みの恭
俺と電子レンジとみのりさん
みのりさんの作った飯はうまい。
本人は「冷蔵庫の残り物、ばーって入れただけだよ」と言うが、俺にはそうは思えない。
適当に作ってこんな旨い飯が作れるなら、俺にだってできるはずだ。
そんなことを考えながらみのりさんが作ってくれたチャーハンを食べていると
「そうだ! 昨日、道流さんに貰った冷凍餃子があったの忘れてたよ」
とみのりさんは突然立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。
「フライパン洗っちゃったし、電子レンジでいいかなぁ……。 あぁ、でも道流さんの餃子美味しいから……うーん」
「俺はレンジでもいいですよ。 円城寺さんの餃子、レンジでもうまいから」
考え込んでしまったみのりさんに声を掛ける。正直フライパンで焼いた方が美味しいのだが、俺の御茶碗のチャーハンが残り少なくなってきたので、手早そうな方を推してみた。チャーハンがあるというのに餃子と一緒に食べないのは勿体ない。
「そうだね、恭二、もう食べ終わっちゃうしね。 そうするよ」
パックから半分くらい餃子を取り出して、みのりさんがこちらを見て笑う。子供扱いされた気がして「そういうわけじゃないっすけど……」と小さく反論をした。
レンジの扉を開け餃子を入れ、扉を閉めてみのりさんがつまみを回す。電子レンジ特有のごおっという音が部屋に響いた。「ちょっとだけ待っててね」とみのりさんが言った気がした。
――チン
「……そうか。 これだったのか!」
程なくして、出来上がりの音が聞こえ、俺ははたと気が付いた。
「何? 突然どうしたの」
何ごと?という顔でみのりさんはレンジから餃子を取り出しテーブルへと運ぶ。
俺は今、長年の謎と遭遇し、嬉しくて笑いまでこみ上げてくる。
「みのりさん、チンって鳴る電子レンジ、本当にあったんですね!!すげぇ……」
「あー……、今はないもんねぇ……」
みのりさんが苦い顔をしていたがそんなことはどうでもいいくらいに、俺はチンとなる電子レンジが実在したことに感動していた。長年、俺は何故電子レンジはピーと鳴るのに「チンする」等と言うのか疑問を抱いていた。調べると昔は「チン」という音が出来上がりを知らせる音だということが分かったが、実物は見たことがなかったのだ。バイト時代、店長にチンしてと言われる度に「ピーだ、ピー」と心の中で思っていたが、漸く本物に出会えた。俺は嬉しくて仕方なかった。
「いや、まさか本物に出会えるとは思わなかった」
「俺は電子レンジでこんなに喜ぶ人がいるとは思わなかったよ。 恭二はしっかりしてるけど、そういう所は年相応だよね」
可愛い、とみのりさんにまた微笑まれ子供のようにはしゃいでしまった自分に恥ずかしくなった。
「だって、見たことなかったんだ。 いいだろ、別に」
「別に悪いなんて言ってないだろ? 可愛い恭二が見れて俺は嬉しかったよ」
はい、どうぞ。と、あまり上手ではない箸遣いで掴まれた餃子を口許に押し付けられた。
「ひただひまふ」
円城寺さんの餃子はやっぱりレンジでチンしても旨かった。
「チンって鳴るレンジって随分昔になくなったって聞いたけど、みのりさん、それいつから使ってるんだ?」
「うーん、そうだなぁ。結構年季入ってるのは確かだよ。前に住んでたところからそのまま持ってきたから」
「叔父さんの家、から……?」
「あぁ、うん。 そうだね」
みのりさんが寂しそうに笑った気がして、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、いたたまれない気持ちになる。
みのりさんの叔父さんは随分昔に亡くなったと聞いている。みのりさんの親代わりだった人。それ以外の詳しいことは知らないし、正直そこまで突っ込んで聞くつもりもないが、みのりさんにとって大切な人だということは知っている。
「昔ね、俺よく遊び回ってたからさ。 すごい遅い時間に帰ったりして。 叔父さん、いい人だったから夜遅くに帰っても大体何か作って食卓の上に置いておいてくれてさ。よくレンジでチンして食べてたの思い出した」
「そうだったんすね」
「そう。だから、これ壊れちゃったら、ちょっと寂しいなって思ってたところ」
もう何十年って使ってるから、逆に今使えるのが奇跡ってくらいかもしれないなぁ。とみのりさんは電子レンジを見ながら言う。そんな寂しそうな顔をさせるつもりじゃなかったのに……と少し後悔をした。
「みのりさん、もしも……もしもだけど、万が一壊れたら、俺が買うから。 チンってなるやつ、探せば絶対まだあるから、だから……」
「んー? どうして恭二くんが泣きそうな顔してるのかな? ごめんね、変な話しちゃったね」
っていうか、チンって鳴る奴は恭二が欲しいだけだろ?
