プロローグ
プロローグ
思えば幼い頃というのは無鉄砲だったなと思う。
今ならできないことも、あの頃は普通にやっていた。
たとえば女の子に声をかけること。
今なら苦手で簡単にはできない。
でも、昔は普通にやっていた。
ひとりポツンと立っていた女の子。
隣の街から引っ越してきたばかりで友達もいないらしく、いつも寂しそうに公園に佇んでいた。
人には親切にしなさいと、そう躾られていたから、寂しそうなのが気になって普通に声を投げた。
あれがミリアとの出逢い。
ミリアは最初の頃こそ引っ込み思案で、なかなか打ち解けてくれなかったが、一度打ち解けると明るくて優しい素敵な女の子だった。
妹ができた気がして構いまくった。
「優哉は本当にミリアちゃんが好きなのね」
そう言って母が笑えば、ミリアージュの母が微笑ましそうに言い返してきた。
「そんなことありませんわ。素敵なお兄ちゃんができたって、ミリアの方がユーヤちゃんを慕っているくらいで」
「でも、男の子と女の子だものね。この付き合いも年頃になるまでなのかしら」
「そうですね。ミリアの方かユーヤちゃんの方か、どちらかがたぶん普通に付き合うのは恥ずかしいって言ってくると思います。なんだか大きくなるって寂しいことですね」
頭上でそういう会話が交わされても、この頃はなんのことだかわからなかった。
付き合わなくなるなんて言われても、そんな日がくるなんて想像もできなかったのである。
でも、優哉が高等学園に入学するときに、ミリアが飛び級して同時に入学し、その言葉は現実となった。
優哉にはまったく抵抗がなかったのだが、ミリアの方がそろそろ羞恥心が出てきたらしい。
それまでのように「お兄ちゃん」とは呼んでくれなくなったのだ。
ふたりきりだったりしたら、普通に「お兄ちゃん」と呼んでくれる。
しかし他に人がいたら、絶対に「お兄ちゃん」とは呼ばない。
突然の変貌だったので、優哉は一時期嫌われたのかなと誤解したものだった。
でも、最近ではそれも疑問に思わなくなった。
何故かと言うと優哉の悪友、ケント・ネイルとミリアが付き合うようになったからだ。
恋人がいて他の男を、いくら幼なじみとはいえ、「お兄ちゃん」と呼んで慕う女の子というのは、ある意味で異常だ。
だから、すんなり納得できた。
幼なじみがただの幼なじみでしかなくなっていく瞬間とは、こういう感じなのだな、と。
優哉は和の国から移民してきた夫妻の子供で、この国の人間ではない。
そのせいで友達ができにくくて、実は初恋もまだだった。
この調子で恋人ができるんだろうかと、最近は悩みだしていた。
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