなく、逆にこちらが、下がった眉毛にうっかり母性をくすぐられそうになった。
自分だって子供なのに、母性と言うのは奇妙な感覚だが、こう、心に訴えてくるものがあるのだ。
ここで流されてはいけないと自身を戒めつつ、かといって、このままジョジョ様を放っておくわけにもいかず・・・。
結局、根負けしたのは、わたしの方だった。
この短い期間で沢山の経験をした。
わたしが家女中、いわゆるハウスメイドとしてジョースター邸で働くことになってからというもの、農家の娘から一転、目まぐるしい環境の変化に脳味噌がどうにかなりそうだ。
忙しすぎて、口よりまず手を動かさないと仕事が間に合わない。
動物や植物と違い、言葉を話す人間を相手にしての仕事が含まれるおかげで、人見知りをする傾向があるわたしにとっては苦難の道のりだ。
それでもこの仕事を続けられているのは、ミセス・バセットの指導はもちろんのこと、同僚でもある先輩メイドがサポートしてくれているおかげだろう。
先輩メイドというのは、わたしと同じく屋根裏部屋に住む女性のことで、未熟なわたしを支えてくれる、頼りになる先輩のことだ。
しかし、彼女の紹介をするのは、今回は割愛させて頂きたい。
近いうちに語る時がきっとくるだろうから。
「キャッ!」
「だーれだ!」
広すぎる玄関のホコリを箒でせっせと外へ掃き出していたら、突然、背後から両目を覆われて驚いた。
光を遮られて真っ暗になった視界から抜け出そうと首を左右に捻ってみるが、意地悪な手の持ち主は、わたしの動きに合わせて自身の腕を動かして退こうとしない。
「もう・・・」
振り向かなくても誰の手かは分かっているので、声に出してその人の名前を呼んだ。
「ジョジョ様!びっくりさせるのはよして下さいと、あれほど言いましたのに!」
「へへへ・・・ごめんよ、[#da=1#]を見ているとつい、からかいたくなってしまうんだ」
「そういうのは、好きな女の子ができてからにして下さい!」
わたしは瞼の上に被さった彼の手の平に自身の手を添えて、外すようにそっと促した。
「おかげで、わたしは心臓がいくつあっても足りないくらいなんですから」
「女の子か・・・まあ、その内できるかもしれないけどさ・・・・・・」
やっと離れた手の平に、視界が明るくなる。
大きな窓から眩い陽光がさんさんと降り注いでいるのが眩しくて目を細めた。
両手でしっかりと箒を握り締めて掃除の体勢に入ろうとしたところで、ジョジョ様がどことなく悩んだ様子で、「うーん」と唸った。
どういうわけか、わたしを見つめたまま、何かを言いたそうな表情をしている。
いったい、どうしたというのだろう。
「けど、そうなったら今度はアリシアが寂しくならないかい?」
「・・・わたしが、ですか?」
箒を握った手から力が抜けた。
思いがけない問いにきょとんとして、足元で転がっていたホコリを憎らしげに睨みつけるのを中断し、視線をジョジョ様に戻した。
「アリシアはここに来たばかりで知り合いが少ないだろう?だから心配なんだよ。・・・まあ、君が寂しくないっていうんなら話は別だけどね」
「ジョジョ様・・・」
先程の思い悩んだ様子が、わたしのことを案じてくれていたからだと知って、胸の辺りがこそばゆくなった。
わたしとそう年の変わらない少年だというのに、彼の持つ懐の深さには驚かされるばかりだ。
ただ同時に、自分がいかにちっぽけな人間かということを思い知らされるので、心の中で恥ずかしく思う時もあるのだけれど。
「わたしなら平気です。父とはあれから会えていませんけれど、みなさんがいますから、毎日が楽しいです」
「本当に?」
「はい、本当に」
「そっか・・・。アリシアは強いんだね」
「そうでしょうか?」
ただ強がっているだけですよ、と心の中で付け足した。
本当のことを言ってしまったら、周りの人たちを困らせるだけだろうから。
それにしても同年代の男の子といえば、いつも泥まみれのやんちゃ坊主で、いじめっこというイメージで定着していたのに、ジョジョ様を見ていると、それらの泥臭い印象が払拭されていくのが自分でも分かった。
それは、彼が本当の紳士を目指しているからだという理由もあるのだろうけれど、少なくとも、わたしにはジョジョ様が輝いて見えた。
さあ、そろそろ掃除を再開しなければ。
と思ったところで、ジョジョ様が、「でも」と呟いた。
まだ話したいことがあるのなら仕方がない。
わたしは黙って言葉の続きを待つことにした。
「アリシアは、ぼくより一つ下だっていうじゃあないか。なのに、ずっと働いてばかりいて、遊びに出かける時間がちっともないじゃないか。ダニーだって傍に君がいなくて、きっと寂しがっていると思うな」
顎に人差し指を添えて、左上の何もない空間を見つめながら、ジョジョ様は話を続ける。
「だから・・・ほら!外はいい天気だし、たまに遊びに行くくらいなら、父さんならきっと許してくれるんじゃないかな?」
「・・・ジョジョ様?」
「僕が寂しいんだよ」
訝しげに名前を呼べば、拗ねた口調で小さな紳士は、根負けしたといった風に本音を口にした。
なるほど、そういうことだったのか。
彼が伝えたかったことを理解して、納得した。
構って欲しい相手に遊んで貰えなくて、ジョジョ様は寂しい思いをしていたのだそうだ。
ずいぶんと可愛らしい本音を聞くことができたことに、彼との心の距離がちょっぴり狭まったような気がした。
素直に嬉しいと思う。
「あっ、もちろん、ダニーが寂しそうだっていうのも本当のことだからね!」
「あの子とも、遊んであげたいのは山々なのですが・・・」
わたしとしても、彼らに構ってあげたい気持ちはあることには、ある。
しかし、公私混同をしてはいけないと、ミセス・バセットから厳しく教えられているため、そのような瞳でいくら見つめられても、彼の誘いに、わたしは首をそう易々と縦に振ることはできないのだ。
「ですが、ジョジョ様。これがわたしのお仕事ですから」
「アリシア・・・」
ここはどうか分かって欲しい。
そういう意味を込めて遠まわしに伝えてみるも、あの寂しげな瞳が退くことはなく、逆にこちらが、下がった眉毛にうっかり母性をくすぐられそうになった。
自分だって子供なのに、母性と言うのは奇妙な感覚だが、こう、心に訴えてくるものがあるのだ。
ここで流されてはいけないと自身を戒めつつ、かといって、このままジョジョ様を放っておくわけにもいかず・・・。
結局、根負けしたのは、わたしの方だった。