そう笑いながら、ぽんぽんと頭を撫でられ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。あんなこと聞かなければよかった。
みのりさんは黙り込む俺に困ったような顔をしていたが、しばらくしてから餃子を頬張っていた。きっと、みのりさん本人にとっては気にするような話じゃなかったのだろうけど、きっかけを作ってしまっただけにバツが悪かった。
「恭二、餃子食べちゃうぞ~。ついでに恭二も食べるぞ」
「は?」
「道流さんとこの餃子、次いつ貰えるか分からないんだよ? いっぱい食べなきゃ勿体ないだろ」
気付いたら八個あったはずの餃子が残り三つになっていた。
「あんた、食べすぎだろ!!」
「恭二がぼけーっとしてるのが悪い」
「ちょっとはとっとけよ!!」
そう言うとみのりさんは笑いながら、また餃子をひとつ、あまり上手ではない箸遣いで口に運ぶ。
「おいっ、言ってるそばから……!!」
これ以上食べられないように、皿ごと自分の方に避難させる。俺、まだ一個しか食べてないぞ。大人気ないとはこういうことを言うのか。
「ごめん、だって餃子美味しくて」
「みのりさん、遠慮って言葉知ってます?」
「もちろん」
はぁ、と俺は深い溜息を吐き、残り二個になってしまった餃子を見つめる。
「大丈夫だよ、冷凍庫にまだ半分残ってるから」
「そういう問題じゃないだろ……」
そして少し冷めてしまった餃子を口に運ぶ。
「恭二、ありがとうね」
突然の言葉に餃子を咥えながら顔を上げる。
「もし壊れちゃったら、一緒に買いに行こっか」
「ん……」
まだ呑み込みきれないまま、俺はそう頷いた。
みのりさんの作った飯はうまい。
本人は「冷蔵庫の残り物、ばーって入れただけだよ」と言うが、俺にはそうは思えない。
適当に作ってこんな旨い飯が作れるなら、俺にだってできるはずだ。
そんなことを考えながらみのりさんが作ってくれたチャーハンを食べていると
「そうだ! 昨日、道流さんに貰った冷凍餃子があったの忘れてたよ」
とみのりさんは突然立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。
「フライパン洗っちゃったし、電子レンジでいいかなぁ……。 あぁ、でも道流さんの餃子美味しいから……うーん」
「俺はレンジでもいいですよ。 円城寺さんの餃子、レンジでもうまいから」
考え込んでしまったみのりさんに声を掛ける。正直フライパンで焼いた方が美味しいのだが、俺の御茶碗のチャーハンが残り少なくなってきたので、手早そうな方を推してみた。チャーハンがあるというのに餃子と一緒に食べないのは勿体ない。
「そうだね、恭二、もう食べ終わっちゃうしね。 そうするよ」
パックから半分くらい餃子を取り出して、みのりさんがこちらを見て笑う。子供扱いされた気がして「そういうわけじゃないっすけど……」と小さく反論をした。
レンジの扉を開け餃子を入れ、扉を閉めてみのりさんがつまみを回す。電子レンジ特有のごおっという音が部屋に響いた。「ちょっとだけ待っててね」とみのりさんが言った気がした。
――チン
「……そうか。 これだったのか!」
程なくして、出来上がりの音が聞こえ、俺ははたと気が付いた。
「何? 突然どうしたの」
何ごと?という顔でみのりさんはレンジから餃子を取り出しテーブルへと運ぶ。
俺は今、長年の謎と遭遇し、嬉しくて笑いまでこみ上げてくる。
「みのりさん、チンって鳴る電子レンジ、本当にあったんですね!!すげぇ……」
「あー……、今はないもんねぇ……」
みのりさんが苦い顔をしていたがそんなことはどうでもいいくらいに、俺はチンとなる電子レンジが実在したことに感動していた。長年、俺は何故電子レンジはピーと鳴るのに「チンする」等と言うのか疑問を抱いていた。調べると昔は「チン」という音が出来上がりを知らせる音だということが分かったが、実物は見たことがなかったのだ。バイト時代、店長にチンしてと言われる度に「ピーだ、ピー」と心の中で思っていたが、漸く本物に出会えた。俺は嬉しくて仕方なかった。
