終章

「だからさあ、昔この辺にすごく大きなブラクっていうの? そういうのがあったんだって。でも、神の怒りに触れて一夜にして滅んだって」

 幼なじみで兄貴分の李宇(りう)の声に頷きながら、石畳の街並みを見ていた。

 大昔は深い森に覆われていたらしいこの一帯も、開発されてすっかり都会の顔をしている。

「でもさ、それが本当なら一体なにをして神様に怒られたのかな?」

 首を傾げてそう言えば李宇は物凄く複雑そうな顔をした。

「おまえに言われると父ちゃんや母ちゃんに怒られた、みたいな次元の話に聞こえるのはなんでかな?」

 わけがわからないとその顔に書いている。

 そんな顔されてもこっちが困る。

 たしかに人より呑気な気性らしいし、両親に言わせても温厚で、ほとんど怒ったところなんて見たことない変な子供らしいけど。

「おまえって時々変に大人びてるかと思うと、呆れるくらい子供なときもあるよな。変な奴ぅ」

「そうかな?」

 言いながら視線を流すと新しく出来た家から、小さな女の子が飛び出してくるのが見えた。

 とても長い髪をしていて、なんだかすごく可愛い子だった。

「胡蝶。引っ越してきたばかりの街で遠くに行ってはダメよ?」

「平気だよぉ」

 振り返ってそう言って笑う。

 強い陽射しを遮るように真っ白な大きな帽子を被っている。

 トコトコと歩いているかと思ったら、いきなりこっちを見てきた。

 ドキンとする。

 何故だか視線が外せなかった。

 その娘もじっと見ている。

 頬が紅潮してきているのが見えた。

 李宇がニヤニヤ笑って肘で小突く。

 いやだなと思ったけど合わせた視線は外せなかった。

 テテッと走ってきてその娘が目の前で微笑んだ。

 どこかで見たような微笑みだった。

 不思議な感覚。

 ――――懐かしい。

『ずっと待っていた』

 不意にそんな言葉が浮かぶ。

 そうしてその娘が微笑んだ。

 当たり前の約束された光景のように。

「わたし胡蝶っていうの。ねえ。あなたはだあれ?」

「ぼくは……」




 出逢いから繰り返す神話。

 それは運命という名の……愛。

 果てることがないから約束。

 何度引き裂かれても出逢う恋人たちの……。


                 (完)
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