第四章 古の王家の末裔
それから改めてそこに立っているのがショウだと気付いた。
抜き身の剣を手にしているところを見ると襲われていたらしい。
妖魔の騎士は彼を先に助けに動いたのだろうか?
そこまで考えたとき、倒れていた魔族がひとり死に物狂いの形相でショウへと跳んだ。
「魔門。その力を寄越せ!!」
「冗談!!」
ショウが剣を構えようとするより早く妖魔の騎士が動いた。
爪が一閃すると魔族がその場に倒れ、やがて塵となっていった。
風のような動きに周囲は声もない。
「ウッ」
妖魔の騎士が変な声を出し膝をついた。
とっさにショウが膝をつく。
そうして肩を掴んで覗き込むと、一瞬だけ仮面の下の素顔が覗いた。
(ラーダッ!!)
髪や眼の色は違う。
だが、その容貌は間違いなくラーダだった。
まるで気付かれたことに気付いたように、ラーダがショウの腕を振り切る。
それからフラりと立ち上がると、もう何事もなかったかのようにグレンに声を投げた。
「今日のところはもう魔族は出ないだろう。粗方処理したからな。後はそちらの仕事だ。俺は消える」
「珍しくおれたちの前に姿を見せたのはどうしてなんだ? いつもは闇の中から出てこないのに」
こんな形で関わってこないくせにと言われ、ラーダがちょっと不機嫌そうな顔をした。
「俺の勝手だろう。使えないくせにうるさい王子だ」
それだけ言ってラーダの姿が消えた。
呆然と立ち上がった後でショウは掌に赤い色がついているのが目に入った。
「……血だ」
さっき妖魔の騎士の手に触れた手だ。
口許を押さえた手で腕を振り切られたときに手に触れた。
そのときについた?
つまりラーダが血を吐いた?
じゃあラーダとラーダ・サイラージュが親戚だというあの話も嘘?
もしかして同一人物だった?
ネジュラ・ラセン王は妖魔の騎士を妃に迎えたのか?
そう考えるとすべての辻褄が合う。
そう言えばふたりが出現したのは同時だ。
ラーダが姿を見せると妖魔の王も姿を見せた。
ふたりが同一人物だったのなら当然だ。
そしてラーダ・サイラージュが姿を見せると妖魔の王が姿を消した。
これも同一人物だったのなら納得するのは容易い。
グレッグの多用で身体を壊しかけているのか?
だから、血を吐いた?
ラーダが妖魔の騎士だとしたら、助けたいと思うのは歴史に対する挑戦かもしれない。
今の彼が改心していても、昔彼が大勢の人間を快楽のために殺した事実は消えない。
普通は許されないことだろう。
でも、ラーダはショウを助けてくれた。
なにかと気遣い力になろうとしてくれた。
助けたい。
その気持ちに嘘はないっ!!
「ネジュラ・グレン王子っ」
後始末をしていると突然ショウに名を呼ばれグレンが振り向いた。
「なにか?」
「もう誤魔化しはきかない。俺はラーダに逢う」
「まだ言ってるのか」
「誤魔化しは通じないって言ったはずだ。どう誤魔化そうと逢う。グレッグを多用したんだろう? あの薬は多用されると危険なんだ。その解毒剤はリョガーザしかない」
「リョガーザ? しかしあれは薬になるほど高級品は、そう簡単には手に入らないぞ?」
「俺の家には沢山んある。だから、リョガーザを取ってきたら、もう一度屋敷に行く。そのときにラーダの手当てをするから」
「……信じているんだな。おれのところにラーダがいると」
「ああ。俺の勘は外れないからな。逃げるなよ、ネジュラ・グレン王子」
それだけ言い置いてショウは走り出した。
その背を見送ってエスタがため息をつく。
あのとき、気のせいでなければ魔族は確かにショウに向かって「魔門」と呼んだ。
魔門とはラスターシャ王家を代表とする人と魔の狭間に立つ者。
この現場に駆けつけたのがメイディアの一団でよかったのかもしれない。
もしレジェンヌ側だったら、あの少年は魔門だというだけで、ラスターシャ王家と関連付けられ殺されていたかもしれないのだから。
「なにかと不思議な少年ですね、彼は」
「そうだな。おれが彼に勝とうとすること自体、間違っていたのかもしれない」
ラーダの問題が起きてから初めて、自分の間違いを認めた王子にエスタが顔を明るくする。
「……王子」
「事後処理を終えたら戻ろうか」
頷き合ってふたりは帰路についた。
リョガーザを手にするとショウはすぐにとって返した。
その胸元で双頭のラジャの首飾りが揺れている。
すこし走ってショウはそのことに気がついた。
「ヤバッ。うっかりしてた。だれも見てなかったよな?」
キョロキョロと視線を走らせて、ショウは首飾りを服の下に隠した。
風のような速度でメイディアの王子の屋敷に向かってショウは駆けていく。
その後ろ姿を見送る影があった。
「あの首飾りは……」
現王家派の将軍は苦い顔で遠くなるショウの後ろ姿を見ていた。
「後をつけろ」
「はっ」
部下に一言命じてすべては急速に動き始めた。
抜き身の剣を手にしているところを見ると襲われていたらしい。
妖魔の騎士は彼を先に助けに動いたのだろうか?