「いや、まさか本物に出会えるとは思わなかった」
「俺は電子レンジでこんなに喜ぶ人がいるとは思わなかったよ。 恭二はしっかりしてるけど、そういう所は年相応だよね」
可愛い、とみのりさんにまた微笑まれ子供のようにはしゃいでしまった自分に恥ずかしくなった。
「だって、見たことなかったんだ。 いいだろ、別に」
「別に悪いなんて言ってないだろ? 可愛い恭二が見れて俺は嬉しかったよ」
はい、どうぞ。と、あまり上手ではない箸遣いで掴まれた餃子を口許に押し付けられた。
「ひただひまふ」
円城寺さんの餃子はやっぱりレンジでチンしても旨かった。
「チンって鳴るレンジって随分昔になくなったって聞いたけど、みのりさん、それいつから使ってるんだ?」
「うーん、そうだなぁ。結構年季入ってるのは確かだよ。前に住んでたところからそのまま持ってきたから」
「叔父さんの家、から……?」
「あぁ、うん。 そうだね」
みのりさんが寂しそうに笑った気がして、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、いたたまれない気持ちになる。
みのりさんの叔父さんは随分昔に亡くなったと聞いている。みのりさんの親代わりだった人。それ以外の詳しいことは知らないし、正直そこまで突っ込んで聞くつもりもないが、みのりさんにとって大切な人だということは知っている。
「昔ね、俺よく遊び回ってたからさ。 すごい遅い時間に帰ったりして。 叔父さん、いい人だったから夜遅くに帰っても大体何か作って食卓の上に置いておいてくれてさ。よくレンジでチンして食べてたの思い出した」
「そうだったんすね」
「そう。だから、これ壊れちゃったら、ちょっと寂しいなって思ってたところ」
もう何十年って使ってるから、逆に今使えるのが奇跡ってくらいかもしれないなぁ。とみのりさんは電子レンジを見ながら言う。そんな寂しそうな顔をさせるつもりじゃなかったのに……と少し後悔をした。
「みのりさん、もしも……もしもだけど、万が一壊れたら、俺が買うから。 チンってなるやつ、探せば絶対まだあるから、だから……」
「んー? どうして恭二くんが泣きそうな顔してるのかな? ごめんね、変な話しちゃったね」
っていうか、チンって鳴る奴は恭二が欲しいだけだろ?
そう笑いながら、ぽんぽんと頭を撫でられ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。あんなこと聞かなければよかった。
みのりさんは黙り込む俺に困ったような顔をしていたが、しばらくしてから餃子を頬張っていた。きっと、みのりさん本人にとっては気にするような話じゃなかったのだろうけど、きっかけを作ってしまっただけにバツが悪かった。
「恭二、餃子食べちゃうぞ~。ついでに恭二も食べるぞ」
「は?」
「道流さんとこの餃子、次いつ貰えるか分からないんだよ? いっぱい食べなきゃ勿体ないだろ」
気付いたら八個あったはずの餃子が残り三つになっていた。
「あんた、食べすぎだろ!!」
「恭二がぼけーっとしてるのが悪い」
「ちょっとはとっとけよ!!」
そう言うとみのりさんは笑いながら、また餃子をひとつ、あまり上手ではない箸遣いで口に運ぶ。
「おいっ、言ってるそばから……!!」
これ以上食べられないように、皿ごと自分の方に避難させる。俺、まだ一個しか食べてないぞ。大人気ないとはこういうことを言うのか。
「ごめん、だって餃子美味しくて」
「みのりさん、遠慮って言葉知ってます?」
「もちろん」
はぁ、と俺は深い溜息を吐き、残り二個になってしまった餃子を見つめる。
「大丈夫だよ、冷凍庫にまだ半分残ってるから」
「そういう問題じゃないだろ……」
そして少し冷めてしまった餃子を口に運ぶ。
「恭二、ありがとうね」
突然の言葉に餃子を咥えながら顔を上げる。
「もし壊れちゃったら、一緒に買いに行こっか」
「ん……」
まだ呑み込みきれないまま、俺はそう頷いた。
