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みの恭

アイスキャンディ


溶けていくのは、誰のせいだろうか。

 みのりの家にはクーラーがなかった。厳密にいえばなかった訳ではなく、ついこの間壊れてしまったのだ。よって、その類のものは生ぬるい風を送る扇風機しかなかった。残念ながら窓を開けて扇風機を回したところで家の中は外と同じ、またはそれ以上の気温にしかならなかった。
 先程から暑い暑いとしか言わない恭二は、みのりの隙を見ては冷蔵庫を開けて涼しんでいた。あぁ、部屋全体が冷蔵庫になればいいのにと、恭二が現実味のないことを考えてしまうくらいに、みのりの部屋は暑かった。
 パシッといい音がしたと同時に「痛っ」と恭二が鳴く。電気代がだとか地球に悪いとか温暖化だとか、少し小難しい言葉がみのりの口から出てきて「すみません」と恭二はしぶしぶ冷蔵庫を閉め、その上の冷凍庫の扉を開けた。そういえばピエールと遊びに来た時に買ったアイスキャンディがまだ残っていたような気がした。十本入りのそれは、この前来た時に二本食べたから多分最後の一本が残っているはずだ。
「っしゃ」
ガサゴソと中身がなくなった箱の奥へ手を突っ込むと、計算通り最後の一本が残っていた。空箱捨てといてね、とみのりが言うので恭二は仕方なく空箱を畳んでゴミ箱に捨てた。



 リビングというには狭い部屋で、床に座りソファーを背もたれにしながら恭二はアイスキャンディを頬張る。
「うまっ……」
口の中に入れるとひんやりとしてとても気持ちがいい。甘いミルク味のそれは、暑さで溶け出した恭二の体力やら気力やらを気休めではあるが取り戻してくれた。あぁ、暑い部屋で食べるアイスはこんなにも美味しいものだったのかと一人感動する。恭二が生きてきた二十年のうち、こんなに暑い部屋で過ごすのは初めてだと思うくらいに暑い部屋だった。この貴重な部屋でアイスをすぐに食べてしまうのは何だか勿体ないような気がして、恭二はチビチビとアイスに口をつける。砂漠でオアシスを見つけた人はきっとこんな気分なのだろう。そんなことを考えながらこのささやかな幸せを噛みしめる。すると、右側から異様な視線を感じた。

「エロい」
「……はぁ?」
ソファーに座って雑誌を読んでいたみのりが、うーんと困ったような顔をする。そして『食レポの仕事NGだな』と言って恭二の手からアイスキャンディを取り上げた。
「返せよ!」
人が大切に食べていたアイスを取り上げるとは何事だと、恭二は反射的に吠えた。そんな恭二にみのりは少し驚いたが、取り上げたアイスキャンディをひと舐めするとニヤリと笑った。
「ごめんごめん、返すよ。恭二があんまりにも美味しそうに食べるから、つい」
つい、で奪われていい楽しみではない、と恭二はあからさまに不機嫌な顔をする。
「ごめんって。そんなに嫌そうな顔するなよ。ほら返すから」
返すから、とみのりは言うがさっきからアイスキャンディの先の方を恭二に向けてくるだけで、全く返す気がないように思えた。
「ほら、溶けるよ」
 溶け出した滴が今にも落ちそうになった時、ぐい、と唇に先端を押し付けられて、先程からのみのりの行為を恭二は理解した。忘れかけていた暑さがまた、じわりじわりとぶり返す。




「あくしゅみ……」
仕方なくみのりに餌付けされる形で、恭二はアイスキャンディを咥えた。
「うーん、恭二が悪い」
「エロオヤジ」
「『お兄さん』だろ?」
「んん゛っ!!」
喉奥まで突っ込まれ、恭二は思わず蒸せ返る。何すんだこのエロオヤジめ……。と思ったが流石に二度は口に出す気は起きなかった。
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