そこまで考えたとき、倒れていた魔族がひとり死に物狂いの形相でショウへと跳んだ。
「魔門。その力を寄越せ!!」
「冗談!!」
ショウが剣を構えようとするより早く妖魔の騎士が動いた。
爪が一閃すると魔族がその場に倒れ、やがて塵となっていった。
風のような動きに周囲は声もない。
「ウッ」
妖魔の騎士が変な声を出し膝をついた。
とっさにショウが膝をつく。
そうして肩を掴んで覗き込むと、一瞬だけ仮面の下の素顔が覗いた。
(ラーダッ!!)
髪や眼の色は違う。
だが、その容貌は間違いなくラーダだった。
まるで気付かれたことに気付いたように、ラーダがショウの腕を振り切る。
それからフラりと立ち上がると、もう何事もなかったかのようにグレンに声を投げた。
「今日のところはもう魔族は出ないだろう。粗方処理したからな。後はそちらの仕事だ。俺は消える」
「珍しくおれたちの前に姿を見せたのはどうしてなんだ? いつもは闇の中から出てこないのに」
こんな形で関わってこないくせにと言われ、ラーダがちょっと不機嫌そうな顔をした。
「俺の勝手だろう。使えないくせにうるさい王子だ」
それだけ言ってラーダの姿が消えた。
呆然と立ち上がった後でショウは掌に赤い色がついているのが目に入った。
「……血だ」
さっき妖魔の騎士の手に触れた手だ。
口許を押さえた手で腕を振り切られたときに手に触れた。
そのときについた?
つまりラーダが血を吐いた?
じゃあラーダとラーダ・サイラージュが親戚だというあの話も嘘?
もしかして同一人物だった?
ネジュラ・ラセン王は妖魔の騎士を妃に迎えたのか?
そう考えるとすべての辻褄が合う。
そう言えばふたりが出現したのは同時だ。
ラーダが姿を見せると妖魔の王も姿を見せた。
ふたりが同一人物だったのなら当然だ。
そしてラーダ・サイラージュが姿を見せると妖魔の王が姿を消した。
これも同一人物だったのなら納得するのは容易い。
グレッグの多用で身体を壊しかけているのか?
だから、血を吐いた?
ラーダが妖魔の騎士だとしたら、助けたいと思うのは歴史に対する挑戦かもしれない。
今の彼が改心していても、昔彼が大勢の人間を快楽のために殺した事実は消えない。
普通は許されないことだろう。
でも、ラーダはショウを助けてくれた。
なにかと気遣い力になろうとしてくれた。
助けたい。
その気持ちに嘘はないっ!!
「ネジュラ・グレン王子っ」
後始末をしていると突然ショウに名を呼ばれグレンが振り向いた。
「なにか?」
「もう誤魔化しはきかない。俺はラーダに逢う」
「まだ言ってるのか」
「誤魔化しは通じないって言ったはずだ。どう誤魔化そうと逢う。グレッグを多用したんだろう? あの薬は多用されると危険なんだ。その解毒剤はリョガーザしかない」
「リョガーザ? しかしあれは薬になるほど高級品は、そう簡単には手に入らないぞ?」
「俺の家には沢山んある。だから、リョガーザを取ってきたら、もう一度屋敷に行く。そのときにラーダの手当てをするから」
「……信じているんだな。おれのところにラーダがいると」
「ああ。俺の勘は外れないからな。逃げるなよ、ネジュラ・グレン王子」
それだけ言い置いてショウは走り出した。
その背を見送ってエスタがため息をつく。
あのとき、気のせいでなければ魔族は確かにショウに向かって「魔門」と呼んだ。
魔門とはラスターシャ王家を代表とする人と魔の狭間に立つ者。
この現場に駆けつけたのがメイディアの一団でよかったのかもしれない。
もしレジェンヌ側だったら、あの少年は魔門だというだけで、ラスターシャ王家と関連付けられ殺されていたかもしれないのだから。
「なにかと不思議な少年ですね、彼は」
「そうだな。おれが彼に勝とうとすること自体、間違っていたのかもしれない」
ラーダの問題が起きてから初めて、自分の間違いを認めた王子にエスタが顔を明るくする。
「……王子」
「事後処理を終えたら戻ろうか」
頷き合ってふたりは帰路についた。
リョガーザを手にするとショウはすぐにとって返した。
その胸元で双頭のラジャの首飾りが揺れている。
すこし走ってショウはそのことに気がついた。
「ヤバッ。うっかりしてた。だれも見てなかったよな?」
キョロキョロと視線を走らせて、ショウは首飾りを服の下に隠した。
風のような速度でメイディアの王子の屋敷に向かってショウは駆けていく。
その後ろ姿を見送る影があった。
「あの首飾りは……」
現王家派の将軍は苦い顔で遠くなるショウの後ろ姿を見ていた。
「後をつけろ」
「はっ」
部下に一言命じてすべては急速に動き始めた。