このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

序章





 序章





「わたしたちはなにも言わないわ。あなた自身がよく考えて決めなさい」

 部屋に閉じ籠っていると母にそう言われた。

 来夢が部屋に閉じ籠るようになって1週間が経ってから。

 先週になって突然倒れたのが来夢の悪夢の始まりだった。

 だれがこんな事態になるなんて思う?

 学校で突然倒れて人事不省に陥り、とりあえず病院に運ばれたが、すぐには原因がわからずそのまま入院。

 結果は……信じられない内容だった。

 選べ、と医師も両親も口を揃える。

 どちらの道を選ぶのも来夢自身だと。

「なんで俺ばっかりこんな目に」

 簡単に選べる内容じゃない。

 ケータイやパソコンには友達から、ひっきりなしにメールが届いている。

 それらにも返信していない。

 どう説明すればいいのかわからないからだ。

 自分でもなにをどう考えればいいのかがわからない。

 両親はとりあえず来夢の意志に任せるという姿勢を崩していない。

 いっそのこと強制してくれた方が楽なのに。

 後で両親を恨めるから。

 選ぶのと選ばされるのとは違う。

 責任の所在が違うのだ。

 わかっていて選んだ道ならだれも恨めない。

 部屋に置かれた鏡を振り返る。

 そこには紛れもない自分の姿が映っているが、それも今となってはなんだか白々しかった。

 元から女顔だとは言われていた。

 母親似で通っていた来夢だ。

 当然だが美少年と呼ばれる顔立ちで、その面差しは母親にそっくりだった。

『こんなふうに生まれる者は美形が多いとは聞いていたけど、どうやら事実だったようだねえ。きみも美形だし』

 呑気な医師の言葉を思い出す。

「他人事だと思って!!」

 腹立たしくなって立ち上がろうとしたとき、不意に姿が映っていた姿見が眩しい光を放った。

「え?」

 きょとんと振り返る。

 鏡には透き通るような青空が広がっている。

「なんで青空?」

 窓を振り返る。

 そこにあるのは来夢の心を象徴するような曇り空。

 青ざめて視線を戻す。

 青空はやがて部屋いっぱいに広がり来夢の足元まで及んだ。

「ええっ!?」

 ウッソだろうぉと叫びたいのに、声は喉に張り付いて出なかった。

 足元にあった部屋の床が不意に消滅したのだ。

 落下する。

 落下する。

 青空の中をどこまでも落下する。

 来夢は手足をバタつかせたが、掴まれそうな物はなにもない。

 手は空を切るばかり。

 おそるおそる下をみる。

 そこには豆粒のような景色が徐々に大きさを増している。

 どうしようかすこし考えたが、きっと眠っていて夢をみているんだと納得した。

 でないとこんな理不尽なことありえない。

 万が一異世界へおいでませ、的な展開だとしても、こんな死へと直結するようなのは願い下げだ。

 とりあえず起きよう。

 そう思って目を閉じた。



 来夢の現実が終わるとき、世界は朝を迎えることになるのだった。
1/1ページ
スキ