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【P×賢】ハッピーエンドのその先へ

「そろそろ出発の時間ですね。忘れ物はありませんか?」
いつも元気な賢が、少し緊張した面持ちで口を開いた。
うっかりお茶をこぼしたり、おっちょこちょいな賢に忘れ物の心配をされるのは少し面白い。しかし、それだけ賢も成長をしたということだろう。

空港はいつだって様々な人が行き交っている。
空を渡らないと行くことのできない場所へ、人々を送り出し、そして迎え入れる。
自分もアイドルたちの魅力を全国へ届けるため、この空港から何度も飛び立ったことを思い出していた。

「……搭乗ゲートが開いたようですよ。いよいよですね」
スーツケースの持ち手を、ぎゅっと握り直す。
「プロデューサーさん。長い間お世話になりました。」
賢の声色が少しだけ震える。
「またお会いできる日を楽しみにしています。では、いってらっしゃい!」
その言葉にゆっくりと頷いてから、私は賢に背を向けて歩きはじめた。


――カーット!!!


監督の声が空港内に響き渡る。
周りも緊張の糸が切れ、次々と会話を始める。
「よかったよ二人とも!! 素人にしちゃ上出来だ!!」
監督の言葉に、私も賢もほっとした表情を浮かべる。

アイドル事務所を題材にした映画を作りたい。
いつもアイドルたちがお世話になっている映画監督からそんな相談を受け、315プロダクションからも数名その映画に出演することが決まっていた。そこまではよくある話なのだが、撮影中にプロデューサー役と事務員役を演じる予定だった役者が急病で出演できなくなってしまうというトラブルが発生した。
空港を借りているのは当日だけ。エキストラで代役を立てるかも考えたようだが、監督のイメージするプロデューサー像と合致する人がおらず、その場に居合わせた私と賢が代役として出演することになったのだ。

「私の中でのプロデューサーのイメージは、やっぱり君だからね! 良い画が撮れて本当に助かったよ。眼鏡の君も、いい演技だったよ」
「あ、ありがとうございますっ……ううっ……」
賢は何故か涙を流しながら監督に頭を下げている。
この後はアイドルたちが空港に駆けつけるシーンの撮影なので、自分たちの出番は当分先だ。
涙の引かない賢を連れて、滑走路が見える展望デッキまで向かうことにした。

「ほーら、賢。飛行機だよ? 見える?」
「ぐすっ……こ、子供扱いしないでくださいっ……」
後ろから抱き上げるような真似をすると賢に怒られた。
「それにしても、賢がそんなに役に入り込むタイプだったなんて知らなかったよ。やっぱり賢もアイドルデビューしない?」
「だ、だって…………」
何か言いたげな賢の瞳から、またひとつ、ふたつと涙がこぼれ落ちた。

社長から海外赴任の通達があったのは、つい三日前のことだった。
さすがに即答はできなかったので返事はまだ保留にしている。
そして今、その話を知っている者は賢しかいない。
本当に偶々、偶然。映画の役柄と今の自分達のシチュエーションが重なってしまったのだ。
「……プロデューサーさんのいない事務所は、きっと寂しいです」
「うん」
「でも……ぼくは、プロデューサーさんには、たくさんのアイドルを活躍させて、世界中の人を元気に、笑顔にして欲しいって思っています」
「……うん」
賢は優しいから「行かないで」なんて絶対に言ってくれない。分かってはいるが、今はそれが少し寂しくもあった。
「賢、ありがとね」
「うわぁっ」
珍しく眼鏡が置かれていない賢の頭を、ここぞとばかりにわしゃわしゃと撫でまわした。
大丈夫。誰にも寂しい思いはさせないから。



出発当日。
事務所にはたくさんのアイドルたちが集まっていた。
皆それぞれ、緊張したようなどこかワクワクしたような表情をしている。
「それでは、これより315プロダクション宇宙支部の出発式を始めます」
パチパチとどこからともなく拍手の音が鳴り響いた。


「海外には行きません。今の時代は宇宙です!」
そう社長に啖呵を切ったのは、海外赴任の内示があった三ヶ月ほど前のことだった。
海外赴任もけして悪い話ではないが、正直なところ国内も海外もアイドルは飽和状態となっていた。
それだけ、アイドル業界が洗練されてきた証拠でもある。
だから更に大きなものを得ようと、新しい道を拓こうとするのならば、時代は宇宙なのだ。
幸い、315プロダクションの事務所はビルごと宇宙に飛ぶこともできるし、宇宙の某基地局にはステージ付きの315カイザーも備えてある。また、宇宙でマッスル銀河に迷い込んだとしても道案内は信玄さんに任せれば問題ないし、宇宙からの帰り道に迷っても理由ありもぐらのおやこに道を聞けば元の地球にだって安全に帰ってくることができるはずだ。
今現在、315プロダクションほど宇宙で活動ができる基盤が整っているアイドル事務所は他にないのだ。個性豊かな46人のアイドルたちを更に星のように輝かせ、魅力を存分に発揮させるには、海外よりも大きな、宇宙への進出が不可欠なのだ。
社長は私の強い言葉に大きく頷き「君のパッションには本当に驚かされるばかりだ」と、315プロダクション宇宙支部の設立と、宇宙での活動を認めてくれたのだ。

アイドルたちに宇宙支部の話をした時は本当に驚かれたが、海外赴任の噂を知っていた大人たちからは「プロデューサーと離れ離れにならずに一緒に仕事ができるなら、宇宙でもどこでも行ってやるぜ!」と宇宙進出を前向きに考えてくれた。
本当にどこまでも頼もしいアイドルたちである。


「それではみなさん、準備はいいですか?」
事務所の発射ボタンへ手をのばす。
「3……2……1……」
「「「パッション!!!」」」
みんなの掛け声とともに、事務所は宇宙へ宇宙へと舞い上がっていく。


ずっとずっとその先へ。
315プロダクションの新たなストーリーが、今、はじまる。


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